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    鋼鉄少女伝説

    鋼鉄少女伝説 13 第一種軍装

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    stella white12

       13 第一種軍装


     ユメちゃんは大胆だった。

    「いいのかい? そんな格好で。着替えたほうが」

    「いいんです。着替えている余裕なんかありません。もうすぐ五時です」

     ユメちゃんは制服のままで『フォートレス』に入っていった。その後からきょろきょろとあたりを見回しながらついていく。

     うわあ、受験生だというのに、補導されたらどうしよう。

     できることは、教師の巡回パトロールが今日は休みでありますようにと、天にまします神に祈ることだけだ。

     話は三十分前にさかのぼる。

     家でスイーツを食べてから、ユメちゃんはすっくと立ち上がった。

    「さあ、行きましょう、浦沢先輩」

    「え? どこへ」

     目をぱちくりさせていると、ユメちゃんは、ちょっと怖い顔になった。

    「どこへ、じゃありません。例のゲームセンターです」

     怒った顔もまたかわいいのではあるが。

    「えっ! ちょっと、何しに」

    「決まっているでしょう。会長とゲームしにです」

     それは無理じゃないのかと正直思った。

    「キリコが『フォートレス』にいるっていうのか? 一人で、こんな時間まで? いるわけがないと思うんだけど」

    「いいえ。会長は絶対にいらっしゃるはずです。なんなら、これを使ってかけてみてください」

     ユメちゃんは携帯電話を取り出した。完全タッチパッド式ではない、古風なタイプの機種だ。

     受け取った。でも。

    「キリコの携帯ナンバーは?」

    「ワンタッチダイヤル三番です」

     ぼくはちょっとどきどきしながら、3と書かれたボタンに指を触れた。

     発信音。そして電話が取られる音。

    「もしも……」

    『ユメちゃん! どうしたのよ!』

     背後からは、ちょっと耳にするだけでもなんだかわかる独特のミュージックが聞こえてくる。

    「お前まさか、ほんとうにゲームセンターにいるのか?」

    『順昇!』

     キリコの声が悲鳴のようになる。

    『順昇、あなたがなんでユメちゃんの携帯からかけているのよ。そもそも、順昇、どこからかけているのよ。もしもユメちゃんになにかやってごらんなさい、あたしが地の果てまでも追いかけて、バラバラのズタズタに』

     バラバラ殺人事件の被害者にされてはかなわない。

    「今はぼくの家だよ。ユメちゃんに説得されちゃってね」

     そこまで話したとき、ふと頭に妙な考えが浮かんだ。あまり考えたくない可能性ではあったが。

    「まさかお前がユメちゃんを、ぼくを説得するためによこしたんじゃないだろうな」

     それに対する答えは両方から上がった。

    「これはあたしの独断です!」

    『どうしてわたしが「狼の巣」なんかに、かわいいユメちゃんを送り込まなくちゃならないのよ!』

     ぼくは携帯を耳から離してユメちゃんを見た。

    「独断?」

     ユメちゃんはやりきれない怒りを押し殺すような顔をしていた。

    「はい。会長はそれはショックだったみたいで、あたしと会おうともしないでそのまま帰られてしまったんです。だからあたしは、会長のためにも浦沢先輩に来ていただこうと思って……。それなのに、それなのに」

    「いや、わかったよ。ぼくが悪かった」

     あわててユメちゃんをなだめ、再び電話に戻った。

    「それでお前がいるのは? いつものゲームセンターでいいのか?」

    『他にどこがあるっていうのよ』

    「今から行くから待っていてくれ」

     電話を切り、ユメちゃんに返した。

    「これでいいんだろう?」

    「ええ!」

     ユメちゃんは今や元気のかたまりになっていた。門で待ちぶせていたときの悲愴ぶりなんてどこへやらだ。

    「早く行きましょう、浦沢先輩」

     まるでぼくを引きずって行きかねない勢いだ。

    「ちょっと待ってよ。せめて、着替えさせてくれってば」

     結局先に書いたとおり、着替えたのはぼくだけで、ユメちゃんは制服のままという事態になったわけなのだが。

    「キリコはどこだ?」

    「ええと、あ、いました。あそこです」

     キリコはちょうどトイレから出てきたところだった。

    「遅かったわね順昇」

     そばにやってきたキリコは、開口一番こういった。このフォートレスではおなじみになっている、よそ行きのキュートな眼鏡姿だ。今日は、真っ白なブラウスにタイトスカート。似合っていないわけではないが、あいつにはもっとワイルドなほうが合うんじゃないだろうか。

