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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ111位 超音速漂流 トマス・ブロック

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     高校生のころに古本屋を歩き回り、文春文庫を入手して読んだ。おっかない航空サスペンスだった。それから20年して新版が出て、実はトマス・ブロックとネルソン・デミルの共著だったと知ってびっくり。しかもネルソン・デミルのほうが前に書いてある。おいおい、聞いてないぞ。図書館が持ってきたのがその改訂新版の方だったので、それを読むことにした。もとは80年代のテクノロジーで書かれた航空サスペンスだったが、改訂版はそれが90年代のテクノロジーに置き換わっている。はたしてどうなることか。改訂前のほうが面白かった、ということになるんじゃないか、などと考えながら再読。

     読んだ。うむ、面白い。アイデアとシチュエーションが天才的なので、テクノロジーを10年ずらしたくらいでは、小説の面白さは小ゆるぎもしていない。これは非常にうれしかった。高校生の時と同様、むさぼるように一気読みである。

     何度も書くが、アイデアとシチュエーションが最高だ。冒頭で超音速旅客機がミサイルの誤射を受けて、乗客乗員のほとんどが死亡もしくは深刻な脳損傷状態に陥り、まともに行動できるのは素人パイロットの心得があるビジネスマンと、キャビンアテンダント2人、編集者、それに年端も行かない少女だけ、という状態になるのだが、ジョン・ボールの名作「航空救難隊」のような通常の航空サスペンスなら、彼らを救うためにアメリカ海軍と、航空会社と、空港が、必死の思いで助言を出し、手を差し伸べ、なんとか飛行機を空港に降ろそうと。知恵を絞って……となるのだが、どっちが考えたんだか、この小説はあえてその真逆を行くのだ。ミサイルの誤射を知られたくないアメリカ海軍の責任者は、なんとしてでもこの傷ついた旅客機を墜落させて証拠を葬り去ろうとし、飛行機がこのように大破した原因は「整備ミス」によるものなのではないかと疑心暗鬼になった航空会社幹部と、三百人の回復不能の脳損傷患者を一生涯面倒を見なくてはならないという空前の大損失の可能性に直面した保険会社の責任者も、地上から、なんとしてでもこの傷ついた旅客機を墜落させて証拠を葬り去ろうとする。まさに四面楚歌。どきどきはらはらして、ページを繰る手が止まらない。覚えているシーンはしっかりと印象的に書かれているし、追加されたシーンも、小説により深みを与えている。改訂は大成功だと思う。

     どうも、解説を読んでみると、そもそもは、ひどい低圧環境下で脳損傷を起こしてしまった人間はどうなるか、ということから、トマス・ブロックは一種の「ゾンビもの」としてこの小説を書きたかったみたいだ。そちらの描写もきちんとねっとりと書かれているのだが、ちょっとこの小説としては「サービス過剰」と思えてしまったのも事実。スプラッター映画もかくやというようなシーンが散見されるが、トマス・ブロック先生の趣味か、ネルソン・デミル先生の趣味かわからないが、「やりすぎ」と違うかな。そんなものがなくても、この小説はべらぼうに面白い航空サスペンスなのだが。

     数年前だが、飛行機旅行をするという某ネット友人に、飛行機のフライト中は退屈だろう、と、この「超音速漂流」と、同じくトマス・ブロックの「亜宇宙漂流」、ルシアン・ネイハムの「シャドー81」、ジョン・ボール「航空救難隊」、スペンサー・ダンモア「空中衝突」の五冊をおすすめしたのだが、その後、そのかたはしばらく口をきいてくれなかった。どうしてだろう。どれも面白い小説なのに……。
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    ~ Comment ~

    Re: 風と雲とひゃくとさん

    小説も出てるし映画もあるよ。

    あのナチの歯医者は愛嬌あるけどかかわり合いには死んでもなりたくないものよのう。

    NoTitle

    >マラソンマン
    確か、映画があったよね?
    • #20690 風と雲とひゃくと 
    • URL 
    • 2019.12/08 15:52 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ひゃっくりひょうたん島さん

    口腔サスペンスの世界では、ウィリアム・ゴールドマン「マラソンマン」という恐ろしい作品があってだな……(笑)

    NoTitle

    >以降航空サスペンスにはタッチしない
    じゃぁ口腔サスペンスなんて、どぉ?(^^)/
    • #20658 ひゃっくりひょうたん島  
    • URL 
    • 2019.12/01 16:03 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 吾輩はひゃくであるさん

    前に、思いついた航空サスペンスのアイデアを、飛行機マニアの友人に話したら鼻で笑われて一蹴された(^^;)

    以降航空サスペンスにはタッチしないことにしました(笑)

    NoTitle

    >転換点は911テロじゃないかなあ
    あー、なるほど!
    それは考えたことなかった。
    ていうか、キングでそんなネタの話あったんだ。
    知らなかった(^^ゞ

    >航空サスペンスものの傑作
    例のマレーシア航空機失踪事件をネタに、誰か面白そうなのを書いてほしい!
    ブリッツさん、どぉ?(^^)/
    • #20633 吾輩はひゃくである 
    • URL 
    • 2019.11/23 12:05 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 機械ひゃく爵さん

    航空サスペンスって、出るときは山のようにばたばた出るけど、出ないときは一向に出ない、って感じがある(笑)

    でも転換点は911テロじゃないかなあ。あれで航空機ものとかハイジャックものとかが、「出しても売れなくなった」ような感じが。ジャンボを乗っ取ってビルに体当たり、だなんて、もろにキングの「バトルランナー」だからなあ。

    日本の航空サスペンスだったら鳴海章先生だったけど、あの人も何を書いているのやら。めっきりと本屋へ行かなくなったから、まだ活躍してるのかもよくわからん。

    そういえば、航空サスペンスものの傑作で、「ターゲットは大統領機」っていう、『タイトルでそればらしたらあかーん!』な作品がありましてなあ……。傑作なだけに惜しい(笑)

    NoTitle

    そういえば、昔(70年代くらい?)、航空機モノのお話ってよくあったよね。
    その頃は海外物の小説なんて読まなかったから、映画の「エアポート77(?)」とかしか知らないけど、そういえば(ブリッツさんもあげている)『シャドー81』とか、表紙を見た記憶がある。
    その後も、思い起こせば、ハリソン・フォードが出てくるヤツとか、子供が航空機で行方不明になる話みたいに航空機モノってあるんだけど、70年代ほど流行ってるというイメージはないよねぇ…。
    それは、あの頃より(イメージとして)航空機事故が減ったからか、それとも、85年の日航機墜落事故に代表されるように、事故の悲惨さが映像で伝えられるようになったからか?
    あるいは、単純にジャンルとして忘れられちゃったのか?
    ブリッツさんのこれを読んで、ちょっと新鮮な気持ちになりました(^^ゞ

    ていうか、ネルソン・デミルもそんな感じ?w
    昔(90年代)には話題の作家だったのに、今はまったく忘れられちゃっているみたいな(^^ゞ
    好きで、結構読んだんだけどなぁ~。

    この『超音速漂流』は、タイトルはだけはなんとなく記憶ある。
    超音速という言葉からSFみたいなイメージがあったんだけど、そういう話だったんですね。
    ていうか、軍が自らの不始末を隠ぺいするのに墜落させようとするって、まるで前に読んだ『疑惑 JAL123便墜落事故』みたいで、へーこんな小説があったんだって驚きました。
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