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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ92位 友よ、静かに瞑れ 北方謙三

     ←日本ミステリ89位 薔薇の女 笠井潔 →日本ミステリ92位 スターリン暗殺計画 檜山良昭
     読んだはずなのにまったく記憶にない小説というのがあって、その筆頭がこれである。いま手持ちの85年版「東西ミステリーベスト100」にはたしかに撃墜マークが書いてあるから読んだのだろうが、「読んだ」という記憶すらまったくない。もしかしたら、自分は、読みもしていないのに「読んだ」と錯覚して撃墜マークをつけてしまったのか、などと考える始末だ。

     それはそれで、この本を完全に「まっさらな」気持ちで読める、ということではないか、ということかもしれないが、本書は北方謙三の小説である。北方謙三の小説なら、何度読んでもまっさらな気持ちで読めなくてはウソだ。これではわたしになにもトクはないではないか。

     などとぶつぶついいながら読んだ。読んで思った。たしかに、これなら読んだことすら記憶に残らなくて当然だ。金太郎アメというか、どこを切っても北方謙三な小説だからだ。北方謙三の小説をコンピュータでモデリングしたら、こういう小説になる、というような小説である。主人公のはみだし船医は「眠りなき夜」の滝弁護士のそれを思い出すし、縦糸としてからんでくる少年の竜太には、「逃がれの街」のヒロシを思い出す。それを「檻」の暴力的なトーンで語れば、この「友よ、静かに瞑れ」が出来上がるという勘定だ。「男のハーレクイン・ロマンス」だという評のまことに適切なことよ、と思わざるを得ない。

     乱暴にいえば、魅力的な女が出てきて、けなげな少年が出てきて、うさんくさい刑事が出てきて、輪をかけてうさんくさい地方都市の住民が出てきて、あとはヤクザとうさんくさい地元のボスが出てくれば、後は殴り合いと斬り合いとカーチェイスだけでも話が作れるという寸法である。一年間に何冊も書いてベストセラーになるためには、ここまでわかりやすくなければならない。

     「檻」でも「逃がれの街」でも「眠りなき夜」でも本書「友よ、静かに瞑れ」でも感じたことだが、これらの作品は、そうしたカチッと決まった世界を、世界に二人といないエンターテナーの北方謙三が、恐ろしいまでの気迫のこもった文章で、生き生きと描ききった極上の冒険小説なのだ。読んでいる間、わたしはその心地よい暴力の世界を満喫して、最後のページを閉じた。今は太い息をついてこの文章を書いている。まさに大人の贅沢な時間である。たぶん明日になったら、この本を読んだという記憶すら定かではなくなってすっきりした朝を迎えることだろう。かつての城戸禮や大藪春彦の小説がそうだったのと同様、北方謙三の小説は、読んでいる間の一瞬の至福さえあれば、それでいいのである。
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    ~ Comment ~

    Re: ハレンチひゃく園さん

    そんなことをいっているから日本の変態は英米に勝てないのだ!(勝ってどうする(笑))

    NoTitle

    >女を見たら縛るのはもう飽きたのでやめろ
    そんなこと言ったって、最近は“縛る快感”じゃなくって、“縛られる快感”を求める人がそれなりにいるみたいじゃない?(^^;
    • #20196 ハレンチひゃく園 
    • URL 
    • 2019.06/30 12:41 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃく事千里を走るさん

    あれ読んでも苦痛しか感じんからなあ。

    日本のハードコアポルノグラフィーはいいかげん、団鬼六先生の呪縛から逃れてもいいんじゃないのか、と思えてならん。とにかく、女を見たら縛るのはもう飽きたのでやめろ。

    NoTitle

    >フランス書院は読んでて
    あれは、読むもんじゃなくて、感じるもの。 ←ブルースリーか!(^^ゞ

    しっかし、「生理用具」かー。
    確かに、「本」というよりは、「用具」と言った方が的を得てるかも(爆)
    最期に読んだのはもうウン十年前だけど、これだけDVDだ、ネット配信だとある世の中で、あれがいまだにニーズがあるというのはちょっと不思議な気さえします(^ω^)
    • #20182 ひゃく事千里を走る 
    • URL 
    • 2019.06/23 14:47 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 鍵コメさん

    なんだハードボイルドも読まれるんじゃないですか。

    では次は強烈なハードボイルドを見繕って……(笑)

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    Re: miss.keyさん

    まあそうなんだけど、そういう話を書くにはめちゃくちゃ才能とセンスが入用だからなあ。

    水戸黄門と暴れん坊将軍が消えた今、そういう「コメのメシ」的な安定したエンターテインメント、「サザエさん」以外存在しないだろ。あるとしても、おれにはそういう作品のシナリオ、よう書けん……。

    つまりあれですな

     水戸黄門みたいなもんですかね。
     内容なんかどーでもいい。ただ、その場をつまらなくなく過ごせば御の字。また来週が全く同じシナリオでも文句も出ないし、気付きもしないという感じですかね。

    Re: ♪人生ひゃくありゃ九もあるさぁ~さん

    フランス書院文庫を「男の生理用具」とかいってた人がいたけど、そのいいかたはフランス書院にも男性にも女性にも生理用具にも失礼ないいかただと思うであります。個人的にフランス書院は読んでて苦痛と罵倒とが延々書かれていてストレスばかりたまるので嫌い。

    馳星周は、「不夜城」が大ヒットしていた当時、精神を病んでいて地獄の底を這いまわっているような感じがしている最中だったのでいまだ未読です。まあ、そのうち読むとは思うけど。

    元気かどうかと言われたら、まあ元気ですと答えるしか……。

    Re: 面白半分さん

    わたしは目次につけてました。びっしりと並ぶ○印を見て深夜にふふふふとか笑っていると、ただのミステリファンでしかない自分がまるでマニアみたいに思えてきます(笑)

    NoTitle

    >読みもしていないのに「読んだ」と錯覚して撃墜マークをつけてしまったのか
    それはね、霊。
    例の仕業。
    だから、除霊が必要。
    御祈祷代、3万円。
    まいどあり~(^^)/

    >これなら読んだことすら記憶に残らなくて当然だ
    その逆がT書房の実話怪談本。
    絶対初めて読んでいるはずなのに、どれを読んでも前に読んだことがあるような話しか載っていない(^^;

    >男のハーレクイン・ロマンス
    えぇ~。
    男のハーレクイン・ロマンスは、フランス書院文庫じゃないの~

    >一年間に何冊も書いてベストセラーになるためには、ここまでわかりやすくなければならない
    昔、北方健三。今、ジャンプの漫画とアニメってこと?('ω')

    >その心地よい暴力の世界を満喫
    暴力といえば、昔、知り合いからかりた馳星周を思い出すんだけど、その辺りはどうなの?
    私は全くダメだったけど。痛そうすぎて(>_<)

    >小説は、読んでいる間の一瞬の至福さえあれば、それでいい
    ま、小説なんてそんなもんで。それこそがいい小説と言えるんだろうなぁー。

    寒いっすね(笑)
    元気っすか?('ω')ノ
    • #20155 ♪人生ひゃくありゃ九もあるさぁ~ 
    • URL 
    • 2019.06/09 15:39 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    読んでいる間の一瞬の至福というのは
    ミステリ全般に言えることンなのかもしれませんなあ。

    **************

    撃墜マークつけていたんですね。
    私は頁の右上に小さくマルをつけてました
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