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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ107位 ビロードの悪魔 J・ディクスン・カー

     ←海外ミステリ107位 黄色い犬 ジョルジュ・シムノン →シネマサンシャイン土浦で映画を見てきた。最高だった
     ディクスン・カーといえば昔から「入手難」という言葉がまとわりつく作家である。本書「ビロードの悪魔」も、名前こそは聞いていたが古本屋ですら見たことがない作品だ。というわけで、初読である。短編「パリから来た紳士」など名作ぞろいのカーの歴史ミステリの中でも特に評価が高いとあれば、期待も高まろうというもの。図書館に入るのをどきどきしながら待っていたら、思ったよりも分厚い本で別な意味でどきどき。さて、どうか。

     読んでみたわけだが、なんというか……読者をペテンにかけることでは卓越した腕を持つことでは定評があるカーだからこういうトリックやツイストも納得できるし、「ユダの窓」など、ストーリーテラーとしての才能も人並み優れていることも知っていたが……この「ビロードの悪魔」という作品、ディクスン・カー先生、筆が滑りすぎだ。自分の趣味を全開にしているのは微笑ましいが、この作品は、微笑ましいを通り越して、「こっぱずかしい」タイプの作品なのである。

     そもそも、1925年のイギリスに住む歴史学教授のニコラス・フェントンが、三百年前の毒殺事件を解決するため、悪魔に魂を売って1675年のイギリス貴族ニコラス・フェントンに乗り移り、身体を乗っ取って、毒殺されるはずの妻をその運命から救おうとする、という導入からしてすごいが、そこからの展開もまた、政治的陰謀渦巻く世界で、恋あり義侠ありチャンバラありといったゴージャスぶり。犯人探しもそこそこに、話は「三銃士」や「紅はこべ」のような冒険伝奇ロマンとなっていくのであった。こういう話が昔から書きたかったんだろうなあカー先生。その気持ちはよくわかるが、肝心の冒険ロマンの部分が、読んでいてもう実に恥ずかしい。

     この恥ずかしさはどこからくるのかを考えた結果、カーの「中二病」な部分が如実に表れているからだ、ということに考えが至った。この作品は、ギレルモ・デル・トロ監督が「11歳の自分」を楽しませるために作った映画「パシフィック・リム」と同様の視点で見るべきなのだ。ここで本書を書いているカーは、デュマやオルツィの冒険小説に熱中していた11歳の脳味噌になっているのであり、その妄想をベテランミステリ作家としてのテクニックでもってひとつひとつ展開していっているのである。

     つくづくクリスティと比べてしまう。あのミステリの女王にも「秘密機関」などの冒険小説はいくつもあるが、それはまだ「抑制のきいた」ものであった。対して、カーのこれは徹頭徹尾「オタク」のものしたそれである。歴史オタクでフェンシングオタクで幻想小説オタクでミステリオタク、といううえに熱烈なまでの「王党派」である、カーの特異な知識と趣味が奇跡のように悪魔合体してできた小説がこの「ビロードの悪魔」をはじめとするカーの歴史冒険ミステリなのだろう。

     そういう視点から見ると、本書はなによりもこれから「ラノベ」を書こうと思っているアマチュア作家が参考にすべき本かもしれない。ファンタジー要素と冒険要素とミステリ要素の充実ぶりは他の作品を寄せ付けないうえ、「プロが本気で好き勝手やった小説」の具体例がそこにあるからだ。作者のそれと波長が合う人間なら、面白くて面白くて仕方がない、解説で山口雅也がいっているように「巻措く能わざる」徹夜本なのである。健闘を祈る。
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    ~ Comment ~

    NoTitle

    ヤバイ!
    買ったのに、読んでない(爆)

    ていうか、「可」で300円(+送手数料)だから、ブリッツさんの5000円ほどブルジョアじゃないと思うぞ(^^)/
    ちなみに、「可」だったけど、どっかのウチの本棚にずっとあった本なのか、古さはあるけど、全然キレイでビックリでした。

