ウォーゲーム歴史秘話
偽史つくりの弁明
なんで人間はシミュレーションゲームなんかをやるのかといったら、そりゃもう、いくつもの理由があるわけだが、特に歴史好きがこの手のゲームをやるときの理由のひとつに、「偽史をつくるのが面白いから」というものがある。単に戦略や戦術を競うだけなら、囲碁や将棋やチェスがあればそれで充分であるし、サイコロを振るだけならばチンチロリンや丁半博打があれば充分だろう。シミュレーションゲームファンは、実際の能力に似せたコマを実際の戦場に似せた盤の上で動かすことによって「でたらめな歴史」が発生してくるのを愉しむのだ。
「偽史」とは、架空の歴史を語ることとはちょっとずれる。架空の歴史を作ることであったら、史上最大の名人は「指輪物語」のJ・R・R・トールキンであろう。自分で架空の言語をこしらえて(トールキンの本職は言語学者)、その言語が使われている世界の数千年にわたる歴史を、がっちり構築してしまった偉業は、世界の文学史にも比べるものがない。
「偽史」を愛好するシミュレーションゲームファンは、例えばそんなトールキンの世界で「もしこんなことが起こっていたらあの世界はどうなっていただろうか」と考えるだけで興奮する人間である。「もし、ここで東夷とゴンドールが同盟を組んでモルドールを挟撃していたら面白いんじゃないか。さしものサウロンも無傷じゃいられまい。すると一つの指輪をめぐってゴンドールとローハンが険悪になって、ウンバールの海賊がよりモルドールとくっついて、中つ国にこういう陰謀が起こって。くうー、燃えるぜ!」むろん、そんなことを聞いたらトールキンは「おれの歴史と違う!」と激怒するだろう。
自分が書いた偽史が実際の歴史と違うことはシミュレーションゲームファンもよく承知しており、わかったうえで「これは偽史ですよ」といって偽史を出すわけだ。そのために必要とされるものは何かというと、「正当な史実が存在することに対する全幅の信頼」なのである。ウィトゲンシュタインがいいたかったことの逆になるが、「ホンモノが存在しなかったらニセモノがニセモノであるための根拠がなくなってしまう」のだから。
「歴史修正主義者」や「黒歴史」とはそこが違うところである。「歴史修正主義者」は、フィクションに過ぎない「偽史」を「史実」に置き換えてしまおうとする輩であり、「黒歴史」は「史実がカバーしていないところを創作して補って「史実」にしてしまおう」と考える輩である。歴史修正主義者の跳梁跋扈は目を覆うものがあるが、日本の某「ガ〇ダム」などにおける黒歴史の猖獗ぶりもまた目を覆うものがある、とシミュレーションゲームファンは考える。
かくして今日も、「史実と同じくらいに面白い架空の歴史」を作るために、シミュレーションゲームファンはボードを広げて駒を並べる。目の前で展開される屍山血河の戦闘は、それがニセモノであるがゆえにただひたすらに楽しい。ホンモノだったら……そりゃつらいだけですがな、あなた……。
「偽史」とは、架空の歴史を語ることとはちょっとずれる。架空の歴史を作ることであったら、史上最大の名人は「指輪物語」のJ・R・R・トールキンであろう。自分で架空の言語をこしらえて(トールキンの本職は言語学者)、その言語が使われている世界の数千年にわたる歴史を、がっちり構築してしまった偉業は、世界の文学史にも比べるものがない。
「偽史」を愛好するシミュレーションゲームファンは、例えばそんなトールキンの世界で「もしこんなことが起こっていたらあの世界はどうなっていただろうか」と考えるだけで興奮する人間である。「もし、ここで東夷とゴンドールが同盟を組んでモルドールを挟撃していたら面白いんじゃないか。さしものサウロンも無傷じゃいられまい。すると一つの指輪をめぐってゴンドールとローハンが険悪になって、ウンバールの海賊がよりモルドールとくっついて、中つ国にこういう陰謀が起こって。くうー、燃えるぜ!」むろん、そんなことを聞いたらトールキンは「おれの歴史と違う!」と激怒するだろう。
自分が書いた偽史が実際の歴史と違うことはシミュレーションゲームファンもよく承知しており、わかったうえで「これは偽史ですよ」といって偽史を出すわけだ。そのために必要とされるものは何かというと、「正当な史実が存在することに対する全幅の信頼」なのである。ウィトゲンシュタインがいいたかったことの逆になるが、「ホンモノが存在しなかったらニセモノがニセモノであるための根拠がなくなってしまう」のだから。
「歴史修正主義者」や「黒歴史」とはそこが違うところである。「歴史修正主義者」は、フィクションに過ぎない「偽史」を「史実」に置き換えてしまおうとする輩であり、「黒歴史」は「史実がカバーしていないところを創作して補って「史実」にしてしまおう」と考える輩である。歴史修正主義者の跳梁跋扈は目を覆うものがあるが、日本の某「ガ〇ダム」などにおける黒歴史の猖獗ぶりもまた目を覆うものがある、とシミュレーションゲームファンは考える。
かくして今日も、「史実と同じくらいに面白い架空の歴史」を作るために、シミュレーションゲームファンはボードを広げて駒を並べる。目の前で展開される屍山血河の戦闘は、それがニセモノであるがゆえにただひたすらに楽しい。ホンモノだったら……そりゃつらいだけですがな、あなた……。