     ファッションはおいといて。

    「なんだよ。これでも、急いで来たんだからな」

     反論すると、キリコは目をそらした。

    「忠臣蔵の塩谷判官の心境、ということよ。そう思って」

     ぼくには、その言葉の意味はなにがなんだかさっぱりだった。

    「なんだよそれ」

    「塩谷判官はね、大星由良助にこういったのよ。万感の思いを込めて『待ちかねた』ってね」

    「知らないよそんなの」

    「歴史と文化を学ぶ者の基礎教養よ。……今何時?」

     いいながら腕時計をまさぐる。例のクロノメーターが腕にはまっているんだから、黙って見ればいいのに。

     ユメちゃんが律儀に答えた。

    「四時五十五分です」

    「だったら、まだ間に合うわね」

    「間に合うって?」

     自分でもいささか間抜けな問いを発した。間抜けだというのは、答えははじめからわかりきっていることだったからだ。

    「忘れたの?」

     キリコは笑顔を見せた。

    「わたしは、『午後五時の女』なのよ」

     ぼくたちはカードを出すのもそこそこに、MAPに飛び込んだ。ギャラリーの間に同意のようなものができていたのだろう、先客はおらず、するりと入ることができた。



        予告

     古都。神に祝福された神聖な街。

     古都。神の祝福を求める人間たちにより際限なく血が流される呪いの街。

     兵を整え戦闘準備を整えたキリコの前に、

     はかり知れぬ力を持った男が現れる。

     次回、「強敵」。

     強敵が、常に敵であるとは限らない。

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    ~ Comment ~

    Re: 風月時雨さん

    はい。順昇くんはユメちゃんのことになるともうどうしようもないバカになるのです。

    それさえなければ、話は落ち着くところに落ち着いたのですが……と、将来の展開を暗示してみる(笑)

    この三人、どいつもこいつも根本的なところで周りが何も見えていないので(笑) ああ青春だなあ(笑)


    なるほど、映画の後ですか。映画は見たいけど時間がなかなか取れないです。映画館が微妙な位置にあるので……。

    プリキュアは対象年齢低めな時にものすごくクリティカルなネタをふってくることがおーおーにしてあるので注意しないと足元をやられる(笑) まあ楽しんでみてます(^^)

    NoTitle

    こんばんは。怒った顔もまたかわいい…
    もう本当、順昇君はゆめちゃんに弱いですね(笑)
    キリコちゃん、狼の巣って…(苦笑)キリコちゃんは
    クールで、再会してからも淡々とした感じでしたが
    塩谷判官の心境…はキリコちゃんなりのデレの部分
    だと感じました。そしてやはり強敵は外せません
    よね~引き続き楽しみにしています!

    先日はコメントありがとでした!イラスト、どれも
    かわいくて素晴らしいとお誉め頂け感激です☆
    予告させて頂きますと、私の所での今月の
    プリキュア更新は映画感想の時に予定していますが
    お話をしたいと思わた時は、関係ない最新記事でも
    過去のプリキュア記事でもどこでも大丈夫です!
    今年は前年より対象年齢が低めのイメージで、個人的には
    Goプリ→まほプリの時期と同じ間隔だったりですね。
    では読んでくださり、ありがとでした!!

    Re: 椿さん

    今度の相手は強敵です。シチュエーションがこれまたつらい。

    お楽しみに~!

    NoTitle

    再びチーム結成ですね!
    しかし次回、強敵が立ちふさがる? 予告の最後の一文が気になりますね。続きを楽しみにしております。
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