FC2ブログ

    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ118位 消えた玩具店 エドマンド・クリスピン

     ←海外ミステリ118位 密使 グレアム・グリーン →鋼鉄少女伝説 18 悪夢
     早川の実際の本のタイトルでは「消えた玩具屋」だった。しっかりしろ文春編集部。浪人生のときに図書館で読んだような気がする。内容はとっくに全部忘れた。「お楽しみの埋葬」は少しは覚えていたのだが。新鮮な気持ちで読む。

     エドマンド・クリスピンは、近年の国書刊行会の精力的な訳出を読み、一気にファンになった。「ハムレット復讐せよ」のマイケル・イネスもそうだが、イギリス人の大学関係者がミステリを書くと、みんなこのようなバカバカしいにもほどがあるユーモアミステリになるのだろうか。「大聖堂は大騒ぎ」「白鳥の歌」「愛は血を流して横たわる」いずれも妙なジョークとバカな大学人、創意をこらしたプロットで、大いに笑わせてもらった。それで本作「消えた玩具屋」であるが、ギャグのくだらなさとハチャメチャなスラップスティック、凝ったプロットでは、読んだ中ではエドマンド・クリスピンの最高傑作だ。これに比べれば、「お楽しみの埋葬」はまだおとなしい、牧歌的な普通のミステリである。ファンとしては、これらを絶版品切れにしちゃダメだろう、と思うのだが、売れなかったんだろうな。創元で「愛は血を流して横たわる」が文庫化されたときには期待したが、あれ以来音沙汰がないからなあ。

     エドマンド・クリスピンのミステリのジョークというものが、如実に表れているのが本書の冒頭であろう。退屈な毎日に飽きた詩人のキャドガンは、自分の版元の編集者を半ば脅すようにして50ポンドを前借りし(ここでのくだらないやりとりで笑えるかどうかですでに読者は試されている)、休暇を学生時代の追憶にひたって過ごすためにオックスフォードへ向かい(ここで終電に乗り遅れ、ヒッチハイクしたトラックの運転手とのくだらないやりとりで笑えるかどうかでも読者は試されている)、夜の闇のなか、オックスフォードの町で宿の当てもなくうろうろしていたら、扉が開いていたのを見つけたので、好奇心のうずくまま入った玩具屋で老婦人の絞殺死体に遭遇し、何者かに殴打され気を失う。翌日、裏窓から脱出して最寄りの警察署に駆け込んだが、警察官とともに行ってみるとそこには玩具屋は影も形もなかった……。というシチュエーションにげらげら笑って、さすがはエドマンド・クリスピン、やるじゃん、と思えるかどうかで、本書を楽しめるかどうかは決まるだろう。気に入ったなら、後は、ダンテを導くウェルギリウスのごとく登場した名探偵、ジャーヴァス・フェン教授とともに、ジェットコースタームービーのような「この手のギャグ」の奔流にあれよあれよと流されていくのを無責任に笑って楽しめばいい。

     裏を返せば、こういうシチュエーションとハイソでありながらくだらない文章に「白けて」しまう人には、クリスピンは苦痛だろうなあ、とも思う。作中でキャドガンとフェンが「『読めない本』のゲームをやろう」「よし。『ユリシーズ』」「ラブレー」「『トリストラム・シャンディ』」などというやりとりをするが、そんなやりとりにアレルギーを覚える人というものはいるのだ。マンガ「バーナード嬢曰く」では、神林しおりは爆笑するが、町田さわ子は首をひねるだけ、というタイプのネタが頻出するミステリなのだ。

     アマゾンで見たら文庫の値段も落ち着き、310円から買えるようになっていたが、それでも、本書を絶版品切れ状態のままにしておくのはどうかと思えてならない。せめて電子書籍とか、なんとかならないものか。入手困難の代名詞だったレックス・スタウトの初期作品でさえも、電子書籍で普通に入手できる世の中なんだからさあ……。
    関連記事
    スポンサーサイト






    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    もくじ  3kaku_s_L.png X氏の日常
    【海外ミステリ118位 密使 グレアム・グリーン】へ  【鋼鉄少女伝説 18 悪夢】へ

    ~ Comment ~

    Re: 鏡はひゃくにひび割れてさん

    もっとマニアックな選手で攻めるべきであったか。

    NoTitle

    >高橋一三
    野球は全然見ないんですけど、世代的にその名前は知ってました(^^ゞ
    • #20809 鏡はひゃくにひび割れて 
    • URL 
    • 2020.01/12 13:25 
    •  ▲EntryTop 

    Re: 除夜のひゃくさん

    まあ、クリスピンはマニア向けの作家だからなあ(笑)

    野球選手でいったら元巨人の高橋一三投手みたいな存在かなあ(オールドファンなら知らない人はいないが今の人はまったく覚えていない渋めの実力派)

    NoTitle

    >エドマンド・クリスピン
    ぜんぜん知らない。欠片も聞いたことがない作家だ(^^ゞ
    昔、ネッズ・アトミック・ダストビンとかいうバンドがあったなーと思い出したくらい。
    ていうか、そのネッズ・アトミック・ダストビンがどんなバンドだったかも憶えてないぞw

    今年も何やかにやで大晦日ですねー。
    ブリッツさんにはいろいろ変な本を教わって、とっても楽しかったです。
    また、来年も楽しい変態本を教えてくださいませ(^^)/

    Re: 面白半分さん

    「お楽しみの埋葬」は牧歌的なほのぼのミステリですが、「消えた玩具屋」は頭のネジが3本くらい吹き飛んだスラップスティック小説です。わたしはあの人のユーモア感覚好きだけど、クリスピン先生、やりすぎ(笑)


    「アルバイト探偵」どうでしたか? あれも笑えるタイプのハードボイルドコメディですが、「ユーモア性」という大沢在昌先生のもうひとつの顔が出ていて好きだったりします。あの空気が気に入ったら、「銀座探偵局」もどうぞ。こっちはもっと「バブル期でないと書けない小説」ですけどね(笑)

    NoTitle

    「お楽しみの埋葬」という作品名はなんとなく知っていたが
    ”クリスピン”は全くしらず、名の印象ではハードボイルド系かと思いました。
    スラップスティックといわれれば気になりますな。

    ところで「アルバイト・アイ」1作目読みました。
    順次読んでいく予定です

    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【海外ミステリ118位 密使 グレアム・グリーン】へ
    • 【鋼鉄少女伝説 18 悪夢】へ