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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ103位 怪盗紳士ルパン モーリス・ルブラン

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     ひと昔前の昭和時代、ミステリファンへの道を踏み出した小学生が、明智小五郎と怪人二十面相の後に必ず通過する二大人物が、シャーロック・ホームズとアルセーヌ・ルパンであった。最近の子供が名探偵コナンとルパン三世に出会うのと似たようなものでありながら、全然違うのである。コナン君とルパン三世は「大人向けのマンガ」「大人向けの映画」にコンタクトするための第一歩であるのに対して、ホームズとアルセーヌ・ルパンは「大人向けの小説」にコンタクトするための第一歩だったのであるから。

     というわけで、まだ前途が希望に満ちていて、こんなミステリの泥沼に首まで突っ込むとは思いもしなかったイノセンスな少年時代を思い出しながら再読。

     読んでみたが、いや、やっぱり面白いルブラン。永遠の名探偵シャーロック・ホームズを産み出したドイルに比べられて、「読まれているのはフランスと日本だけ」と揶揄されることが多いルパンだが、そのストーリーテリングは群を抜いている。内容をすべて知っているのに、夢中になって読んでしまった。

     やっぱり、これは、「悪の魅力」というものが満ち満ちているからだろう。紳士強盗ということでは、イギリスにもラッフルズがいるが、あれとはかなり違う。ラッフルズは永遠のアマチュアの青二才であるのに対し、ルパンは6歳児のときから、権威に反抗するひとりの大人の英雄なのだ。ラッフルズは自分の生活のために物を盗むが、ルパンは身分制度や警察組織といった、あらゆる権威に反逆するために物を盗む。だから、ルパンはたまに盗んだものを返したりするが、それは彼が義賊であるからではなく、『エコー・ド・フランス』誌などを通じて、『ルパンはこうして権威に反逆しました』という宣伝がなされれば、カネ自体はどうでもいいからだ。わたしは傷つきやすい青春小説を読んでいるかのようなラッフルズ譚も好きだが、どちらが今読んで面白いかといわれれば、痛快無比なルパン譚のほうだと思う。

     しかし、ルブランに欠けている能力もあり、その第一は、パスティーシュを作る才能であった。本書収録の「遅かりしシャーロック・ホームズ」や、長編「奇巌城」「813」に、重要な役どころとしてホームズが登場するのだが、そのホームズが、容貌から、推理法まで、ちっともホームズらしくないのである。だったら、ドイルの抗議を受けて名を変えたエルロック・ショルメス探偵だと思いこめばいいのかもしれないが、このショルメス探偵、作中における魅力からいっても、ガニマール警部以下なのだ。ルブランが自分から新機軸としてホームズと対決させれば盛り上がると考えたのか、寄稿している雑誌の編集者が絶対ウケる面白いネタだからやれとけしかけたのかは知らないが、バカなことをやったものだと思う。ミステリ界において、このルブランの挑戦がもたらした好影響といえば、「ルパン対ホームズ」という趣向に幻惑された作家たちにより、著作権なんぼのもんじゃいという勢いで、いろいろな「両雄もし戦わば」みたいなパロディ作品、パスティーシュ作品が書かれたことくらいだろう。とすると、けっこうミステリ界における評価より、はるかに重要な作家なのかなルブラン。

     また、主人公を怪盗にしたことにより、通常のミステリではお目にかかれないような「意外な結末」を迎える、トリッキーな作品が多いことにも留意すべきだろう。103位で読むにはふさわしい短編集だった。「八点鐘」とか「バーネット探偵社」とか、また読みたいなあ。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくと雪の女王さん

    学べるところからすべて学ぶような殊勝な政治家だったら、誰も「とほほ」なんていいませんや。とほほ。

    NoTitle

    >国際情勢を勉強していた
    ま、学べるところからはすべて学ぶ、という姿勢も大切かと(^^ゞ
    • #20483 ひゃくと雪の女王 
    • URL 
    • 2019.09/29 15:47 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 荒野のひゃく人さん

