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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ85位 暗い落日 結城昌治

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     大学のころ、行動範囲内の古本屋で、「真木」シリーズ全巻と、「佐久」シリーズ全巻を買ってひたすらむさぼり読んだ。もちろん、旧版の講談社文庫版である。「真木」も「佐久」も、主人公の私立探偵の名前である。基本的に姓でしか呼ばれない。最近では、原尞の「沢崎」なんかがその系列に当たる。ハードボイルド書きだったら一度はやってみたい文体だ。内容はすばらしかった。特に、「真木」シリーズ第二巻の「公園には誰もいない」なんて震えがくるくらいよかった。日本のハードボイルド文学のベストではないにしろ、マイフェイバリットな一作である。ラストに流れる物憂い声のシャンソン「公園には誰もいない」がもうよくってよくって。

     「暗い落日」の話だった。当時も読んだが、ものすごく暗い作品だったことしか覚えていない。まあ、「真木」シリーズは、ロス・マクドナルドのリュウ・アーチャーものを意識して書かれたハードボイルド小説なので、扱う事件が家庭の悲劇ばかりで、話が明るくなりようがない。でもまあ、鬱屈した中に読むにはいいかもしれないな、と、ファミレスでロコモコプレートを食いながら本を開いてみた。

     感想。面白い。結城昌治、やっぱりうまい作家だ。読者の鼻面をぐいぐい引っ張って行きながらも、プロットの先を予測させない。常に読者の前方には罠とミスディレクションがばらまかれ、ラストで真相が突きつけられた時には、読者はそれがまさに目の前にぶら下がっていたことに気づいて、気持ちいい敗北感とともに、家族を襲った悲劇にただ瞑目する……。

     この「瞑目」感は、リュウ・アーチャーの視点にはない。アーチャーはひたすら透徹した視点から事件を追い、暴き、それだけである。彼に比べたら、真木はそうとうウェットだ。結城昌治の文体が乾いていればいるほど、真木の内面の感傷が浮き彫りになっていくのである。ハードボイルド小説の主人公の私立探偵でありながら、やっぱり日本人なんだろう、真木という男は。

     でも、トータルで見ると、わたしは「真木」シリーズよりも、「真木」の前段階の習作としてみなされている、「佐久」シリーズのほうが、ユーモアがあるぶん好きだ。事件は真木の扱うそれほど悲劇的はないが、人生の妙味は感じさせてくれる。

     ちなみに読者の高い評価を受けた「真木」シリーズだが、発表されたのはわずか3作。晩年の結城昌治に、「このミス」で、「われわれは4作目の『あれ』を待っているのです」とラブコールを送った人たちがいた。ものすごく共感……。
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    ~ Comment ~

    Re: 秘密結社「ひゃくひゃくひゃく団」さん

    >結城昌治

    それでも一時の入手しづらさに比べればだいぶマシです(^^;)

    真木シリーズを求めて古本屋を歩き回ったあの日々よ(笑)

    NoTitle

    >正直なところ、どこが違うんですかねえ
    あっ!それは斬新な視点!
    ふーん…、それは考えたことなかった。スゴイ!
    もし今大学の文学部の学生だったら、「片岡義男はなぜ村上春樹になれなかったのか?」というテーマで卒論書いてみたいかも(^^;
    あー、ていうか、ま、それほどでもないかな?(爆)

    ていうかといえば、あれですよ。あれ。結城昌治。
    いっやー、よかったー!
    そのせいもあって、「昭和ミステリーハードボイルド編」が面白いです。
    教えてもらって感謝感謝(^^)/
    ただ、「夜の終わる時」を読んだんですけど、それ以外が結構高いのが難点だなぁー。

    ていうか、もう一つ、ていうかで、噂の片岡義男(爆)
    今さら読んでみたら、まあまあ?
    あれはあれでわるくない(いや、わるい!というのもあるんだけどw)かなーなんて思いました(^^;
    • #20125 秘密結社「ひゃくひゃくひゃく団」 
    • URL 
    • 2019.05/19 16:22 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくしょん大魔王さん

    まあ片岡義男は村上春樹になれませんでしたからねえ。

    正直なところ、どこが違うんですかねえ(おい)

    NoTitle

    >イヤなんじゃあッ!(笑)
    わかる!わかる!
    すんごぉーーーーーーっく、よくわかる(爆)
    ただ、今のご時世だと、逆に“読んでればちょっとモテそう”はなさそーな?
    バカっぽいと一言で片づけられて終わっちゃいそうな気がします。
    ただ、だからこそ、なんですよ。
    あえて、今更そこがよさそうかなーと(^^ゞ
    • #20110 ひゃくしょん大魔王 
    • URL 
    • 2019.05/12 16:46 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 俺たちにひゃくはないさん

    日本のハードボイルドを語る上では外せないのが片岡義男と矢作俊彦ですが、

    正直「食わず嫌い」してます(笑)

    イメージから漂う「フジテレビ臭さ」がイヤなんじゃあッ!(笑) あの「読んでればちょっとモテそう」なところがイヤなんじゃあッ!(笑)

    はい。完全にヒガミです。とほほ(^-^;)

    NoTitle

    いや、すっげーバカにされそうですけど。ふと、片岡義男を読んでみたくなったんですよ。ハードボイルとはちょっと違うんだろうけど、ハードボイルド要素を(片岡義男に)求めて(^^ゞ

