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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ92位 スターリン暗殺計画 檜山良昭

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     大学のころ、文庫版を近所の古本屋で買って読んだ。それほど感銘は受けなかった。この位置は過大評価じゃないかなあ、と思って、知り合いに本をあげた。それから二十年ぶりの再読である。今回は、作者が加筆修正をくわえた「完全版」を読むことにした。図書館にはそれしかなかったからだ。

     感想だが、大胆で精緻な歴史ミステリの傑作である。新聞記事と書物の引用、それにインタビュー記事で大半が構成されており、それらをつなぐ形で作者のモノローグが入るのだが、それが実に決まっていて、自分が読んでいるのがドキュメンタリーなのか大嘘八百のこんこんちきなのかわからなくなってくるという寸法だ。読みながらもにやにやしっぱなし。大学生活に疲れていた当時のわたしには、その渋い妙味を味わうだけの精神的な余裕が欠けていたのだろう。

     だが、本書にも残念な点があり、その最大の点は、「スターリン暗殺計画」という諜報作戦の主人公であるリュシコフが、実に感情移入しにくい男に描かれていることだ。要するに、リュシコフ、『イヤなやつ』なのである。史実でそういう人物であるから仕方がないのだが。もうちょっと史実を曲げてでも、人間的魅力のある人物として描けなかったものだろうかなどとできるわけがないことを考えたりもする。誰にでもわかっているとおり、スターリンを暗殺する計画は失敗に終わるのだが、ここでリュシコフをクルト・シュタイナ中佐みたいな人物に描けていたら、本書の評価はもっと上がったであろう。

     などとぶつぶつ言いながら読み進め、旧版では、暗殺計画を頓挫させたソ連側のスパイの正体を指摘するところで終わっていたこの作品、完全版で作者の檜山良昭が加筆した部分にさしかかり、のけぞってしまった。

     こう来たか檜山良昭! ゴルバチョフ書記長時代のペレストロイカによって開示された情報として、さらに話を二転三転させ、結末におそろしいまでのツイストを決めてきたのには参った。これはもう別物である。読んで、渾身の右ストレートを二発、三発とくらって、読者であるわたしはもう完全ダウンしてしまった。

     これから読む人には「完全版」のほうを読むことをおすすめする。ここまで来ると、この「スターリン暗殺計画」という小説は、スパイ小説とか冒険小説とかを飛び越えて、「新本格ミステリ」の領域に達したといっていいだろう。「東西ミステリーベスト100」に選ばれてから、さらに化ける、という、とんでもないことをした小説である。昭和史に興味のある、歴史ミステリファンは必読だ。すごいよ。
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    ~ Comment ~

    NoTitle

    内容がオタクすぎて、ひゃくにえる夫人にはチンプンカンプンだった(^^;
    • #20268 ひゃくにえる夫人 
    • URL 
    • 2019.07/21 14:03 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくとの遭遇(いきなり、第三種!) さん

    ありますよ、イョシフ・スターリン(JS)重戦車。JS1から3まであったかな。

    東部戦線ゲームで、ドイツ軍をやっていて、こいつに出くわしたら死を覚悟するしかないという恐ろしいやつです。

    ヤークトティーガーの永遠のライバルにして宿敵ですが、正面から戦うとヤークトティーガーのほうが分がよかったというのですから、当時のドイツとソ連の戦車製造技術はアホの領域に達してますなあ。でも総合的なバランスとしては、わたしはアメリカのパーシング重戦車を推します。そりゃ、朝鮮戦争では、戦車戦のノウハウに劣ったアメリカ軍装甲部隊は、赤軍仕込みのソ連戦車の前に死屍累々的な惨状を呈してますけどねえ。

    NoTitle

    >スターリンは「そうだねシベリア送りだ」っていう人くらいのポジション
    ていうか、ほら、スターリンっていう戦車あったじゃない。
    もっとも、田宮の模型の名称で、実際は違うのかな?
    • #20254 ひゃくとの遭遇(いきなり、第三種!) 
    • URL 
    • 2019.07/15 16:14 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ドラキュラひゃく爵さん

    岡田真澄がスターリンに似ているというよりは、スターリンの顔を好感度200パーセントくらいに修正し美化したら岡田真澄になってしまった、といった方が正しいような(笑)

    戦車ゲームをやってる人は、ヴィットマンとかマイヤーとか、上でもグデーリアン、マンシュタイン、ジューコフくらいまでしか関心はないと思います(笑) スターリンは「そうだねシベリア送りだ」っていう人くらいのポジションで(笑)

    NoTitle

    >「新」になったわけですな
    なるほど(^^ゞ

    >「スターリン暗殺計画」は対象から漏れちゃった
    ニッポン人、今となっちゃぁスターリンなんてどーでもいいだろうからね(^^ゞ
    最近は、岡田真澄もTVに出てこないし。
    興味があるのは戦車ゲームに夢中になってる人くらい?w
    • #20212 ドラキュラひゃく爵 
    • URL 
    • 2019.07/07 12:18 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ハレンチひゃく園さん

