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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ81位 あした天気にしておくれ 岡嶋二人

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     「焦茶色のパステル」初読時の興奮冷めやらぬうちに読んで、これまた強烈に面白かった覚えがある。けさがた病院へ行った時、待合室で、その記憶だけを信じて再読。再読の結果だが、もうこれが強烈に面白いサスペンスで、会社の昼休みを全部潰して、息も継がずに読んでしまった。

     とにかく、ミステリファンなら食わず嫌いをよして一度は読んでもらいたい、凝りに凝った「誘拐もの」の傑作である。岡嶋二人が、マニアから「人さらいの岡嶋」と呼ばれているくらいに誘拐ミステリーの傑作を書いていることは有名だが、世評ではそんな岡嶋二人の誘拐ものの決定版といわれている「99%の誘拐」よりもある意味面白いのではないかと思った。なんというか、「99%の誘拐」では、犯人があまりにもスーパーマンすぎるところがあるように思う。その点、こちらの「あした天気にしておくれ」の実行役は、いくつもミスを犯す。それが思わぬサスペンスを生み、二転三転四転する強烈なまでのプロットの先を読ませないのだ。

     そもそも、本作で誘拐される対象は「馬」である。生後一年程度の仔馬なのだ。そんな仔馬を誘拐するなんてことからして尋常の発想ではないが、舞台を競馬界に設定し、その仔馬を「時価三億二千万円のサラブレッド」として、必然性とリアリティを与えるというのは、余人の及ぶ発想ではない。かくして、身代金二億円の誘拐事件は発生するわけだが、岡嶋二人の悪魔的な発想は、この誘拐事件をとんでもない視点から描くのである。そこから先の、誰が敵だか味方だかわからないあわただしいにもほどがある一週間の顛末は、ぜひとも講談社の電子書籍で本書を入手して読んでいただきたい、としかいえない。くそう、こんないい本がもう本の形では売っとらんのか。

     もう、筋もメイントリックも何から何まで覚えているのに、一気読みした上に終始鼻面を引きずり回されてしまった。発想がぶっ飛んでてプロットがしっかりしていて細部がリアルでしかも文章がうまいんだから、もうなにもいうことはない。

     それでも、「誘拐ミステリ」を離れたうえで、「競馬ミステリ」として本書が「焦茶色のパステル」より上か、というと、わたしの好みからすれば、SFとも見まがうような「焦茶色のパステル」のショッキングな真相のほうを高く評価したい。この「あした天気にしておくれ」に江戸川乱歩賞を受賞させなかった選考委員の狭量ばかりが責められがちだが、それはこの稀有な作家に「焦茶色のパステル」という超弩級の傑作でデビューさせてやりたい、という、ミステリの神様のご配慮だったかもしれないのであるから……なんちて。我ながらひどいにもほどがある選考委員へのイヤミだな。
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    ~ Comment ~

    Re: 夜ひゃくら見物さん

    別にあの人たち、競馬ばかり書いてるわけじゃなくて、野球もボクシングもダイビングもなんだって書いてますけど(^^;)

    でもなぜか、「誘拐」と「競馬」がからむと、メチャクチャいい仕事をしますね。そういった意味でも、岡嶋名義の作品はもっと評価されていいと思います。

    NoTitle

    >トリックメインとは正反対のところにいます
    ふーん。そうなんだ。それは色眼鏡だったかも。
    なら読んでみよっかなーと、思ってアマゾンを見て、「あ、競馬か。なんか他で面白そうなのないかな?」とそこに至っちゃうと(^^;
    競馬って、やればやったで面白いってきもするんだけどなー。
    なんでこんなネガティブなイメージなんだろ?
    一人になってから(名前を憶えてない)は何冊か読んだんで、読んじゃえば面白く読めるはずなんだろうなぁ…(^^)/
    • #20032 夜ひゃくら見物 
    • URL 
    • 2019.04/07 16:35 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 菜の花や ひゃくは東に 日は西に(爆)さん

