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    鋼鉄少女伝説

    鋼鉄少女伝説 12 流速

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       12 流速


     帰り際に校門を見たが、キリコもユメちゃんもいなかった。

     キリコがいないことはどうでもよかったが、ユメちゃんがいなかったことはとても寂しかった。

     いいすぎてしまっただろうか。

     そんな考えが頭をよぎった。いや、気の迷いだ。そうに決まってる。

     これから帰って、しばらくぶりにじっくりとネットと戯れてから飯を食うのだ。帰る前に本屋に寄るというのもいいかもしれない。それともコンビニでなにか買って行こうか?

     結局、コンビニに寄って「季節のプリズム」とかいう、梅を使ったゼリーのようなスイーツを二つ買うことにした。ぼくは甘党なのだ。

     味に期待しながら家へたどりついた。

     びっくりした。

    「ユメちゃん!」

     門のところにユメちゃんが立っていたのだから。

    「浦沢先輩」

     ユメちゃんは顔を上げた。ちょっと血の気の色が薄い。

    「ど、どうしたんだよ、こんなところで」

     スイーツを二つ手にしていることを思い出した。

    「とにかく、ここにいてもなんだから、家へ入って」

     断っておくが、妙な考えを起こしたわけではまったくない。人間にはきちんと理性というものが備わっているし。

     いつものキリコとの二人連れではなく、ユメちゃんだけを伴って家に帰ってきたことで仰天した顔をしたのは母さんだった。

    「あら、あらあらあら、まあまあ」

     わけのわからないことを口走りながら、母さんはユメちゃんを部屋へと案内した。

     後からついていこうとしたぼくの腕を、母さんはむんずとひっつかんだ。

    「順昇」

    「なんだよ、母さん」

    「どこまで進んでるんだい」

    「そんな関係じゃないよ」

    「焦るんじゃないよ。まだお前は高校生なんだからね」

     なにを考えてるんだ母さんは。

     顔色を誤解したのか、母さんは続けた。

    「焦っちゃいけないけど、逃すのはもってのほかだよ。微妙な距離を取りつつ、お前をアピールするんだ。わかるね?」

    「もう行ってもいいかな」

     母さんから逃れて自分の部屋に入ると、そこではユメちゃんが正座して、姿勢を正して待っていた。

    「あの……ユメちゃん?」

    「浦沢先輩」

     ユメちゃんは、いつもの夢を見ているかのごとき瞳からは想像もつかないような、しっかりしたまなざしでこちらを見た。

    「な、なんだい」

     話し合う前から迫力で負けていた。まあ、憎からず思っている相手にこんな顔をされたら、圧倒されてしまうものだろうと思う。

    「先輩が、今日の昼に会長におっしゃられたことは、本気ですか」

    「え、その、本気って、あの」

     相手がキリコだったら、本気だバカ、二度とぼくをこんなことでわずらわせるんじゃない、といってやるところだが、目の前にいるのはユメちゃんだ。

    「本気だとしたら、いいえ、冗談だとしたってひどすぎます」

    「あ……え……」

    「あれだけのことをいわれて会長がどれだけショックを受けたと思っているんですか。会長だけじゃありません。あたしだって、あたしだって……」

     もとから透き通るように白い顔が、さらに白くなったような気がした。

    「いや、その、ユメちゃん」

     まるでサンドバッグ状態だ。言葉のパンチを食らい続けるまま反撃もできない。

    「まあ、その、なんだ、あれは、ぼくもいいすぎたと思っているから」

    「先輩には、これだけは聞いておいていただかなくてはなりません」

     ユメちゃんの目に光るものがあった。それを見て愕然とした。なんてこった。

     ユメちゃんを泣かせてしまった!

