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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ114位 ウィンブルドン ラッセル・ブラッドン

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     命を救われた本である。もしこれがなかったら、わたしはたぶん今ごろここでこうしてブログなどを更新していなかった公算が高い。

     最初に読んだのは、高校生の時である。東西ミステリーベスト100の情報だけではなく、内藤陳の「読まずに死ねるか!」でも激熱なオススメ文が書かれていたので気になっていたが、当時はすでに絶版品切れであった。インターネットもアマゾンも存在しない中、本を入手するというのはひたすら足による地道な方法しかなかった。古本屋に毎日のように通い、ついに見つけて手に取ったときは嬉しかった。それで勇んで読んだのだが……当時はあまりピンとこなかった。「面白いけれど、まあ、ふつうのサスペンス小説だな」と思った。無理もないといったら無理もない。当時は国際諜報機関が激突し火花を散らす、渋いプロフェッショナルの中年男ばかり出てくるイギリスの冒険小説に夢中になっていたからだ。おおヒギンズ! バグリイ! ライアル! マクリーン! というわけで、この本は頭の中の「その他大勢」のボックスに入れて忘れてしまっていた。

     それから25年の月日が流れ、何度も登場させて悪いが「真夜中の相棒」ロスの虚脱感を訴えていた畏友limeさんに、「そういえばこれも男たちの絆の物語だったなあ」と教えたところ、再びアマゾンをポチっていただいて、これまた長文の読書感想記事を書いてくださり、教えた本人が「あれ、これってそんな面白い話だったっけ」と首をひねる有様であった。

     当時、わたしは深刻なまでの抑鬱に苦しんでいて、ブログではアホなことばかり書いていたが、その裏では今日死のうか明日死のうかと、そればかり考えていた。そしてある日、忽然と悟ってしまったのである。「そうだ、明日死のう。死ぬ場所は、土地勘がある松戸がいい。松戸駅から近くに多摩川が流れている。そこで静かにしていればいいのだ。アルコールで身体が動かないようにして、顔だけ水に浸けておけば、十分もあれば溺死できるはずだ。十分なら、人の目も見逃してくれるだろう」。恐ろしいもので、わたしは実際に、家族には、当時通っていたリハビリ施設に行くといって家を出、リハビリ施設には「急用ができて休む」と連絡(ミステリを読みまくっているとそのくらいの頭は働くのである。連絡なしで不意に姿を消すと、すぐに追手がかかる可能性が高いが、きちんと周囲に段取りを踏んでおくと、その段取り分の時間だけは自分に対する注意がエアポケット状態になるのだ)、上りの常磐線に飛び乗って、松戸に到着した。わたしはスーパーでウイスキーの瓶を買い、ウイスキーが運動神経を麻痺させるほどに利いてくるまでの退屈しのぎになるものはないか、と、古本屋に入った。

     そこに置いてあったのが、「ウィンブルドン」であった。

     200円で買い、川岸で酒を飲みつつ読み始めたわたしは、やがてむさぼるようにページを繰っていた。登場するふたりのテニス・プレイヤーが、もう、「これ以上ないくらいのいいやつら」に見えてきたのだ。大筋は覚えていたが、彼らの大事な試合をぶち壊しにしようとする非道な犯罪者が登場してきたときには、続きが読みたくて仕方なかった。だが、その、人間の生死をかけた白熱の決勝戦を読み進めるには、ウイスキーで手と目がガタガタになっていた。続きが読みたくて、わたしは身体を引きずって家に帰った。そのときのことを思い出しながらいま再読。生きてこうしてミステリが読めるというのは、ほんとうに、いいものである。
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    ~ Comment ~

    Re: 東京ひゃくストーリーさん

    マツドドンにごめんなさいm(_ _)m

    NoTitle

    もぉー。
    マツトドンにおこられるぞ(^^ゞ
    • #20715 東京ひゃくストーリー 
    • URL 
    • 2019.12/15 16:27 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 風と雲とひゃくとさん

    不安になって調べてみたら江戸川だった件(笑)

    まるまる一年間松戸に住んでいながら勘違いしていたのだから、人間の認識力などあてにならない(笑)

    NoTitle

    >多摩川が県境
    ???
    江戸川じゃなくって!?(゜.゜)

    >死んだあとの楽しみに取っとこう(笑)
    無理にとっとかなくとも、取っとかざるを得ないんじゃん(^^ゞ
    • #20687 風と雲とひゃくと 
    • URL 
    • 2019.12/08 15:47 
    •  ▲EntryTop 

