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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ85位 人間の証明 森村誠一

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     質量ともに森村誠一の代表作といっていい小説である。大学を中退してしばらくぼんやりとしているときに読んだ。意外と面白かった。ひさしぶりに再読。

     読んで思ったのだが、この本、面白いことは面白いのだが、「ミステリ」と呼んでいいのだろうか? つまり、「プロットで犯人を追う」タイプの小説は、広義のミステリではあるにせよ、「狭義のミステリ」には入らないのではないか? そんな感じを覚える。複数の視点で進む物語が、相互に連関しながらクライマックスへ進んでいく構成だが、これを「ミステリ」と呼ぶには、あまりにも普通小説すぎるのではないかと思えるのである。

     考えてみれば、たしかに「高層の死角」は「狭義のミステリ」である。犯人の狡猾な意図と、精密な計画を、いかにして警察が破壊するかに読みどころが置かれている。しかし本書において、森村誠一は、トリックや殺人計画の精妙さから脱却する形で、「人間の謎」に踏み込んでいった。この「人間の証明」では、警察の捜査は行き詰まるのである。そこから、本書のタイトルである「人間の証明」という言葉の意味が、がぜん重くなってくるのだ。クライマックスを読んだときの衝撃は実に胸に残るものがある。

     でも、だったらこれ、「ミステリ」である必要なくない? ……って感想になるんだよなあ。むしろこれは「ミステリ」のフィールド外で語るべきことだろ、と。

     そこらへんのもやもや感が、いわゆる一般的な「社会派ミステリ」を読んだときにひっかかるところではある。警察小説とも、ハードボイルドとも、犯罪小説とも、謎解きとも、むろんメインストリームの小説とも微妙にずれたところにある、日本独自のエンターテインメントの一群。

     むしろ、「社会派ミステリ」とは、「サヨク系の倫理観と論理により書かれたミステリの総称」と呼ぶべきなのかもしれない……ってなったら、こりゃひどいレッテル貼りであるなあ。「国民のあるべき姿」の求める思想信条に適合してないミステリは不許可、焚書にすべし、となったら、ある割合で、もろ手を挙げて賛同する人が出てくるかもしれぬ。「だからそういう未来を招かぬようにわれわれ社会派ミステリは必死の抵抗を続けているんだ」というのも、ちょっとなんだし。「言論統制」の一環として、松本清張、水上勉、森村誠一の本あたりの流通を抑えよう、とかいう運動、実はあったりしたら、嫌だなあ……とか陰謀説を考えてしまう、アパートにひとり籠っている夜である。

     ベストセラーでは「野性の証明」も……ごめんあれは無理です森村先生!
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    ~ Comment ~

    Re: ピテカントロプス・ひゃくレトスさん

    まあ、社会的な不正義と不公正に対して、やり場のない怒りを長年抱えていた人だったんだろうな、と思います。

    ラストシーンのサプライズは、終戦直後の日本に対して怒りを燃やしていたからでしょうしねえ。

    そういう気持ちもわからんではない。

    NoTitle

    たまたま、私もちょっと前に読みました。
    例によって、角川映画の原作だったので、ずっと“宣伝のおかげで売れた映画の原作”というイメージだったんです。
    でも、意外と名作!と聞いて読んだんですけど、ちょっと、うーん…だったかなぁー(^^;

    ま、当時の感覚で評価しなきゃフェアじゃないんでしょうけどね。
    でも、最期の方で浅間嶺でシタイが見つかるあの一連のエピソードって必要?とか思っちゃってw
    刑事役の人の子供の頃の終戦直後の出来事とかも、話の筋に絡むと言えば絡んでるんだけど、どこか取ってつけたような感じがしたかな?
    ま、著者はそれを描きたかったというのがあり、また、著者なりの使命感(?)で描かなきゃと思ったのかもしれないのかもしれないですけどね。
    (21世紀の今になって読んだからかもしれないけど)それぞれのエピソードがうまく絡み合ってない印象があったかな?

    >「社会派ミステリ」とは、「サヨク系の倫理観と論理により書かれたミステリの総称」と呼ぶべきなのかもしれない
    それは面白い視点だ!
    ていうか、頭のどこかではわかってるんだけど、意識してなかったこと、といったらいいのかな?

    確かにそれはあるでしょうね。
    戦後のインテリの倫理観、というかマスコミの倫理観と言ってもいいのかな?w、そう言った、戦後の前までの価値観や社会通念を否定しちゃうオレたちってかっこいいよね?的な、ある意味中二病なw、そんな価値観を信じて書いたという、あの時代の真面目さみたいなのは間違いなくあると思います(^^ゞ
    ただまぁその時代の流行りですからね。誰しも時代からは逃れられないわけで、それはそれで…、ってことなんだろうなぁー。

    >「言論統制」の一環として、松本清張、水上勉、森村誠一の本あたりの流通を抑えよう、とかいう運動
    今のニッポンは「売れる(お金が儲かる)」は正しいこと!ですから(笑)
    売れるとなったら、何だって売っちゃいますって。
    ていうか、我々庶民は「売っちゃダメ」となったら、たちまちそれを欲しくて堪らなくなっちゃうわけですしねー(^^ゞ
    • #20086 ピテカントロプス・ひゃくレトス 
    • URL 
    • 2019.04/30 16:13 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 面白半分さん

    あのスポットCMは印象的でしたね~。たしかに映画よりもよく覚えてますな。コピーもよかった(笑)

    話としては「高層の死角」よりも面白いと思うんですが、印象薄いですかねえ。ラストもサプライズエンディングですし。(成功はしてないけど(^-^;))

    NoTitle

    「狭義のミステリ」である「高層の死角」が初森村誠一で
    あまりの本格ぶりに感銘をうけたクチなのかどうか、「人間の証明」はあまり覚えていません。
    印象と云えばもっぱら映画のスポットCMです
    (映画自体も見ていないが)
    主題歌『人間の証明のテーマ』、これはいまだ好きです

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