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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ107位 ゴーリキー・パーク M・クルーズ・スミス

     ←海外ミステリ103位 真夜中の相棒 テリー・ホワイト →「ゴルゴ13」(1983)見た
     小学生の時に読んだ桜井一の名著「名探偵100人紳士録」に、この本と、その主人公レンコが紹介されていた。それ以来気になっていて、四半世紀前の高校生のみぎり、水戸の市立図書館でやたらと分厚いハードカバーを借りて読んだ。ものすごく暗い話だったと記憶している。ちなみにその記事で知ったもうひとつの名前が「ストリッチナヤ」で、大学に進んで下宿生活を始めたとき、まっさきに酒屋へ走って行って「CCCP」の刻印が打たれたやつを買ったものである。アルコール度数40%のウォッカだ。昔から、のりやすい人間だったらしい。

     それ以来、ずいぶんとひさしぶりの再読である。果たして人生経験(というほどのこともないが)を積んでからこの本を読むとどうであろうか? 楽しみではあったが怖くもあった。

     ……で、読んだわけだが。こんな大人向けの暗いミステリ、前途に希望を持ってるような高校生のガキが読んではいかん。こんな本を読むと抑鬱症を発症し、人間不信もはなはだしいひどい根暗人間になってしまうぞ。それほどまでに、冒頭、モスクワのゴーリキー公園で三人の惨殺死体が発見されるショッキングなシーンから、結末の雪中のシーンに至るまでの、死体がごろごろ出てくる、主人公であるソビエト連邦人民警察主任捜査官アルカージ・ワシレヴィッチ・レンコの転落行はすさまじい。書かれたのは1981年、まだソ連が健在で、冷戦ど真ん中という時代である。そんな中で、ロシアを舞台に、血の通った人間としてロシア人捜査官を描き、リアルな警察小説を書くというのがどれほど困難なことであったか、作者のマーティン・クルーズ・スミスも、彼に協力した亡命ロシア人などの情報提供者たちも、よほどの生命知らずであったとしか思えない。

     ページを繰っても繰っても重苦しい裏切りと陰謀の連続で、死体が山のように増えていくが、プロット自体は堅牢で、真相も「なにもここまで」というような強烈なものが用意されている。そんな息が詰まるような空気に慣れてしまったせいか、結末でレンコがとった行動は、あまりにも救いがないものなのに、読んでいると妙な清涼感と感慨を覚えてしまうのだ。

     ここまで書いたように、この小説は救いのない未来を予感させる、ある意味「美しい」結末を迎えるのだが、まさか大学在学中に、「続編」が読めるとは全く思わなかった。転落の果てに人民警察の職も社会的身分も党の信頼も何もかも失ったレンコは、北洋漁業の漁船の雑役夫としてベーリング海で働いていたのである。1992年発売の新潮文庫の「ポーラー・スター」を大学図書館で見つけたときは「ウソだろ?」としか思えなかったものだ。その後もベネッセ(「レッド・スクエア」1994年)、講談社(「ハバナ・ベイ」2002年)、と、複数の出版社を渡り歩きながら邦訳されていった。20年近くで4冊である。作者がレンコという独特な個性から離れられないのか、日本の編集者のあいだに熱烈なファンの地下組織でもあるのかわからないが、書くほうも書くほうだが、つきあうほうもつきあうほうだ。

     こうなったら未読の「レッド・スクエア」と「ハバナ・ベイ」にも挑戦……といきたいところだが、「ゴーリキー・パーク」だけではなく「ポーラー・スター」も読者を鬱病にするような重苦しい長編だったんじゃあ! 鬱々しているときにそんな恐ろしい本読めるかあ! というわけで、もうちょっと落ち着いたときまで取っておくのである。それに、読まねばならない本、まだまだあるしな……。
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    ~ Comment ~

    NoTitle

    最近、MXテレビで仮面ライダーをやってるんだけど、今見ても(ツッコッミどころ満載なのに)カッコイよくて楽しい! ←いくつだ!(^^;

    Re: ひゃーく・すかいうぉーかーさん

    石森先生が、おんなじような話ばかり描かされていたせいか、キカイダーやイナズマンで妙な方向への暴走をはじめ、サイボーグ009にいたってはなにをやりたいのかもよくわからないありさまに。

    石森先生は、好きに「ジュン」を描いてもらっていたほうが、「マンガ日本経済入門」や「マンガ日本の歴史」なんかで晩節を汚されるよりマシだったんじゃないかなあ。
    • #20594 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2019.11/11 13:19 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    >読んで鬱になることでは石森ヒーローしてる
    あぁ、石森漫画ってそうらしいですね。
    アニメやTVドラマしかしらない、そんなイメージは今までなかったです。
    • #20581 ひゃーく・すかいうぉーかー  
    • URL 
    • 2019.11/04 15:22 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくの焦点さん

    読んで鬱になることでは石森ヒーローしてるかも(笑9

    NoTitle

    >読む気がどんどん湧いてくるだらう
    ま、「イナズマンフラッシュ!」の一声で敵が全部倒れちゃうような話、よりは読む気が湧くかも(^^;

    Re: ひゃく軒店商店街さん

    読む気がどんどん湧いてくるだらう(笑)。

    NoTitle

    >マジで「サナギマンのままで苦闘する男の話」みたいなもん
    その、あまりに絶妙すぎる比喩(たぶん)で、どんな小説かわかった!(爆)
    • #20525 ひゃく軒店商店街 
    • URL 
    • 2019.10/14 16:14 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 赤いひゃくねと緑のひゃぬきさん

    マジで「サナギマンのままで苦闘する男の話」みたいなもんだから読むときは覚悟を決めようね(笑)

    Re: 面白半分さん

    ハヤカワ文庫で上下巻ですからねえ。好みに合えば極上の読書時間を保証できますが、好みに合わなかったら地獄でしょうな。ほんとに陰謀と裏切りと殺人しか出てこない話ですので(^^;)

    NoTitle

    タイトルを目にしたことはあったけど、なるほど。そういう話(?)なのね。
    ていうか、ゴーリキーって、富士山の荷揚げの人でなく、イナズマンの変身の時の呪文(?)でもなく、そっちだったのね(^^ゞ
    • #20503 赤いひゃくねと緑のひゃぬき 
    • URL 
    • 2019.10/06 15:28 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    これは相当の覚悟を持って読めば
    その清涼感の境地ににたどり着けるのかあ!



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