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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ81位 完全犯罪 小栗虫太郎

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     中学生の時、創元の「小栗虫太郎集」で初読。感想は「なんじゃこりゃ?」だった。あれから30年。「黒死館殺人事件」を通しで5回以上読み、小栗虫太郎に対する一種の「耐性」をつけたうえで再読。はたして面白いのかつまらぬのか。

     感想。面白い。ムチャクチャ面白いぜ小栗虫太郎。だけど、「読む人を選ぶ作品」であることも事実。それほどまでに、このデビュー作はイカれている。新人がデビューするときにいちばん大事な要素はプロットでもキャラクターでもなく「インパクト」だ、ということがよくわかる。それにしても、この小説を最初に読んで評価した甲賀三郎と、喀血で倒れた横溝正史のピンチヒッターに据えた水谷準、すごい慧眼だ。

     冷静な目で見ると、本書の探偵役ワシリー・ザロフの推理からしてツッコミどころ満載であるのだが、作者の妙で異様な教養と、文章の異常な迫力は、読者の安易なツッコミを許さない。二転三転する推理は、ツッコミどころにツッコミどころを重ねたようなもので、「どこからツッコんだらいいかわからない」ようなものなのだが、作者の文章の異常な迫力の前に「別にツッコまなくてもいいか……」と思えてしまう。謎もすごい。単なる密室殺人の犯人を捜すだけでなく、動機の謎に暗号までからみ、錯綜は錯綜を呼び、たった百枚の短編小説なのにボリューム感がすごいのだ。

     「東西ミステリーベスト100」の解説にあるとおり、「黒死館」などに比べると小栗虫太郎にしてはアクが薄い作品ではあるのだが、通常の読者には、いったい自分が読んでいるのが何なのかわけがわからなくなると思う。

     小栗虫太郎は天性の詩人なのだ。その天分は「探偵小説」や「秘境小説」を書いたときに発揮されるのだ。もし、SFを書こうとしても、小栗虫太郎の詩才はSFのフォーマットを逸脱した方向にしか働かないだろう。そこに「早すぎたSF作家」である夢野久作との相違がある。戦後早逝せずに「悪霊」を完成させていたとしても、それが傑作となったかどうかは疑わしいといわざるを得ない。

     まあそんなことはどうでもいい。小栗虫太郎の作品は、小栗虫太郎の世界がわかるやつだけでにやにやしながら楽しむのがいいのだ。小栗虫太郎とはそういう作家なのだ。小栗を慕ってか、麻耶雄嵩や京極夏彦はじめ多数の作家が自分なりの小栗虫太郎的な超論理ミステリを書いているが、やっぱり小栗には及ばない。それでもそうした継承者がいるだけ、小栗虫太郎は、屹立した孤峰である夢野久作よりは、ある意味幸福な作家ではないかと思えるのである。
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    ~ Comment ~

    Re: 夜ひゃくら見物さん

    小栗とクトゥルフはいったんハマると底なし沼ですから気をつけてね~(笑)

    読んでみたいなあ小栗虫太郎のクトゥルフ神話……。きっと人外魔境プラス黒死館のようなものすごい作品ができたと思うんだがなあ。惜しい。

    NoTitle

    >「三大奇書」を読んでるからって偉い
    えー、だって、「三大奇書」ってブランドがついてりゃSNS映えするじゃん。映えりゃぁ「いいね」がイッパイつくだろうから、それはつまり「エライ!」。
    みたいな?(爆)

    >にひにひ笑いたくなってくる
    実は、昨日買い物ついでに本屋寄ったらあったんですよ、それ。
    いや、「あ!」と思ったんですけど素通りしちゃいました(^^;
    来週、パラパラ見てみます。

    >SFファンの友人
    ま、SFファンはね。表紙におっ●いが大きな女の子のイラストがあって、あとは宇宙でチャンバラやっていればそれで全てOKって人たちですから。 ←すごい偏見(^^;
    • #20033 夜ひゃくら見物 
    • URL 
    • 2019.04/07 16:44 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 菜の花や ひゃくは東に 日は西に(爆)さん

    「三大奇書」を読んでるからって偉いわけでもなんでもないので、読む人は面白いから読んでるんですよ(笑)

    戦前の学生は、いまでいう「クトゥルフ神話」を読むような感覚で読んでたんじゃないかな。小栗虫太郎がラヴクラフトを知っていたかはわかりませんが、知っていたら絶対、クトゥルフ神話に手を出していたと思う(笑)

