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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    海外ミステリ114位 特別料理 スタンリイ・エリン

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     最初にこの作家とこの短編集を知ったのは、小学生のころであった。あの悪名高い藤原宰太郎の推理クイズ本である。たしかワニ文庫という、一回り小さいサイズの文庫本だったな。安くて内容が充実していて面白く、わたしは毎日のように読んだものだ。内容が充実していて面白かったのも当然で、この著者の推理クイズ本は、古今東西のミステリの名作のトリックを、片っ端からネタバレしていくことで成り立っていたのである。おかげで、黒輪土風なんていう、戦前を代表するミステリ雑誌「新青年」が休刊する直前に一瞬だけ登場した、正体はおろかペンネームの読み方すらよくわかっていない作家による手品のような巧妙極まる毒殺トリックまで覚えてしまった。同じ瓶から順番に複数のグラスに注ぎ分け、狙った相手だけを毒殺するというトリック。むろんグラスはあらかじめ誰が使うか決まっているわけではないし、解毒剤なども使っていない。どうです、すごいでしょ? わたしもアマチュアながらミステリを書いている以上、死んでも口は割らないつもりなので、興味がある方は本屋でアンソロジーを渉猟していただくか(恐ろしいことに歴史に埋もれ去ったはずのあの幻の作品が、今では普通に読めるのである)、寝床で悩みながら夜通し輾転反側していただくことにしよう。

     話を戻すと、このエリンの「特別料理」も、そのクイズ本の中で当然のようにネタバレされてしまっていた。だが、読者にも作者にも幸運なことに、この「特別料理」という短編は、ネタバレしたくらいでは、その面白さがまったく減じられることのない作品だったのである。頭から三分の一も読めば、だいたいのストーリーとオチの見当はつく代物なのだ。それでいながらこの作品が「不朽の名作」であることに変わりはないのは、読んだ人間なら誰もが首肯することだろう。グルメミステリーということでは、ロアルド・ダールの「味」なんかよりもよっぽど上等だろうと思う。しかし、表題作以外の収録短編については、あまり記憶になかったのも事実。図書館の蔵書にもあったことだし、この企画にもかこつけ、いい機会だから読んでしまうことにした。さて、再読の結果はいかに。

     で、感想だが、いずれの作品も、完全にインパクトの点で「特別料理」に負けている、といわざるを得ない。作者のスタンリイ・エリンは決して凡手ではないし、何気ない言葉のひとつひとつにも細心の注意を払うタイプの作家だ。それがかえって災いしてか、短編ひとつひとつが「いぶし銀の典型的中距離ヒッター」に見えてしまうのである。

     また、読後感の良さを売りにしている作家ではない、というのも大きいかもしれない。寝転んで読んでいると、しだいに読者がずるずるととんでもないところに引きずり込まれ、とんでもない決断を迫られる、という悪夢めいた魅力がエリンにはある。本短編集の掉尾を飾る「決断の時」なんて、もうどこにも逃げ場がないまま時計の針がチクタク進んでいくのを見守っているしかない恐怖のリドル・ストーリーだ。

     この読後感、どこかで読んだな、と思ったら、近いところにいた。松本清張である。あの恐怖の短編ミステリ「鬼畜」、その後味の悪さこそがエリンの世界のそれと地続きなのではないだろうか。結末に至って、すべては落ち着くところに落ち着くが、人間はそれでは落ち着かないのだ。ページを閉じてもドラマは続くのである。ロアルド・ダールの諸作や藤子A先生の「笑ウせえるすまん」のように、残酷なオチをにやりと笑って読み終えられるような話ではないところに、エリンの本領とすごみがあるように思えてならない。
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    ~ Comment ~

