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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ89位 非合法員 船戸与一

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     高校のころ、とりあえず手が届く船戸与一は何でも読んでやろう、まずは「東西ミステリーベスト100」にも挙げられていたこれだな、と徳間文庫版を入手し読んだ。「山猫の夏」の船戸与一の小説家デビュー作品である。「山猫の夏」や「猛き箱舟」には届かないものの、大満足で読み終えた。それ以来の再読。本は処分してしまったので講談社文庫版を古本屋で買い直した。

     感想であるが。大なり小なり小悪党しか出てこないうえにばたばた死ぬ登場人物、うだるように暑いアメリカ、一連の事件の背後にあるクソみたいな社会問題と国家的陰謀、時おり噴出するねじくれたブラックジョーク、誰も得をしないやりきれない結末、と、船戸与一らしさが炸裂した長編であった。本書の主人公であるCIAの非合法員(破壊活動に類する非合法活動、特に殺人を金で請け負う特殊技術者のこと)、神代恒彦とその相棒のハンス・ボルマンといい、ふたりから成功報酬を盗んで姿をくらましたベトナム人のグエン・タン・ミンといい、その他脇を固める人間たちが、よくぞこれほどうさんくさいやつらを集めてきましたな、といいたくなるほどの個性を主張してくれる。そして彼らの周りには、現代(といっても70年代末だが)のアメリカを中心とした世界の抱える深刻な病巣が、腹からはみ出してきた臓物のように異臭を漂わせながら鎮座ましましている。そんな中で強大な敵と戦う船戸与一の小説のヒーローは、自覚しているいないにかかわらず、全員が、敗北を宿命づけられたある種のアナーキストなのだ。誰にも束縛されない自分の自由を世界から買い取るために、彼らは「カネ」と「地位」を世界から得ようとする。ある者は星条旗や共産主義といった政治思想に忠誠を誓って「地位」を確立しようとし、ある者はひたすら「カネ」を求めて小悪党になったり非合法員のような後ろ暗い職業に身を挺したりする。

     そう。船戸与一の小説の源流は、「白土三平の忍者劇画」にあるのだ。「忍者武芸帳」や「カムイ外伝」の土壌から生まれた、最も優れた子孫のひとつが船戸与一の一群の冒険小説である。カムイやサスケたちがどうあがいても「身分制」やそのバックにいる「江戸幕府」にかなわないように、船戸与一の小説の登場人物も、どうあがいても「社会の不公正」やそのバックにある「アメリカ」に、「日本」に、「世界秩序」にかなわないのである。カムイやサスケたちがその「敗北の運命」を薄々ながらわかっていたのと同様に、船戸ヒーローも自分が生きていく先には破滅しかないことを日々イヤというほど感じ、それでいながら自分の生き方を変えるわけにもいかないことに諦めを感じながら生きているのだ。本書で逃避行を繰り広げる神代の前に次々と現れるそうした「なれの果て」たちに涙なんてかけてやる必要はないが、彼らと地続きの世界に読者もいることを頭にいれるべきだろう。高校生の現代社会の副読本にぴったりな一冊。ではないな。
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    ~ Comment ~

    Re: ♪人生ひゃくありゃ九もあるさぁ~さん

    基本的に「水戸黄門が成敗する悪代官の手先」が主人公のような小説ばかりなんですよ船戸与一は(^^;) そうした小悪党が何とか生き延びようとしてぼろくずのように死んでいくのが「味」ですから(^^;)

    船戸与一は、高校生にぜひ読ませたい作家です。エロシーンも暴力シーンも、北方謙三などに比べればけっこう過激だし(笑)

    NoTitle

    >どうあがいても「社会の不公正」やそのバックにある「アメリカ」に、「日本」に、「世界秩序」にかなわない
    大丈夫。
    いざとなったら、どこからともなく赤い風車が飛んできて。
    助さんと格さんもかけつけて、「やっておしまいなさい」と。
    悪い奴らがポカスカひとしきり殴られた辺りで。「この紋所が目に入らぬか~!」とやれば、たちまち悪は罰せられ、正直もんが幸せになる世になるんだから(^^♪

    >高校生の現代社会の副読本にぴったりな一冊
    高校なんて、そもそも絶対敵わない暴力が支配する場所じゃん(爆)
    そこは、高校生は実地で学んでるから大丈夫!(^^;
    • #20157 ♪人生ひゃくありゃ九もあるさぁ~ 
    • URL 
    • 2019.06/09 15:54 
    •  ▲EntryTop 

    Re: blackoutさん

    レジスタンス、いうもんは、しょせんは無駄なことなんだけど、やらないわけにはいかないからなあ。

    アナーキーさも大事ですよ(^^)

    NoTitle

    >カムイやサスケたちがどうあがいても「身分制」やそのバックにいる「江戸幕府」にかなわないように、船戸与一の小説の登場人物も、どうあがいても「社会の不公正」やそのバックにある「アメリカ」に、「日本」に、「世界秩序」にかなわないのである。

    状況は違いますが、今書いている自分の小説も、この辺りがテーマになってますですw
    ただ、ガチガチのアナーキストは出てきませんが(汗)
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