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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ103位 葬儀を終えて アガサ・クリスティー

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     クリスティーはうまい。たしかにうまい。うますぎるので敬遠していた部分が大きい作家だ。本書も敬遠していた中に入っている。というわけで初読である。

     ポアロのドラマはNHKとBSとミステリチャンネルでもう、飽きるほど見た。デビッド・スーシェのポアロはまさにはまり役である。よくあんな俳優見つけてきたもんだ。だからこの「葬儀を終えて」もドラマで見ていたはずだ。筋は忘れていたがこれなら先んじて犯人を当てることもできるかもしれない。わたしは作者と知恵比べするつもりで今回の読書に挑んだ。

     今回のクリスティーの趣向は、どこかサスペンス的である。田舎の屋敷で大金持ちの老人、リチャードが死んだ。その葬儀の時にやってきた、口が軽いことで有名だった末娘、コーラが、「だって、リチャードは殺されたんじゃなかったの?」と不穏なことを口走る。その翌日、コーラは惨殺死体で発見された。関係者は皆、誰しも腹に一物あったり、複雑な事情を抱えているものばかりである。……いったい、この家で何が起こっているのか? クリスティーらしい、よくある話のようで、それでいて新鮮なシチュエーションだ。

     わたしは新版で500ページ近いこの作品に果敢に挑んでいった。あれだけドラマを見たんだから読者側完全有利ではないか、と思われるかもしれないが、獅子は子兎一匹を捕らえるのにも全力を尽くすという話もある。ストーリーは覚えていなかったが、あれだけドラマを見たのだからクリスティーが好みそうなレッドヘリング(偽の手がかりのこと)の使い方については自家薬籠中といえるほど心得ている。

     中盤にさしかかり、わたしは容疑者を3人に絞った。だがいずれも、決め手がない。片一方の事件の最重要容疑者はもう一方の事件に完全にシロだったり、あるいは一方の事件についての最重要容疑者は、その事件を起こしても何のメリットもなかったり。探偵のエルキュール・ポアロといえば、のそのそと聞き込みをしては、わけのわからない「実験」を行う、などといって状況をはぐらかす一方である。誰かと誰かが共犯なのか、とも思ったが、共犯をするだけのメリットがどの容疑者にも存在しないのである。

     わたしは最後まで五里霧中だった。そんな中ページを繰っていると、ポアロが、いきなりとんでもないことをヌカしやがったのである。

     えーっ、そうくるのー?

     全てがご破算になり、そこからはポアロの説明をそうですかそうですかと聞くだけだった。

     クリスティーはうまい。嫌味なほどうまい。同じ多作といっても、内田康夫などとは比べ物にならないほどにうまい。どこをどう突っつけば、ミステリマニアがレッドヘリングに食いつくかを実によく知っている作家だ。マニアほど引っかかりやすい作品なのである。

     こいつ、絶対、ベネ・ゲセリットの一員に違いない。本を閉じた後、わたしはクリスティーの悪魔のような企みに、心からそう思った。ミステリの女王、おそるべし。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくと雪の女王さん

    このリストを全部埋めるまでは無理だな。

    それに、北欧ミステリと同様、面白いものはこれから発掘されてくるでしょうし、アジアンミステリー的には、今後の中国と韓国からは、目が離せないでしょうなあ。

    NoTitle

    >アジアンミステリー
    おー!それ、面白そうじゃん。
    また、例によって、アジアンミステリーの名作紹介をぜひ!(^^)/
    • #20482 ひゃくと雪の女王 
    • URL 
    • 2019.09/29 15:45 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 荒野のひゃく人さん

    東西は、日本と外国、であります。

    最近はアジアンミステリーも日本で知名度が出てきましたが、一昔前は「不毛の荒野」扱いでしたからねえ……。

    Re: 面白半分さん

    大阪行きの新幹線からコメしてます。今日もこれから一冊読むところですが、いや、クリスティー、何を食ったらこんなに小説がうまくなるんだ、と。神がかりですなあ。

    ほんとにりんごをかじっただけでアイデアがもりもり湧いて書けるのなら、主食をりんごにしたい(笑)。

    真鍋先生表紙絵にはなんともいえない魅力がありますよねえ。コレクションには最適ですなあ。

    NoTitle

    >何回いったら
    あと、5回くらいかな?(^^ゞ

    >何が出るかはそのガイドブックのリスト次第だじぇ
    ふと思ったけど、その「東西ミステリー」の東西って、どこを指してるんだろ?(笑)

