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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ101位 エヴァ・ライカ―の記憶 D・A・スタンウッド

     ←日本ミステリ98位 異郷の帆 多岐川恭 →自炊日記・その91(2019年7月)
     東西ベスト100を踏破して、次はどうするかで悩んだが、あのポンペイウスと戦っていたころのユリウス・カエサルが「戦略的に後背を突かれたくない」と、ポンペイウスのいる東部属州への電撃戦の策を捨てて、西部のヒスパニアの平定に取り掛かった故事にならい、85年版「東西ミステリーベスト100」の付録である「101~198までの海外ミステリー」をつぶしておくことにした。スムーズに進んで2年、というところだろう。それに、この欄には読み残した作品も多々あるので、きちんとけりをつけておきたい。

     と、いうわけで、スタンウッド「エヴァ・ライカーの記憶」の再読である。この作品は一度、大学のころ、百草園の駅近くにある古本屋で入手し読んだ。当時は文春文庫で上下巻だったのを覚えている。なにしろ地獄の底にいるような精神状態だったので、この作品も印象は薄い。面白かったような気がするが……レベルである。あれから二十年。図書館に文春文庫版を取り寄せてくれるようお願いすると、創元で再刊されたものを勧められた。もちろん、そちらのほうがいい。読みやすいし。タイタニック号が絡むところまでは覚えていたが、内容についてはまったくといっていいほど忘却の彼方だったのでどきどきしながら読み始める。よく訪問しているブログ「探偵小説三昧」さんのところで高評価だったことでもあるし、もしかしたら素晴らしい読書体験が待っているのではないか。

     読んでみると、まあこれが、「ノンジャンル・エンターテインメント」そのものであった。タイタニック号沈没事件を縦糸に、情報小説の要素と謀略小説の要素と冒険小説の要素とホラーの要素が加わったうえで行う、「犯人捜しの謎解きミステリ」なのである。名探偵人を集めてさてといい、というミステリ川柳があるが、文庫本200ページくらいを使って行われる怒涛の謎解きシーンは圧巻である。これまでに起こったことがひとつひとつパズルのピースのようにはまっていく快感は、いわくいいがたい。何しろ発端から解決まで半世紀かかる事件なのだ。

     深海に眠るタイタニック号に接近するシーンや、氷山に激突したタイタニック号が沈んでいくシーンの描写は実に美しい、というか、スタンウッド先生筆が滑りすぎなんじゃないか、と思えるほどだが、まさに「映画を見ている」ような感じ。誰でも知っている映画のヒット作に「タイタニック」というやつがあったが、そんなもの作るよりはこの「エヴァ・ライカーの記憶」を映画化したほうがよっぽど面白かったのではないか、と思えてならない。

     こんな傑作が101位なんだから、85年版「東西ミステリーベスト100」の層の厚さはたまらんものがあるな。文春文庫のミステリということであるならば、分厚さ、迫力、読みやすさからしても、ジェサップ「摩天楼の身代金」はおいといても、デンカー「復讐法廷」よりは上ではないかと思えてならない。まあ、「復讐法廷」を抜いてしまうと、「法廷もの」がなくなってしまうのでそれもどうかと思うのだが。

     文春文庫版が絶版になったときから長らくこの本も入手困難が続いて「幻の作品」になっていたから、読むなら創元推理文庫版が比較的容易に入手可能な「今」しかないぞ。この大陸をまたいで行われる、殺人あり暗号ありスペクタクルシーンありの、サービス精神満点なサスペンスフルでスリリングな徹夜本の話、わかっている誰かともっとしたいんだけどなあ! 
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃく軒店商店街さん

    こんなむちゃくちゃな作品が量産できたらそれこそ天才ですよ。

    世の中には「一発屋」にすらなれない人間がごろごろしてますからなあ……。

    NoTitle

    >それでやると、この小説、『普通のサスペンス』になっちゃう
    まさにそう!(^^ゞ

    ま、今の感覚で評価するのは、確かにフェアじゃないんだろうけど。
    でも、今の多くの(日本の)ミステリー小説ファンからすると、ていうか、その感覚で想像するには、主人公の小説家が館に忍び込んじゃうシーンなんかは全くウケないんじゃないかと。
    個人的には、主人公に共感(感情移入ってやつ)が出来なかったのは(ストーリーが面白いだけに)残念だったなーって思いました。
    変な話、それこそ、2作目が全然で、一発屋に終わったっていうのもわかるかなーって思いましたね(^^ゞ
    • #20526 ひゃく軒店商店街 
    • URL 
    • 2019.10/14 16:25 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 赤いひゃくねと緑のひゃぬきさん

    でも、それでやると、この小説、『普通のサスペンス』になっちゃうからなあ(笑)。日本人にウケてベストミステリのリストに載ったのも、この「ムチャクチャな構成」あってのことだから、まあ、難しい問題ではある(笑)。