    ルパンなんてまだ甘いもんです。

    日本で一番人気で総理も読んでる犯罪礼賛劇画「ゴルゴ13」ってのがありますからねえ。

    なんと首相経験者のある人は、この殺人礼賛劇画で国際情勢を勉強していたそうではないですか。

    とほほ。

    NoTitle

    >ルパンを登場させてシリーズに組み込んでましたから。なおかつそれが面白い
    今週、見ていたTVで、是枝裕和とケン・ローチという映画監督の対談があって。
    その中で、「万引き家族」が、「犯罪称賛映画」みたいな世の意見があったって話が合ったんだけど。
    思わず、じゃぁ「ルパン三世」は何で批判されないんだよ!とか思ってしまったという(^^ゞ
    「万引き家族」は録画だけして見ていないんで。今度、見てみようかなーって思っちゃいましたとさ。
    めでたし、めでたし
    • #20461 荒野のひゃく人 
    • URL 
    • 2019.09/23 15:25 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくデカ「んぺと」さん

    でしょうね。勢い余ってルブラン作品でもルパンの出てこない話にまでルパンを登場させてシリーズに組み込んでましたから。なおかつそれが面白い、という(^-^;)

    NoTitle

    >あの人が徹底的に日本の少年向けに翻案してなかったら
    あー、やっぱりそういう人がいたからこそなんだ。
    • #20437 ひゃくデカ「んぺと」 
    • URL 
    • 2019.09/16 14:41 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 椿さん

    王道を行くゴシックロマンですよね「三十棺桶島」。ルブランのハッタリに満ちた語り口がたまりません(^-^)

    その一方で都会的な冒険も書くわけですから、ルブランのストーリーテラーぶりにはあこがれてしまいますなあ。

    NoTitle

    あー! 「三十棺桶島」も好きです! あのホラーな雰囲気がいいんですよねえ。時々読み返したくなるやつです^^

    Re: ひゃくと千尋の神隠しさん

    日本で人気があるのは南洋一郎先生のおかげでしょうね。あの人が徹底的に日本の少年向けに翻案してなかったら、ここまで読み継がれることもなかったように思います。

    もっとも、原文に忠実なることを求める中島河太郎先生なんかは、創元推理文庫「怪盗紳士リュパン」の解説で、誰にでもそれと分かる形で名前を伏せてボロクソにいってますが(笑)

    Re: 椿さん

    渋いところでは、わたしは「金三角」や「三十棺桶島」なんかも好きだったりします。このころになると、ルパンが女の子を助ける以外に何をしたいんだかもよくわからなくなってくるのにカッコいい、という(笑)

    いつか、偕成社の全集の再読いってみようかなあ。

    NoTitle

    >ミステリファンへの道を踏み出した小学生が、
    あ、明智小五郎も怪人二十面相も、怪盗ルパンも読んでない!
    (かろうじて、ホームズは小学生版のヤツを3冊くらい読んだ記憶がある。あ、4冊だw)
    やっとわかった!
    つまり、私はミステリー小説ファンじゃなかったんだ!(爆)

    >イノセンスな少年時代
    ブリッツさんにもそんな時代があったんだなぁ~。
    (いまじゃ、ヒネまくりなのにね (^^ゞ)

    >読まれているのはフランスと日本だけ
    へー、そうなんだ。
    確かにそう言われてみれば、儒教にかぶれちゃった日にゃぁ、泥棒が主人公なんて、読んでられないのかもなぁ~(*^^)v

    考えてみれば、ルパン三世じゃないけど、なんであんなに怪盗ルパンが人気あるんでしょうね。
    たんに日本人のおフランス好きゆえとも思えないけど。
    日本人って、基本的に真面目だから、ドロボーを自分のヒーローにすることで、自分もちょっと悪ぶりたいのかな?(^^;
    • #20411 ひゃくと千尋の神隠し 
    • URL 
    • 2019.09/08 15:16 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    これは読んでますー。というかルパンはおおよそ読みました。
    私は最初のこの作品集が一番面白い気がします。『八点鍾』も大好きですが!
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