    Re: ひゃーく・すかいうぉーかーさん

    ブルジョアめ……。(←アマゾンで5000円のTRPGルールブックを買ったやつ)
    • #20592 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2019.11/11 13:08 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    >チミは通販では100円以上の古書は買わないんではなかったのかね
    それはタテマエ。
    ホンネはその時々によって変わるの!(^^ゞ
    • #20579 ひゃーく・すかいうぉーかー  
    • URL 
    • 2019.11/04 15:13 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃくの焦点さん

    チミは通販では100円以上の古書は買わないんではなかったのかね。

    それに、かなりのギャンブラーですなあ。主人公の教授が地獄行きの運命をくぐり抜けるトリックを読んで脱力してなさい(笑)

    NoTitle

    1週間迷って、結局買っちゃった(^^ゞ
    まだ来てないけど、どのくらい小汚い本が来るんだろ?(笑)
    ていうか、待ちきれなくて、昨日の夜、「三銃士」と「四銃士」を見ちゃったよー。

    >死亡説流して更新サボるって手もあったな
    ブログなんだもん。別に理由つけてサボる必要ないじゃん!(^^;

    Re: 面白半分さん

    山口雅也先生が力のこもった解説してましたね。

    正直な話、どうしてこの活劇と義侠の歴史ロマンがこの位置につけられたのか、自分にはよくわからんところが(笑)

    完訳はすごいと思うけれどテンポがグダグダな講談社文庫版「友を選ばば三銃士」よりは面白かったから、別にいいのかな(笑)

    NoTitle

    確認できていなのですが
    推理文庫巻末の作品紹介ページでは
    本格作品とはちょっと違う紹介のされ方をしてた作品だったかな、なんてふと思いました。
    (そんなことないかもしれません)

    ”「こっぱずかしい」タイプ”とのご紹介でふとそんな気に。

    Re: ひゃく間洞山の家さん

    これは密室じゃなくて、誰が毒を盛ったかのトリックを当てる話。まあ、前半四分の一くらいで明らかになっちゃうんだけど(笑)

    メインとなる謎は、「誰がそれをやらせたか」と、「主人公はどうやって悪魔との契約をチャラにするのか」で、まあ、両方とも、しょうもないっちゃしょうもない(笑)

    カー先生、普通に歴史ロマン書いたら? とも思うけど、普通の歴史ロマンだったら売れないことは、ドイル先生の故事から火を見るより明らかだったんでしょうな。まあ、こうして作品が残ったんだから、結果オーライで(笑)

    死亡説流して更新サボるって手もあったな……。(笑) まあ、最近のわたしのネットでの居場所はほとんど「TRPGオンセン」になってるから、そこ見れば元気でピンピンしてることは誰にでもわかるという(笑)

    NoTitle

    ていうか、10/19の記事ってことは、無事に生きてんだよね?(爆)
    北部は相当な被害だったみたいだけど、ブリッツさんの辺りはどうだったの?
    • #20533 ひゃく間洞山の家 
    • URL 
    • 2019.10/20 15:52 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    私のイメージだと、ディクソン・カー=密室モノなので。
    密室モノ嫌いの私wとしては、たぶん読むことのない作家なんですけど、一方、私は大の三銃士ファンでもあるわけで、うーん、これはちょっと読んでみたい!(^^)/

    とはいえ、アマゾンで見たら古本高いっ!!!(-_-;)
    まぁ確かに、今の日本で一番人気がないジャンルなんだろうなぁー。
    とはいえ、この手が好きな人はもぉ涎ダラダラだろうから。よって、古本が高くなる、ということか(>_<)

    >これから「ラノベ」を書こうと思っているアマチュア作家が参考にすべき本かもしれない
    読んでない私が言うのもなんだけど。まさにそんな印象を受けました。
    確かに、アマチュアなんだから(アマチュアだからこそ)好きな話を書けばいいんだろうけど。
    とはいえ、なんだかんだ言って、日本の読者はもぉいい加減本格ミステリーには飽き飽きしているわけで(爆)
    何でも書いていいアマチュアだからこそ、ニッチを見つけるのも大事!
    なんでしょうね(^^ゞ
    • #20532 ひゃく間洞山の家 
    • URL 
    • 2019.10/20 15:48 
    •  ▲EntryTop 
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