東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
日本ミステリ98位 五十万年の死角 伴野朗
最初に読んだのは高校のころ、図書館で借りてだった。それ以来、どういうわけか何回か文庫本を買ってしまったりして、五回以上読んでいる。最後に読んだのは、古本屋に本を売りに行く直前だったから、十年くらい前か。
というわけで再読。感想であるが、戦中の中国を舞台にした面白いスリラーだが、それだけ、という感が強い。作者は結末にあっと驚く人名を放り込んだりと、やりたいことはわかるのだが、当時は「あっ、あの人か!」でわかるネタが、いま読むと。、「誰?」になってしまうのがつらいところだ。世界史の教科書に載るような人なのだが。
なんというか、この作品が98位に入れたのは、「僥倖」というやつであろう。江戸川乱歩賞受賞、ということと、冒険小説の読者数が日の出の勢いで伸びていた「冒険小説の時代」にこの85年版「東西ミステリーベスト100」がまとめられたことと、作者の伴野朗自身のネームバリューで、奇跡のようにこの98位に滑り込めたという感が強い。冒険小説としてもスリラーとしても、船戸・北方・志水という熱い冒険小説群に比べると、かなり弱いのだ。また、中国を舞台とした小説では、生島治郎「黄土の奔流」や影山民夫「虎口からの脱出」という痛快編もあり、それらと比べてもいささかワリが悪い。
個人的に、伴野朗の作品を読むのならば、、この「五十万年の死角」よりも、大航海時代の百年前、明の時代に大洋をまたいで船を出し、はるかアフリカ方面まで船団を率いていった鄭和の航海を、信頼できる資料がまるで残っていない中、想像力と大法螺だけで目の前に見えるかのように描き出した、「大航海」のほうが質量ともにはるかに面白いと思う。「影武者徳川家康」が入るのならば十分許容範囲内の血沸き肉躍る大ロマンだと思うのだが。伴野朗は、やはり本質が歴史作家であり、「五十万年の死角」や、グルメ名探偵陳展望シリーズなどは、歴史小説家として世に出るための「方便」のようなつもりだったのかもしれない。
というわけで、こんなことを考えながら、今回も、ごく普通にすいすいと北京原人の化石にまつわるこのスリラーを読んでしまったわけだが、うん、こんなに何度も読んでなお普通に面白いというのは、この「五十万年の死角」、やっぱりすごい作品なのかもしれない。古本屋を物色しているうちに、ふと気がつくとカートに入れているような、そういう「ぴったり感」がある。あまり読後に残るものはないが、何度読んでも読んでいる間だけは確実に面白いというのは、エンターテインメントとしては最高の評価ではないだろうか。今度から、古本屋へ行くときは注意せねばならないなあ。あっ、陳展望シリーズ、アマゾンでプレミアついてやがる。あのとき買っとくんだった!