    Re: 鏡はひゃくにひび割れてさん

    > >日本で変態殺人鬼が暴れると、エロというよりはグロの方面に行っちゃう
    > ブリッツさんの言う話が面白いのは、私の思うとことは常に50%くらいしか合わないとこなんだけど、それについては100%一致で。
    > もぉ大笑いしちゃいました(^^)/
    >
    > >いわゆる「エロス」とは真逆の方向
    > 何となくのイメージだけど、日本のエロスは、男性的っていうのかなぁー。
    > 身勝手に、やにわにコーフンして、激しく動き回って、勝手に終わっちゃう、みたいな感じ?
    > いや、だからって、西欧とか他がその逆っていってるわけじゃないんだけどさ(^^ゞ
    > でも、夜のイルミネーションとか見てると、そんな感じがするかなぁー。
    >
    > >クリスマス・イヴ
    > アマゾンで見て、面白そうかなーと思ったんだけど、ただ、出版が91年なんですね。スプラッターなんて言葉が流行ったあの時代。
    > ブリッツさんがあげてた「殺戮にいたる病」を読んで、思わず大笑いしちゃった後だけに、ちょっと二の足踏むなぁ…(^^;
    >
    > >むしろラノベのほうじゃない? いま変態を描けるの
    > あぁー、なるほど。
    > ただ、ラノベはさすがに読むのがキツイなぁ…(^^ゞ
    >
    > 話が戻るようですけど、来年だか再来年だかの大河ドラマは北条義時なんですって。
    > そりゃー、面白そう!
    > だけど、でも、視聴率低そうだけど、NHKのその担当者はクビ覚悟でやるんだろうか?なんて(^^;
    > ただ、三谷幸喜なんですね。脚本。
    > 鎌倉時代と三谷幸喜って、三谷幸喜のあのふわっとしたユーモア(ギャグ?)が出ちゃったら、凄惨なまでの同士討ちのあの暗さを楽しむ鎌倉モノとしては台無しだろうし。
    > かと言って、鎌倉モノらしさを全面に出しちゃったら、いわゆる「大河ドラマのファン」は引きまくりでしょーしねぇー。
    > 個人的には、「草燃ゆる」の出だしは好きだったんで、珍しくちょっと見たいかなーなんて思ってます。
    「クリスマス・イブ」は岡嶋二人らしい端正でかつ読みやすい文章でもって、冬の山荘に閉じ込められた学生たちが殺人鬼のおっさんに理由もなくばたばた殺されていく小説で、めちゃくちゃ怖いです。トリックもなにもあったもんじゃありません。それだけにおすすめです。

    北条義時については、もう、大河ドラマ、何をやっても低視聴率にしかならないことがわかって、潰される前にやりたいことを全部やってしまえ、って心境なのかもしれぬNHK。

    NoTitle

    >日本で変態殺人鬼が暴れると、エロというよりはグロの方面に行っちゃう
    ブリッツさんの言う話が面白いのは、私の思うとことは常に50%くらいしか合わないとこなんだけど、それについては100%一致で。
    もぉ大笑いしちゃいました(^^)/

    >いわゆる「エロス」とは真逆の方向
    何となくのイメージだけど、日本のエロスは、男性的っていうのかなぁー。
    身勝手に、やにわにコーフンして、激しく動き回って、勝手に終わっちゃう、みたいな感じ?
    いや、だからって、西欧とか他がその逆っていってるわけじゃないんだけどさ(^^ゞ
    でも、夜のイルミネーションとか見てると、そんな感じがするかなぁー。

    >クリスマス・イヴ
    アマゾンで見て、面白そうかなーと思ったんだけど、ただ、出版が91年なんですね。スプラッターなんて言葉が流行ったあの時代。
    ブリッツさんがあげてた「殺戮にいたる病」を読んで、思わず大笑いしちゃった後だけに、ちょっと二の足踏むなぁ…(^^;

    >むしろラノベのほうじゃない? いま変態を描けるの
    あぁー、なるほど。
    ただ、ラノベはさすがに読むのがキツイなぁ…(^^ゞ

    話が戻るようですけど、来年だか再来年だかの大河ドラマは北条義時なんですって。
    そりゃー、面白そう!
    だけど、でも、視聴率低そうだけど、NHKのその担当者はクビ覚悟でやるんだろうか?なんて(^^;
    ただ、三谷幸喜なんですね。脚本。
    鎌倉時代と三谷幸喜って、三谷幸喜のあのふわっとしたユーモア(ギャグ?)が出ちゃったら、凄惨なまでの同士討ちのあの暗さを楽しむ鎌倉モノとしては台無しだろうし。
    かと言って、鎌倉モノらしさを全面に出しちゃったら、いわゆる「大河ドラマのファン」は引きまくりでしょーしねぇー。
    個人的には、「草燃ゆる」の出だしは好きだったんで、珍しくちょっと見たいかなーなんて思ってます。
    • #20810 鏡はひゃくにひび割れて 
    • URL 
    • 2020.01/12 13:49 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 除夜のひゃくさん

    日本で変態殺人鬼が暴れると、エロというよりはグロの方面に行っちゃうからねえ。

    綾辻行人の「殺人鬼」や我孫子武丸の「殺戮に至る病」なんてもうムチャクチャな変態殺人鬼が出て来るけど、いわゆる「エロス」とは真逆の方向だからなあ。エロスかもしれないけどあまりにも趣味がマニアックすぎて(笑)。変態殺人鬼では、岡嶋二人の「クリスマス・イヴ」なんかもいい小説だけど、岡嶋二人は文章があまりにも上品すぎて、メチャクチャ怖いけど変態が変態に見えない(笑)