    >Mかよ(笑)
    尻にローソクたらしたろか?(^^)/
    • #20460 荒野のひゃく人 
    • URL 
    • 2019.09/23 15:18 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    クリスティはいったい何作でているのかさえ把握していない状態で
    本作も知りませんでしたが、ここまでご紹介されると是非読みたい。

    実はハヤカワ旧版(真鍋博表紙)を集める決意を最近したので
    ブックオフで常にチェックしていきます

    Re: blackoutさん

    ジェレミー・ブレットは、ホームズという役に巡り会ってさえいなければ、役者生命はもうちょっと長かったような気がする。

    デビッド・スーシェは逆で、ポワロを演じたことで役者としても個人としても健康になったタイプじゃないかな。

    そんなことを考えてます。

    Re: ひゃくデカ「んぺと」さん

    だからそもそもこの企画は、ミステリガイドとして一世を風靡した文春の「東西ミステリーベスト100」というガイドブックに挙げられた本を頭から順に読んでいく企画だと何回いったら(^-^;)

    この先、何が出るかはそのガイドブックのリスト次第だじぇ。

    ついでにいっとけば、アンケート形式のその本で取り上げられていた本は、すべて、「ミステリファンの基礎教養」的作品ばかり。すでに評価の定まった傑作。わたしは80年代のミステリ環境が好きだからマラソン感覚で大半を再読してるの。

    読んでも読んでも終わらない。ふふふ楽しいなあ(Mかよ(笑))

    NoTitle

    ハマり役といえば、ホームズ役のジェレミー・ブレッドがイチオシですかねw

    クリスティは、メジャーな作品はいくつか読みましたが、そういや此奴作中にあまり出てこないなぁ〜、とか、なんか不自然に絶妙なタイミングで現れるなぁ〜、っていう輩が犯人なことが多い気がしました

    ハイ、ポワロにしてもホームズにしても、あんた、いつもどこで何してんだ??っていうことが多いお人でしたねw
    灰色の脳細胞が、とかパイプでタバコふかしてるだけとかw

    NoTitle

    一週間、行方をくらましたかと思ったら、なんと!ブリッツさんとは思われぬやけにスタンダードなのを出してきたなぁ~(^^;
    思うに、ブリッツさんとスタンダードは相反するものだと思うのだがななぁ~(←偏見w)
    これは、読みました。
    確か、親父の葬式の後、しばらく経ってから(^^ゞ
    いや、いいタイミングかなーと思ったもんで。

    クリスティーは、やっぱりすごいですよね。
    スゴイ!というしかない。
    たぶん、ハヤカワのやつで半分は読んでないくらいだと思うんだけど、読んでいると(日本人作家の既読の小説を思い出して)、あ、すでにクリスティーがやってたんじゃん!なんて思うの、結構ある気がします。

    ちなみに、クリスティーは、私、上記(下記になるのかな?)椿さんと真逆で、読んだのは、ノンシリーズ>マープル物>ポアロ物なんで(笑)
    最近、ちゃんとポアロ物を読んでみようかなーなんて思ってます(^^)/
    • #20434 ひゃくデカ「んぺと」 
    • URL 
    • 2019.09/16 14:35 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 椿さん

    ほんと、人をだますことにかけては天才ですなクリスティーおばさん。

    りんごをかじるだけであんなアイデアの小説書けるなら爆食いしたいものです(^-^;)

    NoTitle

    この話は、一族のひとりひとりが何だか愛嬌があって好きでしたね。コーラが一番印象的なんですが、姪甥三人もそれぞれ欠点もあるけど味もあって。
    エントウイッスルさんでしたっけ、長年仕えた執事さんもいい感じで。
    第二次大戦前のクリスティの作品のイメージで読むと完全にだまされますよね、これ(^^;
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