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Re: 黄輪さん
いや、あれはわたしが無神経すぎました。冷静に振り返ってみると、黄輪さんがあえて切り捨てたところに「稗史」を捏造してやろうという、「黒歴史」的傲慢さがあの小説にはありました。我ながら恥ずかしいです。
内容的にも、クーの性格を考えるとあれはたしかに許容できる内容ではないので、自戒のためにもあれは封印しておこうと思います。
もし今後黄輪さんの小説で遊ばせていただくことがあるとしたら、もうちょっとひねりたいと思います。二次創作なりパロディなりの醍醐味は、「その対象の歴史上の実在の人物」とコラボさせることにあるのはもちろんですが、その「歴史上の実在の人物」がうまく活写できていなければ、わたしの黄輪さんに対する中傷と受け取られてもしかたないですからね。もしまた二次創作を試みる機会があればそのときはさらに眼光紙背に徹するほど読み込んで、もっと黄輪さんへのリスペクトが感じられるものにしたいです。
まあ、そういう境地に達するまで、うかつなパロディは自重します。お心遣いありがとうございました。また続きを読ませてくださいね。
内容的にも、クーの性格を考えるとあれはたしかに許容できる内容ではないので、自戒のためにもあれは封印しておこうと思います。
もし今後黄輪さんの小説で遊ばせていただくことがあるとしたら、もうちょっとひねりたいと思います。二次創作なりパロディなりの醍醐味は、「その対象の歴史上の実在の人物」とコラボさせることにあるのはもちろんですが、その「歴史上の実在の人物」がうまく活写できていなければ、わたしの黄輪さんに対する中傷と受け取られてもしかたないですからね。もしまた二次創作を試みる機会があればそのときはさらに眼光紙背に徹するほど読み込んで、もっと黄輪さんへのリスペクトが感じられるものにしたいです。
まあ、そういう境地に達するまで、うかつなパロディは自重します。お心遣いありがとうございました。また続きを読ませてくださいね。
狙うは家康が首一つ
信長の野望でやることは二つ。信長で天下を統一すること。それが出来たら次は弱小勢力を使って家康の首を取る事。佐竹、上杉、真田、北条、とにかく家康の首を狙ってレッツゴー。あの狸おやぢの首を獲って、せめて架空だけでも歴史を変えたいのである
NoTitle
烏滸がましいですが、僕も恐らく、トールキン先生と同じタイプなので、二次創作に対して怒るかも知れないと言う意見は同意できる点があります。
実は設定構築のために書いた非公開小説とか設定集とか条文とか聖書とかが、僕のSSD内にごろごろと溜め込んであるので……。
先日の件ですが、こちらからも謝罪します。
自分の狭量で「源史」に固執した挙げ句に他人の作品を否定し、不快感を与えてしまい、お恥ずかしい限りです。
折角、拙作をお読みいただき、さらには宣伝も併せて作品を公表していただいたのにもかかわらず、不躾な振る舞いをしてしまったこと、反省しております。
申し訳ありませんでした。
ただ一点、再度あの作品を公表される場合には、「将軍」の名前を変えていただきたいと所望します。
と言うのも――これも上述の、「非公開の設定」上の理由ですが――北方系の人たちの名前は、スラブ系や北欧系、その他現実世界における極北地域の言語で統一しているところでして。
可能であれば「クラウン」ではなく、例えば「トロン(трон/王位)」など、それっぽい名前にしていただければ幸いです。
実は設定構築のために書いた非公開小説とか設定集とか条文とか聖書とかが、僕のSSD内にごろごろと溜め込んであるので……。
先日の件ですが、こちらからも謝罪します。
自分の狭量で「源史」に固執した挙げ句に他人の作品を否定し、不快感を与えてしまい、お恥ずかしい限りです。
折角、拙作をお読みいただき、さらには宣伝も併せて作品を公表していただいたのにもかかわらず、不躾な振る舞いをしてしまったこと、反省しております。
申し訳ありませんでした。
ただ一点、再度あの作品を公表される場合には、「将軍」の名前を変えていただきたいと所望します。
と言うのも――これも上述の、「非公開の設定」上の理由ですが――北方系の人たちの名前は、スラブ系や北欧系、その他現実世界における極北地域の言語で統一しているところでして。
可能であれば「クラウン」ではなく、例えば「トロン(трон/王位)」など、それっぽい名前にしていただければ幸いです。
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Re: miss.keyさん
国力や兵力を考えると、史実では絶対無理ですが、それを可能にしてしまうところが、光栄のあのシリーズの強みだと思います。
専門誌でも語られてましたけど、あの手のいわゆる「戦略級マルチプレイヤーズゲーム」は、裏切りと陰謀を生き残っているうちにはっと気がつくと盤上に自分の大帝国が出来上がっている、という脳内麻薬ドバドバゲームなので、あれを実際に多人数でボードでやると、よほどできた人でないとゲームサークルが崩壊する、というのもまた事実で……ははは、楽しいなあ三国志(笑)