というわけで再読。感想であるが、戦中の中国を舞台にした面白いスリラーだが、それだけ、という感が強い。作者は結末にあっと驚く人名を放り込んだりと、やりたいことはわかるのだが、当時は「あっ、あの人か!」でわかるネタが、いま読むと。、「誰?」になってしまうのがつらいところだ。世界史の教科書に載るような人なのだが。
なんというか、この作品が98位に入れたのは、「僥倖」というやつであろう。江戸川乱歩賞受賞、ということと、冒険小説の読者数が日の出の勢いで伸びていた「冒険小説の時代」にこの85年版「東西ミステリーベスト100」がまとめられたことと、作者の伴野朗自身のネームバリューで、奇跡のようにこの98位に滑り込めたという感が強い。冒険小説としてもスリラーとしても、船戸・北方・志水という熱い冒険小説群に比べると、かなり弱いのだ。また、中国を舞台とした小説では、生島治郎「黄土の奔流」や影山民夫「虎口からの脱出」という痛快編もあり、それらと比べてもいささかワリが悪い。
個人的に、伴野朗の作品を読むのならば、、この「五十万年の死角」よりも、大航海時代の百年前、明の時代に大洋をまたいで船を出し、はるかアフリカ方面まで船団を率いていった鄭和の航海を、信頼できる資料がまるで残っていない中、想像力と大法螺だけで目の前に見えるかのように描き出した、「大航海」のほうが質量ともにはるかに面白いと思う。「影武者徳川家康」が入るのならば十分許容範囲内の血沸き肉躍る大ロマンだと思うのだが。伴野朗は、やはり本質が歴史作家であり、「五十万年の死角」や、グルメ名探偵陳展望シリーズなどは、歴史小説家として世に出るための「方便」のようなつもりだったのかもしれない。
というわけで、こんなことを考えながら、今回も、ごく普通にすいすいと北京原人の化石にまつわるこのスリラーを読んでしまったわけだが、うん、こんなに何度も読んでなお普通に面白いというのは、この「五十万年の死角」、やっぱりすごい作品なのかもしれない。古本屋を物色しているうちに、ふと気がつくとカートに入れているような、そういう「ぴったり感」がある。あまり読後に残るものはないが、何度読んでも読んでいる間だけは確実に面白いというのは、エンターテインメントとしては最高の評価ではないだろうか。今度から、古本屋へ行くときは注意せねばならないなあ。あっ、陳展望シリーズ、アマゾンでプレミアついてやがる。あのとき買っとくんだった!
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~ Comment ~
NoTitle
>地図を片手になんでもない丘や住宅地を歩き回り、「ふふふ、堀割がすごい
それ、最近無茶苦茶やりたいんだよねー。
それこそ、近所にあるし。
ブリッツさんちの方にも面白そうなとこ、いっぱいあるもんなー。
城オタク(あらため、天守オタク)は、小学生の頃だったんだけど。
あの頃、そういう楽しみを教えてくれてたら、友だちとあっちこっち,行って楽しんでたろうになーと思うと、世に言う、世代間格差とはこのことだ!って憤慨しちゃう(^^;
それ、最近無茶苦茶やりたいんだよねー。
それこそ、近所にあるし。
ブリッツさんちの方にも面白そうなとこ、いっぱいあるもんなー。
城オタク(あらため、天守オタク)は、小学生の頃だったんだけど。
あの頃、そういう楽しみを教えてくれてたら、友だちとあっちこっち,行って楽しんでたろうになーと思うと、世に言う、世代間格差とはこのことだ!って憤慨しちゃう(^^;
- #20441 ひゃくデカ「んぺと」
- URL
- 2019.09/16 14:57
- ▲EntryTop
Re: 秘密戦隊ひゃくレンジャーさん
城を見るのは城オタクではないのだった。
城オタクというのは、地図を片手になんでもない丘や住宅地を歩き回り、「ふふふ、堀割がすごい。さすがは太田道灌の縄張り」とかぶつぶついってニヤニヤ笑う「ブラタモリ」のようなことをするやつをいうのだった。
中学のころはいった史学部で、「城を見に行く」といわれて見事にダマされたもんなあ(笑)
城オタクというのは、地図を片手になんでもない丘や住宅地を歩き回り、「ふふふ、堀割がすごい。さすがは太田道灌の縄張り」とかぶつぶついってニヤニヤ笑う「ブラタモリ」のようなことをするやつをいうのだった。
中学のころはいった史学部で、「城を見に行く」といわれて見事にダマされたもんなあ(笑)
NoTitle
>滋賀県
滋賀県って、考えてみたら一度も行ったことない!(通り過ぎるのなら、何度もあるんだけどw)。
琵琶湖の北の辺りとか、よさそうだけどなー。
あと、密かに城オタクでもあるので、いろんな城を見まくりたいなぁ~(^^)/
滋賀県って、考えてみたら一度も行ったことない!(通り過ぎるのなら、何度もあるんだけどw)。
琵琶湖の北の辺りとか、よさそうだけどなー。
あと、密かに城オタクでもあるので、いろんな城を見まくりたいなぁ~(^^)/
- #20403 秘密戦隊ひゃくレンジャー
- URL
- 2019.09/01 16:03
- ▲EntryTop
Re: ひゃく・にち・べにさん
どうでもいいけど滋賀県へ行って「近鉄」に乗ると「近江鉄道」に乗れるぞ。
NoTitle
>記事を書いたのに少しは反応しろ
あれ?どっかに書いてあったの???
