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    鋼鉄少女伝説

    鋼鉄少女伝説 19 立証責任

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    stella white12

       19 立証責任


    「活動停止を解除ですって?」

     テストが明け、採点されて返却され、その結果、一部の学生が一部の学生に殺意のようなものを抱いていたりしているころだった。

     ぼくとキリコとユメちゃんは、放課後いきなり校長室に呼び出された。

     退学といわれることも覚悟したほうがいいかな、と思っていた身としては、青天の霹靂といったらおかしいかもしれないが、とにかくそんな感じだった。

    「校長先生、それが、ぼくになんの関係があるんですか? ぼくは『シミュレーションボードゲーム同好会』に入った覚えはないんですが」

     校長は、どこかいらいらしたような口調で答えた。

    「浦沢くん、あなたが部員みたいな活動を行なっていたことは誰でも知っています。確かにあなたの名は部員名簿には登録されていませんが、部員に準ずるものとした扱いを受けるべきでしょう」

     困った話だ。だが嬉しいことに、来年の文化祭が行なわれるころにはぼくはもう卒業しており、ごたごたに巻き込まれる恐れはない。

    「先生」

     キリコがいった。

    「これはどういうことですか?」

    「これについては、生徒が知る必要はありません」

    「そんなこと納得がいきません!」

     キリコは激しい声をぶつけた。

    「霧村さん」

     校長は、あくまでも事務的だった。こういうのって教育者としてどうなのかなとぼくは思った。まあたしかに、一介の生徒がなにかしたところでどうにもなることではなかったけれど。

    「過程がどうあれ、結果としてシミュレーションボードゲーム同好会は活動の再開が認められました。それでいいではありませんか?」

    「少しもよくはありません」

     キリコは、黙って頭を下げて寛大なご処置を受け入れるというタイプの人間ではまったくなかった。

    「校長先生。先生は先月、わたしの前でなぜシミュレーションボードゲーム同好会が活動を休止しなければならないのかを明確に説明してくれました。それはわたしにはまったく納得できないものでしたが、それでも明確なことは明確でした。しかし、今日のこれは明確でもなんでもないといわざるを得ません」

    「明確でなければならない、といいたいのですね」

    「そうです。そうでなければ、わたしは先生のお言葉のなにを信じてなにを信じなければいいのかがまるでわからなくなります。全てが先生の腹だけで決められているのではないか、不当な判断がまかり通っているのではないか、そういった可能性が否定できません。思うに、韓非子がその主著で徹底的に批判した、徳治国家、というものはまさにこの学校のようなものなのではないでしょうか?」

     韓非子なんか読んだことないけれど、口調から察するにそうとうひどいことが書いてあったみたい。校長が、いささか、いや、かなり気分を害したようであることからもわかる。

    「なるほど。あなたは、同好会の活動は停止してもいいというのですね」

     キリコは校長のその言葉にいらだたしげにかぶりを振った。

    「どうして先生がそういう発想になるのか、さっぱりわかりません。わたしは単に、どうして一度決められたことが、すぐに取り消されることになったのかを知りたいだけです」

    「いいでしょう」

     間をおいて、校長はいった。

    「シミュレーションボードゲーム同好会の活動再開が許可されたのは、霧村さん、浦沢くん、小金沢さんの皆さんが今回の期末テストで高得点を上げたからです。勉強をおろそかにしていなかった以上、活動を止めておくだけの理由はありません」

    「そうですか?」

     キリコは疑わしそうな目を向けた。

    「わたしもテストの採点結果をもらいました。見た限りでは、これまでのわたしの成績とさほど変わりはないように思えました。確かに、ほんのわずか偏差値が上がっていたことも事実ですが、学校がこれまでの対応を改めるまでに大々的な変化とも思えません」

    「霧村さん」

     校長は感情を感じさせない目でキリコを見た。

    「たしかに、あなたは『鉄の女』と呼ばれていただけのことはありますね。もしもそう呼ばれるのが嫌いだったら、少しは折れることも学ぶべきです」

    「先生、それはわたしは『鉄の女』などと呼ばれたくはありませんが、そのこととこのことでは」

     校長は、ぱん、と手を叩いた。

    「わたしと学校からの話はこれで終わりです。霧村さん、シミュレーションボードゲーム研究会はあなたたちの日ごろの向学の行いのために活動停止を解かれました。それだけを心にとどめておきなさい」

     ぎろりとぼくたちをにらみつける。

    「わかりましたか?」

    「わかりま」

     せん、と続けようとするキリコの頭を、ユメちゃんが流れるような動きですばやく押さえ、むりやりにその頭を下げさせた。

    「わかりました」

     とユメちゃんはいった。

    「よろしい。退室してけっこうです」

     ぼくも内心、不満を感じていたのも事実だ。しかし、これから大学を受けようなどと考えている人間には、正義ではないと知りながらもそれに目をつぶるだけの如才なさもまた要求されるのだ。腹の中がどうであろうと。