    あの異様な迫力の文章をちまちま読んでると、にひにひ笑いたくなってくるんです(笑) そのトリップ感が最高(笑)

    SFファンの友人は、「キ〇ガイのたわごと」と一蹴してましたし、面白く思えない人にはほんとに面白くない小説ですからねえ。

    NoTitle

    >小さな栗に巣食っている虫、に自分を例える
    虫といえば文字通り虫のごとく数あるわけで、よりによって、なんでその虫!?
    栗好きの私としては、逆に興味出てきちゃったな(笑)

    「黒死館」というのはね、ほら、今って結局ネットで「三大奇書(でしたっけ?)」とかなんとか紹介されてることで、変にブランド化されちゃって。
    これ読んでるオレ/わたしってスゴイでしょ?的なノリが出来ちゃってるとこがイヤっていうのもあるんですよね。
    たかが小説じゃねーか、なんて思っちゃう(笑)
    ネットで書き込みをしているのは中高生くらいが多い(んだろう)から、ネットで評判になっているモノの高評価って、所詮はその年代の評価でしかないっていうド偏見もありますしね(爆)

    ただ、虫太郎の虫が栗の虫だっていうのは面白いなぁー。
    やっぱり栗が好きで。めんどくさいんだけど、食いたくて一生懸命栗を剥いたら、虫がいて食えなくて「コノヤロー!」的な。
    あの何とも言えない腹ただしさを自分の性格?小説?に例えたんだろうか?(^^ゞ
    うーん…。
    ちょっと読んでみたくなった(^^;
    • #20011 菜の花や ひゃくは東に 日は西に(爆) 
    • URL 
    • 2019.03/31 16:17 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくりょう島~ひゃくの鳴く夜は怖ろしいさん

    「むしたろう」ですね。本人はどう読ませるつもりで突けたかはわかりませんが、一般には「むしたろう」で通ってます。小さな栗に巣食っている虫、に自分を例えるんだから、まあ、諧謔がわかる人ではあったらしい。

    えー、「黒死舘殺人事件」おもしろいのになー、何度読んでもそのたびにわけがわからなくなるあのトリップ感こそまさにオカルト(笑) ぶっちゃけた話、そのトリップ感がない「黒死館」なんて、リーダーズダイジェストの悪名高い「小説ダイジェスト」よりつまらないぞ(笑)

    Re: 面白半分さん

    まあ小栗虫太郎は「マニアのアイドル」みたいなもんですから。黒死館がヘビーすぎるから、未読の読者に、そこへの入門用にしよう、ということで、SRの会か京大ミステリ研あたりが組織票入れたんじゃないかな。法水主役の短編もいくつかありますが、ちょっとパンチ力に欠けるうらみがありますしね。

    たしかに、短いだけ黒死館よりとっつきやすいです。中身はアレだけど(笑)

    NoTitle

    >小栗虫太郎
    名前だけはさすがに知ってました、小栗判官、…じゃなかった、小栗上野介、でもなかった虫太郎!
    でも、むしたろう?ちゅうたろう?どっちだ!?(^^;

    >「黒死館殺人事件」を通しで5回以上読み
    同じ本を続けて何度も読むって、青春時代じゃないんだからぁ~(笑)
    ていうか、ほとほと尊敬しました!w

    >小栗虫太郎の作品は、小栗虫太郎の世界がわかるやつだけでにやにやしながら楽しむのがいいのだ
    そうそう!それがいいと思います。
    いや、興味ないわけじゃないんだけど、この齢になるとさ、メンドくさい本は読みたくない!
    っていうのはあるかなーと(^^ゞ
    ブリッツさん。
    そのうち、その黒死館をわかりやすく、かつ面白ーくした小説を書いてくださいませ。←他力本願(^^)v
    • #19990 ひゃくりょう島~ひゃくの鳴く夜は怖ろしい 
    • URL 
    • 2019.03/24 16:14 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    「小栗虫太郎集」収録ですか。ならば読んでいる筈ですが思い出せないです。
    (なにしろ「黒死舘」も数回読んで何一つ理解できていない)

    しかし本作(100枚の短編!)もランクインするとは小栗虫太郎もなかなかやりますなあ
    といっても先の赤川さんや西村さんに票をいれにくい雰囲気はあり、そいうった反動が小栗票へつながっているんでしょうね。




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