    やっぱり、日本での、競馬へのマイナスイメージが強すぎたんでしょうね。そんな中、スマートに競馬ミステリーという題材に切り込んだのはいいのですが、競馬ファンからはスマートすぎて嫌われ、スマートな小説のファンからは競馬ということで嫌われ、まあ、そういうところが岡嶋二人らしいっちゃらしい(笑)

    トリックメインとは正反対のところにいますよ、岡嶋二人。あくまでもシチュエーションの面白さを、絶妙にうまい文章で書いていく作家です。そのうえでとんでもない真相を弄してくるので、そこにやられる人はやられちゃう。

    特に、というおすすめは、「焦茶色のパステル」「あした天気にしておくれ」「チョコレートゲーム」「99%の誘拐」「クラインの壺」ですね。アハ体験がほしければ、ゲームブック「ツァラトゥストラの翼」をノーヒントクリアできれば、最高の「アハ体験」ができます。わたしは自分の力で暗号が解けた時小躍りしました(笑)

    NoTitle

    岡嶋二人は読んだことないかもしれない。
    1人になってからは、何冊か読んでるんですけどね。
    上で面白半分さんっていう方も書いているけど、競馬とか競走馬ってだけで、「まー、いいや」ってなっちゃうんでしょうね(^^;
    つまり、知り合いから「面白いよ、ディック・フランシス」と勧められるんだけど、結局読まなかったといという、全く同じパターン(笑)
    ただ、この岡嶋二人の場合は、なんとなくイメージとしてトリックメインというのがあるのも手を出さなかった理由だと思いますね。
    だって、1人になってからは本屋で見かけて、面白そう!と何冊か読んだもん(^^)/
    • #20010 菜の花や ひゃくは東に 日は西に(爆) 
    • URL 
    • 2019.03/31 16:00 
    •  ▲EntryTop 

    Re: miss.keyさん

    この作品が江戸川乱歩賞を取れなかった理由のひどさはいまでもミステリファンの間の語り草になっていて、

    第一の理由が「トリックに先例があるから」
    岡嶋二人の反論「そんなマイナーにもほどがある短編まで読んでないし細部も違う」

    第二の理由が「トリックが実現不可能だし実態とも違うから」
    岡島二人の反論「それは現在(乱歩賞選考時)のことで、これを書いた時点と、作品内の日時設定では、まだ法改正が行われていないためトリックは実現可能で現実にも即している」

    まあ、そんなこんなで悶着はあったけど、この小説が名だたるミステリファンの投票で81位にランクインしていることから、ほんとうに面白いかどうかはご判断下されたく……。

    初っ端に大傑作を出すと後が続かないらしい

    「異邦人」が大ヒットし過ぎたせいで二作目以降がさっぱり売れんかった歌手が居るそうな。何かの機会に二作目の曲を聞いた事があるが、あれはあれでなかなか良い曲でありました。が、一作目を越えるインパクトが無かったが為に全くの空気にされてしまったそうである。哀れ。
     そう言う訳で選考委員はミステリー作家をあわや一人殺してしまう所でしたな。
     ときに、誘拐したお馬さんは無事桜節になりましたか?三億二千万円の桜節、さぞ食べでががが・・・

    Re: 面白半分さん

    こんな面白い小説を食わず嫌いで読んでないってのは残念ですなあ。

    岡嶋二人は作者が「十日間で書かされた駄作」と卑下する作品まで含めてどれを読んでもハズレがない、宮部みゆきや東野圭吾以上に駄作を書かない作家なので、もっと読まれてもいいと思うんですけどねえ。まあアベレージが高すぎて「これという一本」はといわれると悩むのでベスト企画には不利な作家ではありますが。

    NoTitle

    筋もメイントリックも覚えているのになおかつ面白いというのは理想のミステリですね。
    たぶん。食わず嫌いで読んでいない。
    舞台が競馬界ってところで後回しにしてしまった今に至るのかも
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