     こうなってしまったらひたすら頭を下げるしかない。

    「あたしは……」

     ユメちゃんは続けた。

    「あたしはみんなでゲームしているのが好きでした。会長と、浦沢先輩と、三人で。あたしがこれまでほとんど会長としかゲームをやっていないからかもしれませんが、浦沢先輩とゲームをやるのは、ほんとうに楽しかったんです」

    「……」

    「会長も同じだったと思います。会長は、そういうことはあまり口に出すかたではありませんが、でも去年ずっとご一緒していて、いわないこともわかるようになったつもりです。会長も浦沢先輩とのゲームを楽しみにしていたんです!」

    「……」

    「だからあたしは、先輩があんなことをおっしゃられたのが、悲しくて、つらくて……お願いです。どうかまた、あたしたちとゲームをやってください!」

     首を縦に振っていた。弱いやつというならばいえ。

    「よかった」

     ユメちゃんが身体から少し力を抜くのがわかった。

     ぼくは、紙袋から梅のスイーツのカップを取り出した。

    「ユメちゃん、食べようよ」

     スイーツはすっかり室温まで温まっていた。

    「いいですが、約束してくださいませんか」

    「なにを?」

    「もうしばらく会長やあたしとゲームをやっていただくことをです」

    「約束するよ」

     本心からそう答えた。

    「よかった」

     ユメちゃんは、にこっと笑った。

     寂しかったぼくの部屋は明るくなった、という古い歌の意味を実感した。心の中でじっくりとかみしめる。

     スイーツは甘かったのなんの。


         予告

     いまや兵士をとどめる理由はなにもない。

     若き戦闘機械は戦地へと向かう。

     肉が切り裂かれ血が噴き出す争いの場所に、

     将たるものは何をまとって現れるのか。

     次回、「第一種軍装」。

     しょせん戦塵にまみれる運命ならば。

    (ナレーション・銀河万丈)

     
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    ~ Comment ~

    Re: 風月時雨さん

    そうおっしゃられるのはごもっともです。

    そうですねえ……ネタバレになってしまうかもしれませんが、ユメちゃんは「自分が順昇くんに惚れられている」などとはまったく自覚していない鈍い娘で、その視点は順昇くんのそれと120度くらい違う方向を向いてるんです。

    そういった視点から見た意味では、ユメちゃんは全力でもって私心なく頑張っているのですが、まあこの小説の登場人物、バカばかりですので、「ゲームばっかりやってるとこうなっちゃうよ」、というサンプルケースと思っていただければ……(回答になってないかな汗)

    ハグプリが重厚でしたから、今日見たスタートゥィンクルプリキュアは正直ものすごく軽薄に思えた。シリーズ中の息抜きみたいなもんかのう。

    NoTitle

    こんばんは。厳しめの感想になってしまいますが
    (こういった感想がご迷惑でしたら、今後は控えますので
    お手数ですが教えて頂けると幸いです)、今回のお話では
    ユメちゃんが順昇君の気持ちを酌んでくれてなくて
    一方的に被害者ぶっているように感じて心が痛みました…。
    ユメちゃんやキリコちゃんが、少しでも順昇君の気持ちや
    状況を考えてくれて、罪悪感を抱いて謝ってくれていたら
    すっきりしましたが…私が順昇君だったら…相手が想い人とはいえ、
    確実にキレていたと思うので、もやっとしちゃいました。(今後そう
    いった描写が入るようでしたら、早まった感想で大変失礼しました)
    そして泣かせただけでうろたえちゃう順昇君、優しすぎですよ~!
    女って結構簡単に泣けちゃう生き物なので、そんな気負わなくても
    …と思っちゃいます。人生損しちゃいそうですね。そして緊迫した
    状況なのに、空気を読めていないお母様の発言が面白かったです!

    先日はコメントありがとでした!知人様からたしなめられて
    しまった程、mixiでプリキュアをアツく語られたのですね!
    テーマ、アイデア、ドラマ…ハグプリはまさに!野心作でしたよね。
    一年続いた重厚なドラマ、先日の後日譚だけでは物足りなさも
    感じてしまいますよね。なかなか難しいとは思いますが
    私も円盤の映像特典等で、みっちりして欲しいと思います!
    では読んでくださり、ありがとでした!

    Re: 椿さん

    ユメちゃん本人には「女の武器」を使っているという自覚が全くないのがもうなんというか(笑)

    ゲームばっかりやっているとこーゆー人間になるのであった(そうか?(笑))

    NoTitle

    あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

    ああーこれは逆らえない。最強だ。どんな逃亡兵も戦場に連れ戻されてしまいますわ。
    お母さんの反応に笑いました。
    戻って来た順昇くんにキリコちゃんがどんな反応を見せるのかも楽しみですね。
    次回も楽しみにしております!
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