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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ103位 真夜中の相棒 テリー・ホワイト

     ←竜崎巧の場合 →海外ミステリ107位 ゴーリキー・パーク M・クルーズ・スミス
     浪人生時代、松戸の古本屋で三冊百円の棚に並んでいるところを買った。模試の成績はさっぱり上がらず、趣味と性格が災いして友人ひとりできず、もう楽しみといったら内藤陳のガイドブックを頼りに古本屋で海外冒険小説を買って読むことくらいだったが、三冊百円棚の面白そうな(面白そうな、というのはハヤカワ文庫NVの分厚い本を指すことは、賢明なミステリ読者諸君にはすでにお気づきのことであろう……)海外冒険小説はすぐになくなってしまい、しかたないからブランド力では一段落ちる新潮や角川や文春の海外冒険小説を読むことになってしまうのだった。むろん、いくら松戸の古本屋でも、二百円以上払えばいくらでも棚に並んでいるのを買えたのであるが、それはさておく。「真夜中の相棒」については、前から内藤陳のガイドブックで名前だけは知っていた。手を出さなかったのは、この本が当時としてはかなり濃厚なBL的要素のある小説として有名だったからである。だが、読む本がなければしかたがない。わたしはなけなしの100円をはたいて本を買って、河合塾の寮で読んだ。

     悔しいことに面白かった。テリー・ホワイトが書きたかったのは、BL小説ではなく、もっと精神的ななにかであり、どうしようもないしがらみに絡みつかれた男たちが果てしない虚無に転落していく姿なのであった。ここで男たちを縛り付ける精神的な愛憎は深く、BL的なのは単に「それがたまたま異性相手の絆ではない」という、ただそれだけのことにすぎない。この小説がBL小説なら、映画「男たちの挽歌」なんてR18指定になってしまうぞ。わたしは内心テリー・ホワイトに謝りながら「東西ミステリーベスト100」に撃墜マークを記した。

     それから20年。この本も後輩だったか友人だったかにあげてしまい、半ば忘れていたのであるが、また意外なところでこの小説のことを思い出すことになった。畏友limeさんが書いていた心理サスペンスのひとつに、無垢な暗殺者と無骨な男のコンビが活躍するものがあったのだが、その人物設定がこの小説によく似ていたのでその旨をコメントし、「つまらなかったら代金を負担します!」と冗談交じりなことを付け加えておいたら、大人物のlimeさんは実際にアマゾンでこの小説を買い、なんというべきか、この本の魔力にずっぽりとハマってしまわれたのであった。その興奮ぶりはlimeさんのブログ「小説ブログ「DOOR」」のエッセイを読んでもらえばわかるので割愛するが、ミステリ読みとしてあれほど嬉しかったことはない。味を占めてしまった私はそれからもlimeさんにおすすめ本のムチャぶりをすることになったのだが、そのおりはどうも調子に乗りすぎてすみませんでした。あはは。

     で、今回ふたたび読んでみた。文春文庫から新版が出たのである。きちんと読んでみるとめちゃくちゃ重い小説だった。たかだか大学浪人生にすぎなかったわたしにはわかるわけのない世界だったのだ。40の坂を過ぎると、自分が、この小説において登場人物全員に破滅をもたらす警察官「サイモン」でしかないことがわかってきて、この男のやることなすことが非常に身体に突き刺さってくるようで痛い。そして作者が周到に用意した強烈なラストシーンは、20年前に読んだときとはレベルの違う破壊力でわたしに襲い掛かってきたのだった。テリー・ホワイト先生、ひどい。

     BLだどうだとかいうことはおいといて、ミステリファン、特にハードボイルドファンには満足間違いなしの逸品である。30年ぶりに再刊されて入手しやすい今、読んでおくことをお勧めする。池上冬樹のマニアックな解説も読みどころだ。
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    ~ Comment ~

    Re: 機械ひゃく爵さん

    前に読んで衝撃を受けた話だけど、

    東南アジアの工場で、日本に輸出するスーパーの刺し身用のイカの皮を手ではぎ取ってむいている単純作業をやっていた女性労働者に、どんな人がそのイカを食べると思うか、という質問がされた時に、

    「すごいお金持ちの人。だって、こんなに苦労してひとつひとつ手で皮をむいているんだから、お金持ちしか食べられないよ」

    いまの日本で普通に食べている食事、B級グルメとか言ってる食事、考え出すと怖いよ……。

    NoTitle

    ま、考えてみれば、今の日本の食べ物って、デパ地下にしろ、「日本初上陸」と話題になるなんだらスィーツにしろ、その他諸々B級グルメなんだろうね(^^ゞ

    Re: ひゃーく・すかいうぉーかーさん

    山科けいすけ先生のマンガで、町おこしの企画会議の席で、議長が「われわれが求めているのは『新しいB級グルメ』であって、君たちがさっきからいっているような『自分たちしかわからないヘンな食べ方』の発表会じゃない!」ってのがあって、個人的きすごくツボったなあ……。
    • #20595 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2019.11/11 13:25 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    >B級グルメ
    ブリッツさんの言いたいことは、スッゴクよくわかるの。
    でも、B級っていうのは、まず、大衆迎合ということを受け入れるっていのが前提なんじゃなぁ~い?('ω')ノ

