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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ98位 北の夕鶴2/3の殺人 島田荘司

     ←自炊日記・その90(2019年6月) →日本ミステリ98位 五十万年の死角 伴野朗
     浪人生のころに古本屋を足が棒になるほど探し回って手に入れた作品である。さまざまな不可思議が、文字通り「補助線一本で解ける」、豪快極まりないトリックが使われていて、作品のシリアスさとも相まって、当時、読んで感動しながらも「なんじゃこりゃ」と笑ってしまった。本は処分してしまったので、図書館にあった島田荘司全集で、完全改訂版を再読。

     感想であるが、やっぱりこの探偵とこの舞台とこのストーリーで、このトリックをやったら、「なんじゃこりゃ」にしかならないのも事実であって、発表当時から「どうして御手洗潔でやらなかったんだ」と評されるのもよくわかる作品だった。誰もいないはずの窓を映した写真にまざまざと浮かび上がった鎧武者、というビジュアル系の演出も、御手洗潔だったらくだらないジョークを飛ばしながら読者を笑わせてくれただろうが、愛する人の無実を信じて事件を追う渋い刑事である吉敷竹史では、どう考えても、「ちぐはぐ」なのである。なまじっか、ストーリーテラーとしての島田荘司の魅力が全開の作品であるだけ、「これでこのトリックはないだろう」という感が強い。それと同じことを、「奇想、天を動かす」でも思わされた。誰だよ、島田荘司に渋い刑事が主人公のミステリ書かせたのは、である。笠井潔のハードボイルドよりも違和感は強い。

     今回読んだ全集版の月報で、綾辻行人との対談の形で、島田荘司が当時の裏話をしゃべっていたが、そっちもそっちで頭を抱える内容だった。時代というかなんというか、当時のミステリ出版界では、講談社から「御手洗潔ものは書くな」というきついお達しがあったそうで、注文があるのは光文社からのカッパノベルズの吉敷ものがメイン。しかも、光文社の担当者が大技トリックが大好きな人で、吉敷ものに「すごいトリック」を求めたそうなのだ。世の中間違っているとしかいいようがない。

     だがしかし、と考えるのだが、この「北の夕鶴2/3の殺人」と「奇想、天を動かす」が存在しなかったら、今の世まで吉敷竹史ものが読まれていたかどうかは大いに疑問だと思う。いいところ、西村京太郎の十津川警部ものの亜流、みたいに思われるだけだったのではないだろうか。そういう意味で、いまだに吉敷ものや、ノンシリーズの「死者が飲む水」といった渋い作品を読むことができるのは、地味な刑事の登場する作品にこれらの無茶なトリックを使うことを強要したカッパノベルズの編集者のおかげ、かもしれない。もし、「北の夕鶴2/3の殺人」がなかったら、めぐりめぐって講談社で、阿井渉介が「列車シリーズ」を書くこともなかったかもしれないのだ。だから、鉄道をネタにムチャクチャなトリックが炸裂する「列車消失」から始まる一連の阿井渉介作品を再評価しなければならないのではないか! ……って、すみません。趣味に走りすぎました。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくぺりあぁ ~決して一人では見ないでくださいさん

    作者は「挑戦」なんて言ってるけど、あのトリックを見破るのは尋常の人には無理です。

    だから気にしないで読んで、「挑戦」の次のページをめくって「こんな簡単なことだったのか」とアゴを外してもらえればOK!

    NoTitle

    >少なくとも、わたしは夢中になって読んだです
    なるほどー、そうかー。
    いや、先週月曜日。
    ブリッツさんが、もったいないと書いてたんで、やっぱり読んでみようかなーと、アマゾンを見てたんです。
    そしたら、「読者への挑戦状」というページがあるとかで、あ、それはオレ、ダメなヤツだって、結局やめちゃったんですよー。
    やっぱり読んでみようかなー。な~んか、今、このタイミングだからこそ何かあるんじゃないかって、引っかかるんだよなぁー(ーー;)
    • #20308 ひゃくぺりあぁ ~決して一人では見ないでください 
    • URL 
    • 2019.08/04 16:10 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくそしすとさん

    本ってものは読んでみなくちゃわからんけど、85年版21位、2012年版3位ってスコアは信じてみてもいいと思うぞ。 >占星術

    少なくとも、わたしは夢中になって読んだです。

    NoTitle

    >もったいない
    でもさ。
    あれのあらすじを見て、これは面白そうだ!って思える?(^^ゞ

    >当時の出版社、変な社会派ミステリ観に首まで浸かってた
    ま、出版社とかTVとか、はたまた芸能事務所とか。
    所詮は時代の上っ面をつらつら滑ってるくらいの価値基準しかないってことなんでしょうね(^^)/

    ていうか、今週末のTV。
    なんで、猫も杓子も吉本!吉本!吉本!なんだよ!って(^^ゞ
    一般庶民としては、今のお笑い芸人なんかどーでもいいんだけどな(笑)

    • #20291 ひゃくそしすと 
    • URL 
    • 2019.07/28 15:14 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 面白半分さん

    全集版の解説で、悔しそうに書いていたです島田先生(^^;)

    でも松本清張を恨むのは筋違いだと思う島田先生(^^;)

    Re: ひゃくにえる夫人さん

    占星術はめちゃくちゃ面白い作品です。もったいない。

    それで御手洗ものを書くな、というんだから、まあ、当時の出版社、変な社会派ミステリ観に首まで浸かってたんでしょうなあ……。

    NoTitle

    これは大技トリックが決まった作品でしたね。
    なぜ吉敷モノだったのかに裏事情があったとは。

    NoTitle

    >ミステリ出版界では、講談社から「御手洗潔ものは書くな」というきついお達しがあった
    そういう横暴のっていうのは、いま大注目のお笑い業界に限らないんですね(^^;

    島田荘司っていうのは、その入門書?みたいなイメージの『占星術殺人事件』を読もうするたんび、そのあらすじを読んで思い浮かぶつまらなさに全然読む気がしない作家なんだよなぁ…。
    ま、そもそも個人的に、反・本格(正しくは、反・最近のやたら本格を持て囃す風潮w)なんで。
    いつかそのうち(^^ゞ
    • #20266 ひゃくにえる夫人 
    • URL 
    • 2019.07/21 13:51 
    •  ▲EntryTop 
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