    いま中央公論の本を出しているのは、「中央公論新社」。「新」になったわけですな。その際にかなり笑えないドタバタがあったらしいけど、文芸雑誌の裏側なんて興味ないので知りません。

    というわけで、架空戦記ブームも終わっちゃって、「C☆ノベルズ」もかなりの作家作品入れ替えがあったらしいんですけど、その際に、この「スターリン暗殺計画」は対象から漏れちゃったらしいんですな。以来ずっと絶版品切れ。

    いい加減に電子書籍で出せよ、と思いますが、徳間が出してる旧版との権利問題がこじれてるんでしょうねえ。こりゃもう、どこかの小出版社が決意して完全校訂版の「檜山良昭全集」を出すのを待つしかないか。立てよ茨城の出版社。

    NoTitle

    >「手に入らない」となった時点でバカみたいなプレミアがつくもの
    有名なキャロル・キングのcityとかね(笑)
    最近だと、レコード盤なんてほとんど流通してないはずの90年代のCDが紙ジャケで再発され、その中古盤がやたら高いとか。
    ばっかだなぁーとは思うんだけど、時々やたら欲しいものがあったりで自分ながら笑っちゃう(爆)

    >中央公論社が倒産しちゃった
    え、そうなんだ。
    でも、じゃぁ今の中公文庫って、どこが出してるの?
    ていうか、ちゅーおーこーろんって、今になってみると、なんともまぁ前時代的な響きだなー(^^ゞ

    >下の方の国がそんなもので満足すると考えてるんですか
    でも、売り上げベスト10の内、確か半分以上が東野圭吾や辻村美月等々、日本のミステリー小説で占めてるらしいですよ(^^;
    ま、その下の国の大統領。
    大阪じゃ、某島国の議長に、さんざんっぱら無視されっちゃったみたいだから。
    怒り心頭で、これからはその手の弁当箱小説の方が売れるようになるのかな?(爆)
    (ていうか、その下の国はネットでは先行ってるんだから、もはや電子小説なんじゃない?)
    • #20195 ハレンチひゃく園 
    • URL 
    • 2019.06/30 12:36 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃく事千里を走るさん

    絶版ミステリと、絶版SFと、絶版ボードゲームは、「手に入らない」となった時点でバカみたいなプレミアがつくものと決まっているのだッ!

    まあこれは、出版社も出版社だからなあ。中央公論社のC☆ノベルズ、おおもとの中央公論社が倒産しちゃった上に作者の檜山先生も亡くなってるし、いまから引き取ろうにも版権でもめること間違いないからなあ。それと、ここがいちばんのポイントだけど、「売れなかった」んだろうなあ。架空戦記ブームに乗るには地味すぎて、ミステリファンには実験的すぎると思われたんだろうなあ。もったいない。

    下の方の国がそんなもので満足すると考えてるんですか。すでに前世紀から、日韓両国がガチで戦争する架空戦記物、韓国ではいっぱい出てます。読み物としてのバランスを取るため、何らかの手段で韓国側が空母を入手してから戦争になる、というやつが多いみたい。日本に流れてこないのは、韓国文学らしく、弁当箱みたいなハードカバーが三冊組、とかいう大長編が多いからです。これ以上のことは野平俊水先生の著作を読んでください。

    NoTitle

    >これから読む人には「完全版」のほうを読むことをおすすめする
    そんなこと言ったって、「完全版」、たっかいじゃん!
    これは面白そうだと、アマゾン見てみたら「可」だけど、手頃なのがあったから買っちゃおうかなーとウキウキしてたのに!
    うーん。となると、図書館か? ←ケチ(^^ゞ

    昔はこの手の海外が舞台になったミステリー小説、結構あったんだけど、今はなぁ…。
    海外どころか、館の中か、島の中で完結しちゃうのばっかもてはやされちゃうんだよな―(^^)/
    そういえば、池上彰が「最近はニュース(番組)で、海外の話題をとりあげると、途端に視聴者にチャンネルを変えられちゃうから(海外のニュースは)極力やらなくなった」って言ってたなぁ…。

    ていうか。
    半島の某隣国(下の方ねw)なんかじゃ、隣にある目の上のたんコブな国のトップをアンサツしちゃう、なーんて小説、みんな喜んで読んでたりして(爆)
    • #20181 ひゃく事千里を走る 
    • URL 
    • 2019.06/23 14:35 
    •  ▲EntryTop 

    Re: miss.keyさん

    いや、中国版で、リアルタイムでこれやって、面白いのかな? 「失敗」しちゃうのに(^^;)

    Re: 面白半分さん

    ラストに読者の腸がねじれてクラインの壺を構成してしまうようなとんでもない仕掛けがあります。

    歴史エスピオナージュと思って読まないのはもったいないです(^^)

    ぜひとも入手を……とアマゾンを調べたら完全版は1700円のプレミアがついてやがる(汗)

    旧版が電子書籍になってるけど、それじゃダメなんだー! とほほ。

    あ、これぜひ

     中国版でやって欲しいです。リアルタイムが理想です。実現したらさぞかし面白かろう。まっくろくろすけ。

    NoTitle

    うわあ。化けたのか。
    未読なのでここはもう「完全版」ねらいですね
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