    Re: limeさん

    運命、ってのはあまり使いたくないけど、まさに、運命でした。

    あれがなかったら、自分、どうなってたかわからないです。

    ちょうどの読みやすさと、明るさがあったですからねえあの本。

    埴谷雄高の本だったら成仏してましたな(^^;ゞ

    Re: 面白半分さん

    マジですよ。そういう再会もあるってことです。

    これだから人生、どこでどう転ぶかわかりませんな。

    Re: 椿さん

    「適度な読みやすさ」と「明るさ」と「わかりやすさ」があったからよかったんでしょうね。

    これで選んだ本がドストエフスキーだったら今ごろは西方浄土ですな(^^;ゞ

    Re: ひゃっくりひょうたん島さん

    あまり知られていないことだが、松戸市の隣は東京の葛飾区である。多摩川が県境。

    個人的にはクリスティの新作より、隆慶一郎先生の「花と火の帝」と「死ぬことと見つけたり」と「かぶいて候」と「見果てぬ海へ」の続きおよび結末が読みたいぞ(笑) 死んだあとの楽しみに取っとこう(笑)

    Re: miriさん

    オハズカシス。いい年して人生を踏み外すところだったです(^^;ゞ

    この小説はほんとに面白いサスペンスで、最近創元推理文庫から復刊されたので、よかったら読んでみてください。

    映画にしたらカッコいいと思うんだけどなあ!

    NoTitle

    なんと~。そんなことが?
    その古本屋にウィンブルドンが置いてあったのは何かの運命だったのかも。
    一度読んだ本は、大事に傍に置いておくだけで、あまり読み直さないんですが、時を経ての再読は、もしかしたらまた別の感動を与えてくれるのかもしれませんね。
    それにしてもよかった。

    よく出来たミステリーである以上に、あの作品は人物の描き方が本当に巧みでした。
    私ももう一度、本の山から探し出して読んでみようかな。って気になってきました。

    NoTitle

    命を救わた本ですか。

    ハードな内容でした。

    良かったですね。
    本が読める。紹介ができる。

    NoTitle

    このお話の続きが知りたい。
    それで命をつなぐことって、ありますね。
    古本屋さんに、その時この本があってくれて良かったです。

    NoTitle

    >命を救われた本
    命を救われた本!
    この世には、そんなものがあるのか!
    ていうか、驚きな出来事を紹介するバラエティ番組、アンボビリーバブーみたいなヤツのネタとして投稿してみたらいいんじゃない?
    ていうか、むしろあれ!
    NHKの「小さな旅」!
    あれ、たまーに視聴者投稿特集みたいなの、やってたじゃん。
    それで採用されたのをきっかけとして、その後、とんとん拍子に。
    担当者が、ほぉ、ブリッツさんは小説を書いておられるのですか。
    ほぉ、いいじゃないですか!
    うん!来年の大河、ブリッツさんの原作でいきましょ!
    なぁ~んてこと、あるかもよ!?(^^ゞ

    とはいえ。
    一躍、時の人になったブリッツさんを、私をはじめ、ブログにコメントしていた人が妬んで。
    あること、あること、誹謗中傷の嵐!
    えぇー、ここは某隣国かよぉー!って、世を儚んじゃう、なぁ~んてこともあるかもしれない。
    まさに、アンボビリーバブー!(^^ゞ

    >土地勘がある松戸がいい
    そんなもん、頼むから地元でやってくれ~い!(^^;
    すぐやる課の人だって忙しいんだからさぁ~w
    ていうか。
    札付きのミステリーオタクが、誰にでもジサツとわかるようにしんじゃったらダメだろ!
    この際、弁慶七戻りに挟まれてしんでるとか、ガマ岩に噛みころされたみたいにしんでるとか。
    ついでに、俳句の短冊かなんかも置いておいて、世のミステリーファンを楽しませなっきゃダメじゃん!(笑)

    >松戸駅から近くに多摩川が流れている
    うーん。
    ホントに土地勘あるのかぁ~w (ーー;)

    >退屈しのぎになるものはないか、と、古本屋に
    これからしぬっていうのに、退屈も網タイツもない!(^^;

    >続きが読みたくて、わたしは身体を引きずって家に帰った
    つらい一日の終わり。人は生きる理由を見つけようとする -ブルース・スプリングスティーン(^。^)

    >生きてこうしてミステリが読めるというのは、ほんとうに、いいものである
    天国に行ったら行ったで、クリスティの新作とか読めるかもよ(^^)/

    つーか、いつもながら面白そうな本読んでんなぁ~(^^)v
    • #20656 ひゃっくりひょうたん島  
    • URL 
    • 2019.12/01 15:59 
    •  ▲EntryTop 

    こんにちは☆

    >続きが読みたくて、わたしは身体を引きずって家に帰った。
    >そのときのことを思い出しながらいま再読。

    ポールさんがいなかったら、私もつまんなかったので
    感謝の作品ですね☆

    なんだか、とっても良い記事ですね☆


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