    ていうか、だからブリッツさんも、「そりゃあそうだが」と前置きを入れているのか(^^ゞ
    • #20582 ひゃーく・すかいうぉーかー  
    • URL 
    • 2019.11/04 15:26 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくの焦点さん

    そりゃあそうだが、たかだか腹を満たすだけのカップ麺の味にもいちいちこだわるのがB級グルメというものなのだよ。そしてまさにミステリファンとはB級グルメそのものなのだ。

    NoTitle

    >悟りきったような笑い
    その「悟りきった笑い」をさせる、大衆迎合的内容というのも必要なのでは?
    だって、たかだか暇つぶしに楽しむ小説なんだもん(^^ゞ

    Re: ひゃく軒店商店街さん

    あれが、「ハードボイルド」で「スパイ」ね……。(悟りきったような笑い)

    NoTitle

    >「映画に負けた」ってのはちょっとなあ
    だって、ハードボイルドもスパイ物も、映画(やドラマ)じゃ今もいっぱいやってるじゃん(^^ゞ
    • #20524 ひゃく軒店商店街 
    • URL 
    • 2019.10/14 16:11 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 赤いひゃくねと緑のひゃぬきさん

    たいていは「小説のほうが映画よりも面白い」から、「映画に負けた」ってのはちょっとなあ。

    「ゲームとゾンビに負けた」ってのはあるかもしれない(笑)

    Re: limeさん

    コメ返遅れて申し訳ありません。

    人間愛っていうよりはもっとビターで残酷ですけどね。limeさんなら、すごい世界をかけると思うんだがなあ。
    テリー・ホワイト先生もここまで真剣に読んでくれたら作者冥利に尽きるでしょうな。

    ちなみに、近い将来、またlimeさんの名前が出ますんでよろしく(笑)

    NoTitle

    >「冒険小説」「ハードボイルド小説」「スパイ小説」
    「冒険小説」「スパイ小説」は、戦争そのものより、冷戦が終わっちゃったことの影響だと思うけどなー。
    「ハードボイルド」の衰退は、いわゆる核家族化や生活が豊かさが関係しているように思うけど。
    ていうか、その3つのジャンルについては、たんに単純に映画に負けた、ってことなんじゃない?(^^ゞ
    • #20504 赤いひゃくねと緑のひゃぬき 
    • URL 
    • 2019.10/06 15:36 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくと雪の女王さん

    今では珍しくもなくなりましたが、「女流ハードボイルド作家」ってのが当時ある意味足を引っ張ったところがあると思います。

    それと、2000年代に入ってからの、「冒険小説」「ハードボイルド小説」「スパイ小説」の人気の急降下があると思いますね。北上次郎らはその理由を「第二次大戦を肌で知っている世代が作家の中にいなくなってしまったから」と何かの本の中で分析してましたが、それだけでもないような気がします。

    NoTitle

    へー、これ、そのなんとかランキングで103位なんだ。
    前にも書いたけど、テリー・ホワイトは『木曜日の子供』(が出た時に)読んで。それが面白かったんで遡るように読んだんです。
    ただ、その当時、『真夜中の相棒』は、解説で名作と評されているものの、どこにも売ってなくて(絶版ではなく、在庫のみみたいな感じ?)。
    たぶん、テリー・ホワイトのそれ以外を読み終わってから、1年後か2年後くらいに増刷したのを、やっと買って読んだんです。
    そんな風に、自分的に旬を外して読んじゃったこともあるのか?
    個人的には最初に読んだ、『木曜日の子供』やコワルスキーなんかの方が面白かった記憶があります。

    ただ。
    ブリッツさんも、「きちんと読んでみるとめちゃくちゃ重い小説だった。たかだか大学浪人生にすぎなかったわたしにはわかるわけのない世界だった」と書いているように。
    うん、確かに、まだまだわかるほど世の中を知ってる齢でもなかったのかなーって思いますね(^^ゞ
    そういう意味で、また読んでみたいんだけど、ただ、そうなると好きだった他のも読んでみたいなーなんて(笑)

    ていうか。
    こういうミステリー小説(なのか?w)、最近は冷遇されてるよなー。
    (そもそも、テリー・ホワイトって、昔読んだ時から全然出版されてないじゃん!)
    アンチ新本格?、反新本格?
    何だかわかんないけど、読者の側にこそ、そういう動きがあっていいと思うんだけどな(^^)/
    • #20480 ひゃくと雪の女王 
    • URL 
    • 2019.09/29 15:40 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    あーー、そういうことで私の名前が載ったのですねw
    ポールさんご無沙汰しています!
    今PCでよんでコメントしようとしたら、スクロールができなくて、スマホで開いて書いています。私がまだIEだからか、開けないブロガーさんが多くなってしまいました(涙)

    あ、本題です!
    あの作品を紹介してもらって本当に嬉しかったです。
    まさにポールさんが書かれた通り あれは人間愛にあふれた傑作だと思います。まんまと号泣しちゃいました。どんなお涙頂戴作品でも泣けない私が。今までに泣いた小説って5作品もないんですよマジで)
    あんな人をのめり込ませる作品が書きたい(いやBLじゃなく)と今もいろいろ頑張っているんだけど なかなか...。
    また初心に戻っていい作品いっぱい読もうとおもってます^ - ^
    思い出してくださってありがとうーー
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