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    鋼鉄少女伝説

    鋼鉄少女伝説 18 悪夢

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    stella white12

       18 悪夢


     一時間後。

     ぼくとキリコとユメちゃんは『フォートレス』にいた。

     いやになってしまうくらい弱い男だ。

     もちろんカードは部屋に置いてきた。MAPのあのゲームは二度とやらないと誓ったのだから当然だ。

     みんなで三十分ほど、ゲーム機に百円玉を食べさせて過ごした。eマネーだと遊びすぎかねない。レトロなスタンドアロンのクイズゲーム機に三人で群がり、頭をひねってみた。三百円で三十分過ごせたのだから、まあ安いほうだろう。

     仕上げにクレーンゲームでもやって帰るかとなったときに、ユメちゃんがふいにいった。

    「すみません、ちょっと、トイレに」

     ゆっくり行ってらっしゃい。

     ユメちゃんが行ってしまうと、ぼくはキリコと二人になってしまった。

    「ユメちゃん、か」

    「なんだよ、やぶからぼうに」

    「なんということもないんだけど」

     キリコはこちらに視線を向けた。

    「順昇、夢を見る? 夢といっても、将来とかそういうのじゃなくて、夜に寝床で見るやつだけど」

    「そりゃ見るさ。人間だもの」

     キリコがなにをいいたいのかわからない。

    「悪夢が多い? いい夢が多い?」

    「覚えている夢の割合からいえば、悪夢が五で、いい夢が三、どうでもいいのが二というところだね」

    「順昇も悪夢が多いのね」

     首を振った。

    「いや、あくまでも覚えている夢の話だよ。悪夢には一生もののトラウマになりかねないものが多いけど、いい夢や、どうでもいい夢なんて、見たはしから忘れてしまうじゃないか」

    「一生もののトラウマ」

     キリコは溜めていた息を吐き出した。

    「わたしにもあるわ」

    「一生もののトラウマが?」

     一瞬、驚いたが、すぐにキリコのいわんとすることを理解した……つもりになった。

    「やめてくれよ、その話は。ぼくだって思い出したくないんだ」

    「わたしの小学生のころの思い出話じゃないわ」

     キリコはぴしゃりといった。

     困惑した。あのいまいましい数年でなかったら、いったいなんなのだろう。

    「もっと前からのことよ」

    「なにがあったんだ」

     礼儀から尋ねる。

     キリコはゆっくりと口を開いた。

    「昔、自分も周りもまだよくわからないような幼いころから、わたしは同じような夢を見てたわ。そこではわたしは一人きり。頼れるものはなにひとつない」

    「……」

    「そこに、なにかが、わたしを取り込もうと迫ってくるの。あるときはガス、あるときは炎。いちばん多かったのは、闇ね。不定形で黒々とした、闇としか呼べないものがわたしに向かってじりじりと近づいて来るのよ」

    「それで」

    「わたしは逃げようとするんだけれど、そこから離れることができない。闇はどんどん近づいてきて、少しずつわたしの四肢を飲み込み、胴体を飲み込み、そしてもがいている頭を飲み込んで……汗びっしょりになって目を覚ますの」

     その顔は真剣だった。嘘をついている様子はない。

    「親とかには話したのか」

    「夢について?」

     キリコは力なく笑った。痛々しい笑いだった。

    「夢について親に話して、いったいなんになるっていうのよ。これを話すのは順昇で二人目よ」

    「一人目は?」

     と聞いて、自分の頭の悪さに気づいた。

    「ユメちゃんよ」

     まあ、そりゃ当然だよな。

     ちょっとの間、二人とも黙った。

    「トラウマか」

     沈黙が嫌だったので声に出した。

     キリコはうなずいた。

    「わたしがこういう性格になったのも、シミュレーションゲームなんかをやるようになったのも、この夢のせいだといえなくもないわ。それが全てじゃないけどね」

    「夢のせい? どうして」

    「わたしはね、怖かったのよ」

    「怖い、か。あまりキリコに似合うセリフじゃないな」

    「自分を変えようとしてきたし、演技してもきた。ずいぶんと虚勢も張ったしね。それに、長いこと偽装を続けていると、自分でも表面と内実の区別があいまいになってくるものなのよ」

    「それがどうシミュレーションゲームに結びつくんだ?」

    「わたしには、運動神経はほとんどないわ。走るとすぐに息は切れるし、ボールを投げてもまともに飛ばない。だから、自分の身体を鍛えて、自分を包む闇に打ち勝とうという考えは、すぐに捨てた。みじめな思いをするだけだとわかっていたのでね。小学校にも上がってないころの判断だけど、間違っていなかったと思う。そんなときに出会ったのがシミュレーションゲームだった」

    「なにが魅力だったんだい」

     あんな、ただ単に煩雑で難しいだけのゲームとしか思えないものに、キリコはいったいなにを見たのだろう。

    「魅力、ね。いろいろあるけれど最大のものは、相手が幾万もの人間だというところね」

    「幾万もの人間?」

    「紙の上では。順昇にはただの紙の駒に見えるでしょうけど、わたしには生命を持った生きた人間たちに見えたのよ」

     キリコは目をそらした。

    「強大な敵を自分の力でねじ伏せて勝利するっていうのが、わたしの琴線にビビッと触れたのね。わたしはシミュレーションゲームにのめりこんでいった」

    「なんだよ。キリコにとってのシミュレーションゲームって、ただのマチズモ(男性優位主義)のはけ口だったのか」

     キリコは笑った。

    「マチズモなんて。わたしは女よ」

    「フェミニズムの闘士っていうようにも見えないぜ」

     トイレのほうに目をやると、ユメちゃんが手を拭きながら小走りでやってくるところだった。

    「すみません! 遅くなりました!」

     ぼくはユメちゃんに右手を上げた。

     キリコに目を向ける。

    「闇が怖いのもわかるけれど、なおのこと独りで克服しなくちゃダメじゃないのかな。これは誰の問題でもない、キリコ個人としての問題なんだから」

     これでこの話は終わりというつもりで、寄りかかっていた壁から身体を離した。

    「さてと、クレーンゲームでぬいぐるみでも取って帰ろうよ」

     横を見ると、キリコはどこか硬い表情をしていた。

     ユメちゃんが、なぜかやたらとクレーンゲームがうまくて、ぼくもキリコも一個ずつアニメキャラのぬいぐるみをもらったことはさておく。


       予告

     人の運命は、かくも簡単にその先をねじ曲げられるものなのか。

     ひとつの時が終わり、

     ひとつの決断がなされる。

     そしてキリコは、自らその決断の正しさを示さねばならない。

     次回、「立証責任」。

     答えろ、お前は真のパーフェクト・ソルジャーか。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    まあこの小説の主人公三人が三人とも、コンプレックスのかたまりみたいな人間ですからねえ。ユメちゃんですら精神的な弱点の前にはもろかったりするのです。

    今後わかってきます(←鬼)。

    NoTitle

    あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

    キリコちゃんの中にはそういう不安があったのでしょうか。
    順昇くんの言葉、彼女に響いたようですが、それがどんな影響を及ぼすのでしょう。次回も楽しみにしております。
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