    「会長」

     校長室の外で、ユメちゃんはそういうとキリコに対して頭を下げた。

    「すみませんでした」

    「いいのよ」

     キリコは硬い顔をして答えた。

    「あなたはよく止めてくれたわ。あのままだったら、わたしはいったいなにをしていたかわからない」

    「話が見えないんだけどさ」

     二人がまた歩き出したので、ついていきながら口を挟んだ。

    「キリコ、お前、なにをしようとしていたんだい」

    「わからなくていいのよ」

    「浦沢先輩、あたしが思うに、会長は校長から謝罪の言葉を引き出したかったのでしょう」

    「謝罪?」

    「あそこでもいった通り、単にわたしたちのテストの成績がよかったからっていう理由で学校がうちの同好会の活動再開を認めたとは思えないわ」

     ユメちゃんから言葉を引き取ったキリコは糾弾でもするかのごとき口調で続けた。

    「そのことについて明かしてくれればよし、明かさなければ明かさないで理不尽だったことを認めさせ、あいつに謝罪させてやるつもりだったんだけど」

     キリコは吐息をついた。

    「よく考えてみたら、認めさせてもこちらにはなんの利益もなかったわね。よくてピュルスの勝利、悪くするとスターリングラードよ(後でユメちゃんに聞いたところによると、どちらも、一時的なわりに犠牲が大きすぎる勝利の代名詞みたいなものだそうだ)。ユメちゃん、あの校長がヘソを曲げる前にわたしを止めてくれたこと、ほんとうに感謝するわ」

    「会長」

     ユメちゃんが深い感情を込めた声でキリコにいう。

    「会長は勝たれたんです。会長の粘りにより、あたしたちの同好会はあたしたちが成績を落とさない限り潰されることはないと、校長に認めさせることに成功したといえるのではないでしょうか。これは戦略的勝利といっても過言ではないのではとあたしには思えます」

    「そうかもね」

     キリコはほほえんだ。ぼくにも無理していることが明らかにわかるほほえみだった。

    「そうだとしたらユメちゃん、あなたたいへんよ。まじめに勉強をやったうえで部員を勧誘し、その部員までまともな成績を取らせなけりゃならないんだから」

    「会長が会長ですから、あたしのリクルート能力については期待しないでください。人徳レベルが低いんでしょうね、きっと」

     一般人には理解不能な会話だったが、ユメちゃんが自分の魅力を活用することに気づいたら、部員の十人くらいすぐに集まってきそうな気がする。もちろん、そんなことになど気づいてくれないほうが遥かに望ましいことだが。

    「ところでユメちゃん。今日は何日だったかしら?」

    「ええ……と、待ってください」

     ユメちゃんはポケットから携帯を取り出した。

    「七月十五日です」

    「じゃ、久しぶりに『フォートレス』へ行きましょ。順昇も来るわよね?」

     虚を突かれた。

    「ま、MAPをやるのか?」

    「ほかに『フォートレス』でなにをやるのよ」

     もうあのゲームはいいよ。

    「いや、その、ぼくはカードをどこかへなくしちゃったので」

    「財布は当たってみましたか?」

     苦しいいいわけに、ユメちゃんがすかさず突っ込んでくる。

    「ないよ、きっと」

     キリコが歩みをさえぎるように立ち止まった。

    「順昇、ここで財布の中身をあらためてもさほど時間を食うわけでもないし、探してみたら?」

    「お願いします、浦沢先輩」

     あまりやりたくはなかったが、ほかならぬユメちゃんの頼みでもある。ここは聞かずばなるまい。

     財布を取り出すと中を調べた。

     カードはすぐに見つかった。中のチェックなんて、このひと月、まるでやってないのだから中にあって当然のことなのだが。

     やっぱり焼き捨てておくんだった。

     後の祭りもいいところだ。

    「で、行くにあたってだけど、ユメちゃん?」

    「なんですか、会長」

    「今日は制服なんかで来ないでね。あの校長にはどんなささいな口実も与えたくないから」

    「もちろんです」

    「順昇もだからね」

     はい。


       予告

     誇りを知らぬ戦闘機械。もし、それが誇りを知ったら。

     隙など見せぬ戦闘機械。もし、それが意地に燃えたら。

     負けることの許されぬ戦いにおいて、キリコの心に生じたものは。

     パーフェクト・ソルジャーよ、お前はやはり人間なのか。

     次回、「私闘」。

     いったい誰が責められる。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ものすごく下世話な理由からです(`・ω・´)キリッ

    校長先生も人の子なのです。(それでいいのかなあ……(笑))

    NoTitle

    おっと校長先生、どうしたのでしょう。
    たしかに、ずいぶんと態度が変わりましたね。

    普通の子なら、理由はともかくお許しが出たことにとりあえず喜んでしまいそうですが、そうはしないキリコちゃんの生硬さもかわいいです。
    いよいよまた、三人の勇姿が見られそうなので続きも楽しみにしております!
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