それは全然見落としてしまって、申し訳ない(^^ゞ
飯能はねー、土浦とは方向が違うから… ←意味不明w
あれ?どっかに書いてあったの???
それは全然見落としてしまって、申し訳ない(^^ゞ
飯能はねー、土浦とは方向が違うから… ←意味不明w
- #20358 イエローひゃくマリン
- URL
- 2019.08/18 15:19
- ▲EntryTop
Re: ひゃくぺりあぁ ~決して一人では見ないでくださいさん
気になるんだったらおもしろいから記事を書いちゃおうか。
NoTitle
>全然別人
なるほどです。
隆慶一郎って、そういえば記憶ある。
なんか読んだな(憶えてないけどw)
>伝奇小説ベスト
伝奇小説って、ほとんど知らないんで(八犬伝、それも「新」の方くらいw)、jどんなのが出てくるのか興味ありますので、ぜひ!(^^)/
なるほどです。
隆慶一郎って、そういえば記憶ある。
なんか読んだな(憶えてないけどw)
>伝奇小説ベスト
伝奇小説って、ほとんど知らないんで(八犬伝、それも「新」の方くらいw)、jどんなのが出てくるのか興味ありますので、ぜひ!(^^)/
- #20307 ひゃくぺりあぁ ~決して一人では見ないでください
- URL
- 2019.08/04 16:05
- ▲EntryTop
Re: 面白半分さん
どちらかといえば本領は歴史作家のように思えますし。
オチの人の名前をこないだ「タモリ倶楽部」で見て、ええー、と思った(笑)
オチの人の名前をこないだ「タモリ倶楽部」で見て、ええー、と思った(笑)
Re: ひゃくそしすとさん
これは書き方が悪かった。「影武者徳川家康」は隆慶一郎先生の作品。全然別人です。
同じ伝奇小説なら、という意味でここでは上げました。
伝奇小説ベスト、とか組みたいけど、それほど読んでないからなあ。
同じ伝奇小説なら、という意味でここでは上げました。
伝奇小説ベスト、とか組みたいけど、それほど読んでないからなあ。
NoTitle
>「影武者徳川家康」が入るのならば
あぁその著者がこの人なんだ。
>アマゾンでプレミアついてやがる
アマゾンの古本、上がったよねー。
ま、前の値段が異常に安かったというのはあるんだろうけど、それが当たり前になっっちゃっただけに、高い!高すぎる。
ていうか、絶対、便乗して上げすぎちゃってる!(~_~;)
八王子の某出品者なんて、実はアマゾンがサクラでやって、全般に古本の値段を釣りあげてんじゃねーのか―、なんて思っちゃうぞ。
あぁその著者がこの人なんだ。
>アマゾンでプレミアついてやがる
アマゾンの古本、上がったよねー。
ま、前の値段が異常に安かったというのはあるんだろうけど、それが当たり前になっっちゃっただけに、高い!高すぎる。
ていうか、絶対、便乗して上げすぎちゃってる!(~_~;)
八王子の某出品者なんて、実はアマゾンがサクラでやって、全般に古本の値段を釣りあげてんじゃねーのか―、なんて思っちゃうぞ。
- #20290 ひゃくそしすと
- URL
- 2019.07/28 15:06
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Re: ひゃくデカ「んぺと」さん