    NoTitle

    やっと読み終わりました。
    面白かったー!(^^)v
    教えてもらって感謝!感謝!です。

    ただ、タイタニック沈没時のパートで時系列にやった方が(つまり、たんなるサスペンス)にしちゃった方が、よりよかった気がするけどなー。
    プロの作家じゃない人が書いたからこそ、いい面はもちろんあるんだけど。
    でも、プロの作家の作品というのは、限られた時間の中で仕上げるからこそ、偶然の?必然の?良さが生まれるのかなー、なんてことを思いました(^^ゞ
    • #20505 赤いひゃくねと緑のひゃぬき 
    • URL 
    • 2019.10/06 15:47 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくと雪の女王さん

    まあ、致命傷でなかったことを喜ぶしかないのかもしれませんなあ……。

    わたしも使っているPCが壊れたらマジで路頭に迷いますからなあ……。

    NoTitle

    >そろそろ直ったころかな
    見積捕ったら、ほとんど新品買える値段だったんで。
    買っちゃったよ!
    すんごい痛い!(>_<)

    ていうか、エヴァ・ライカ―は、今週もあまり読んでないんだけど。
    それども、沈没にかかわるあれこれは、圧巻だった!(^^)v
    これ、いっそ、タイタニックの時代だけで話を作った方が、よかったんじゃない?
    ま、前半の諸々があるからこそ、ミステリーのあらゆるジャンルが含まれた傑作!という名声があるんだろうけどさー(^^ゞ
    • #20484 ひゃくと雪の女王 
    • URL 
    • 2019.09/29 15:53 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 荒野のひゃく人さん

    そろそろ直ったころかな。

    NoTitle

    >この本読んでひっくり返ってひくひく笑うあの感覚が理解できないとは、残念な限り
    あぁ、だからまだそこまで行ってないのよ。
    今週はさ、パソコン壊れちゃって。
    あれから一ページも読んでない(/_;)
    • #20463 荒野のひゃく人 
    • URL 
    • 2019.09/23 15:31 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくデカ「んぺと」さん

    うーん、この本読んでひっくり返ってひくひく笑うあの感覚が理解できないとは、残念な限り……。

    NoTitle

    先週、日曜の夜、台風で徹夜しちゃったもんだから、もぉ一週間ずっと眠くって。
    あれから、1ページも読んでない(>_<)
    あ、違う。
    5ページくらいは読んだか?(爆)
    • #20438 ひゃくデカ「んぺと」 
    • URL 
    • 2019.09/16 14:44 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくと千尋の神隠しさん

    この本の、後半半分がすべて謎解き、というムチャクチャな構成は、書こうとして書けるもんじゃない(笑)

    スタンウッド先生、次作は駄作の極みだったそうで、「典型的一発屋」で終わっちゃったらしいのが残念。どっかでゴーストとかしてないのかな。

    NoTitle

    200ページちょっとすぎて、やっと面白くなってきた!
    ただ、良くも悪くも昔の小説かなぁ~(^^;
    主人公があまりにウルトラスーパーだし。
    あと、主人公の奥さんが、主人公にとってあまりに都合よすぎ。
    とはいえ、残りが楽しみです。
    • #20412 ひゃくと千尋の神隠し 
    • URL 
    • 2019.09/08 15:20 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    >ゴダードはまともに読んだことない
    へー、キライなんだ!
    それは、ちょっと面白いかもしれない。
    ブリッツさんと私の好みの違いの根本がそこらにあるのかも(^^ゞ

    ちなみに、あまりに気になるので買っちゃいました。
    古本で送料込みで1000円弱って、えれぇ高ぇーなーとは思いましたが、届いた本の定価を見て、ビックリ!
    1400円って、文庫かよ!

    昨日の夜、やっと読み始めて…、もっとも涼しいのがキモチよくて、すぐ寝ちゃったんだけどw、それでも、出だしはかなり好みっぽいかも?(^^ゞ

    中をパラパラ見てると、暗号やら船の中の図とかがあって、あぁーこの辺は私の好みじゃないかなあーと思ったんだけど、たぶん、その辺りがブリッツさんと好みがわかれるところなんでしょうね(^^)/
    • #20400 秘密戦隊ひゃくレンジャー 
    • URL 
    • 2019.09/01 15:52 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃく・にち・べにさん

    ゴダードはまともに読んだことないです。

    この作品は……うーん、形容に困る作家だ(笑)。謎解きに重点を置いたマイクル・クライトン? いや、マイクル・クライトンが謎解きミステリ書いたらこんな感じに?(そうか?(笑))

    NoTitle

    初めて聞く本ですけど、ロバート・ゴダードみたいな感じなのかな?
    だとしたら、読んでみたいなー。
    • #20380 ひゃく・にち・べに 
    • URL 
    • 2019.08/25 16:00 
    •  ▲EntryTop 
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