    というのは、私にとってハードボイルドの原点というのがチャンドラーではなく、「キーハンター」とか「太陽にほえろ」とか「俺たちの勲章」「探偵物語」といった70年代のドラマ、さらにはその子供版(かどうかは知らないけど)「仮面ライダー」や「怪奇大作戦」等も含めた特撮モノだからだと思うんです。
    いや、キーハンターはさすがにかすかな記憶でしかないけど。でも、子供だったからこそ、初めて見たその手のテイストして記憶に焼き付いてるんでしょうねw
    たぶん、あの空気感を味わいたいんじゃないかと。
    それなのか何なのか、実はこの結城昌治、じわじわと読んでみたくなってきちゃったところ(^^)/
    • #20102 俺たちにひゃくはない 
    • URL 
    • 2019.05/06 16:56 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ピテカントロプス・ひゃくレトスさん

    だったら、いしかわじゅん先生の「東京で会おう」「ロンドンで会おう」「瓶詰めの町」とかがおすすめかな。
    松村光生「グッドバイ・ロリポップ」「我が母の教えたまいし歌」なんかもいいかな。

    どれもかなりパロディ色が強いけど。

    NoTitle

    おススメありがとうございました。
    佐久間公のやつは前から気になっていたので、そのうち読んでみようかな?

    >正統派私立探偵小説
    正統派からは“ちょっと”ズレてた方が好きなんだと思うんですよ。
    チャンドラーとか、あまり面白いと思わなかったし。
    やっぱり、70年代のTVドラマの影響が強いのかな?
    とか言って、そんなに見たわけじゃないんだけどなぁ…。
    ていうか、ハードボイルドに影響を受けた(であろう)、ウルトラマンや仮面ライダーの制作者たちの影響なのかもしれないですね。
    • #20087 ピテカントロプス・ひゃくレトス 
    • URL 
    • 2019.04/30 16:21 
    •  ▲EntryTop 

    Re: さらば愛しきひゃくよさん

    大沢在昌と原尞を押さえておけばハードボイルドはまず大丈夫、というところが日本のハードボイルドの層の薄さを物語っている(^^;)

    大沢在昌はとにかく多作。どの小説もハードボイルドに類する作品だが、あまりにも芸風が広い。
    ユーモアハードボイルド「アルバイト探偵シリーズ」「銀座探偵局シリーズ」
    正統派私立探偵小説「佐久間公シリーズ」「氷の森」
    ハードボイルド警察小説「新宿鮫シリーズ」
    ユーモアスパイ小説「いやいやクリスシリーズ」
    ハードボイルド冒険小説「野獣駆けろ」
    その他いろいろ。基本的にアベレージが高く、どれをとっても、それなりの面白さがあるので、この人を片端から読んでいけば退屈はしない。

    原尞は、正統派私立探偵小説しか書けなかった人。「そして夜は甦る」「私が殺した少女」「さらば長き眠り」「天使たちの探偵」といった初期作品はどれを取ってもハズレがない。問題はその遅筆ぶり。一冊書くのに最大14年かかる(笑) 大沢在昌と足して2で割ったらちょうどいいペースなんだけどねえ(笑)

    Re: 面白半分さん

    オチで笑えたら佐久です、笑えなかったら真木です(そうか?(^^;))

    結城昌治もいろいろと模索していたんだろうな、と思います。器用な人ゆえにどれを書いてもスマートになるんですよね……。

    NoTitle

    ふーん。結城昌治。
    名前は聞いたことあったけど、TVの映画番組の解説やってた人とゴッチャになってるよーな?(笑)
    ハードボイルドの人だったんですね。
    とはいえ、今アマゾンを見てきたんだけど、なぁ~んかイマイチイメージが出来ないんだよなぁ…(*_*;
    そういえば日本のハードボイルドって読んだこと…、あるんだろうけど、イマイチ思い出さないですね。
    有名な『OUT』を読んで、何だ、これってハードボイルドなんだ、なんて思ったくらい?
    あと、新保裕一の小役人シリーズなんかもたぶんその範疇なんだろうけど、それもそんなにハードボイルド、ハードボイルドしてないですよね。

    ていうか、ハードボイルドって、今のニッポンじゃ、ある意味アホ扱いのジャンルと化しているわけですけど、あれはやっぱりキザっぽいセリフが(今となっては)オヤジギャグに感じちゃうからなのかな?(笑)
    とかいって、「認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを」なぁ~んて中二病丸出しなセリフは大好きだったりするのは面白いですよね(^^;
    とはいえ、シャアが創られたのは70年代だから、まだまだハードボイルドが流行ってた頃だったわけで。
    要は、今はアニメやジャンプのテイストが全盛だから、「大人」なテイストがはいっちゃうと全然ダメってことなのかもしれませんね(^^)/

    ブリッツさんにはいろいろおススメしてもらったのに全然読まなくて誠に申し訳ないかぎりなんですけど、もしよかったら日本のハードボイルドでおススメを教えてもらえたらありがたいですm(__)m
    • #20067 さらば愛しきひゃくよ 
    • URL 
    • 2019.04/21 15:45 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    罠とミスディレクションがばらまかれ、ってところがやはり結城昌治なんでしょうかね。
    この系列の作品を読んでいる筈ですが
    それが「真木」か「佐久」かも全然思い出せない状態です
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