    むしろラノベのほうじゃない? いま変態を描けるの。

    NoTitle

    >最終回ではコアなファンが盛り上がって、「いだてんロス」みたいな人も出てたみたいですな
    あ、最終回!
    なんだか、ボケてるのか、それとも意識になさすぎなのか、年末ということで最終回になってる意識すらなかったぞ(^^ゞ

    >戸川昌子や皆川博子あたりの系列
    あ、やっぱりそっちかぁー。
    そっちのミステリー色が強いようじゃなくってさ。
    サスペンス色の強い方。それこそ、『羊たちの沈黙』みたいに変態シリアルキラーが跳梁跋扈する、みたいなヤツ。

    ていうか、もしかして、戸川昌子や皆川博子もその系統だったりする?
    よくよく考えてみたら、どちらもむかーし、読んだよーな、読まないよーなだったということを思い出した(^^ゞ

    Re: 赤鼻のひゃくさん

    明智光秀とあの時代とあの場所は、正直食傷気味だからなあ、という感じですねえ。

    実は「いだてん」、けっこうハマる人はハマったみたいで、「平清盛」のときと同様に、最終回ではコアなファンが盛り上がって、「いだてんロス」みたいな人も出てたみたいですな。視聴率は大惨敗だったけど、それはそれでひとつの番組の評価のされ方としてはありだったような気がします。

    エロチックなサイコサスペンスだったら、戸川昌子や皆川博子あたりの系列かなあ。戸川昌子、それほど読んでるわけじゃないけど、短編「黄色い吸血鬼」なんかあの人むちゃくちゃやってたからなあ。ちなみに「黄色い吸血鬼」はエラリー・クイーン先生もご推薦だ!(笑) 

    NoTitle

    >明智くん。さらばだ!
    明智くんといえば、来年の大河ドラマって、世の中的には盛り上がってるの?
    まぁ見ないんで。どーでもいいんですけどね(^^ゞ

    ていうか、全然関係ないですけど、エロチックミステリー、もしくはサイコサスペンスって、どんなものがあるの?
    ブリッツさんのおススメがあったら、是非教えてください(^^)/

    Re: 東京ひゃくストーリーさん

    フハハハ、残念だろうがしゃべるわけにはいかんのだよ明智くん。さらばだ!(笑)

    NoTitle

    >高いところから、黒いマントをたなびかせて高笑い。背景には雷鳴
    そんなヤツ、雷に打たれて、とっととしんじめぇー!(爆)
    • #20714 東京ひゃくストーリー 
    • URL 
    • 2019.12/15 16:25 
    •  ▲EntryTop 

    Re: ROUGEさん

    何かきっかけがひとつあれば、どどっと出そうなんですけどね~。

    まあがんばってみます~。

    NoTitle

    コメントありがとうね~
    また小説、書けるようになるといいね~

    Re: 風と雲とひゃくとさん

    ふははは。なんとでもいうがいい。このトリックについては、知っている人間だけで盛り上がれればそれでよいのだ。はははは!(攻撃の届かない高いところから、黒いマントをたなびかせて高笑い。背景には雷鳴(笑))

    Re: 面白半分さん

    フランスに「クロワ・ド・フー(火の十字団)」って右翼団体がありましたから、くろわどふう、以外に読みようがないんですが、どこで切るのかわからない、という……。いや戦争はしたくないものです。

    藤原宰太郎先生の本であの謎の作家のことを知り、読みたくなって、中学に入ったときに図書館で見つけた「日本図書総目録」でもって出版社を調べようとして、載ってなかったときには、それこそどうしようかというアイデンティティ・クライシスに(笑) 読めない小説があっていいはずがない、という、ま、純情な中学生でしたなあ(笑)

    NoTitle

    >推理クイズ本 ワニ文庫
    私は学研のヤツだったなぁー。

    >どうです、すごいでしょ?
    なんで教えてくれない?気になるじゃないか。
    知りたきゃ読めって、ブリッツさんはアマゾンの回し者か!(^^;
    ていうか、それが入ってる文春のアンソロジーのシリーズは面白そうだねー。
    それに限らず読んでみたい……、って、結局アマゾンの手先なんじゃん(ーー;)



    • #20686 風と雲とひゃくと 
    • URL 
    • 2019.12/08 15:42 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    黒輪土風

    確か鮎川さんのアンソロジーかなにかで
    まさに
    ”正体はおろかペンネームの読み方すらよくわかっていない作家”と書かれていた作家ですね。

    しかし藤原宰太郎氏もなかなかすごいところからネタを引っ張ってきていたんですなあ

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