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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ118位 ブラウン神父の知恵 G・K・チェスタトン

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     いわずと知れたチェスタトンの代表シリーズ、ブラウン神父譚の第二短編集である。中学生の時から何度読んだかわからない。でも、あの奇跡のような第一短編集「ブラウン神父の童心」に比べれば話としてかなり地味なのではないかと思っていたが、さてどうか。長いこと気心の知れた相手と一戦やるようなつもりで再読。

     読んでみたが、この本の作品も傑作揃いだ。ブラウン神父譚でももっとも真相がバカバカしいもののひとつ「グラス氏の失踪」から始まって、「泥棒天国」「通路の人影」「器械のあやまち」「ペンドラゴン一族の滅亡」など、傑作が目白押し。「ペンドラゴン一族の滅亡」なんて、映像にしてみたいものである。「童心」のような華々しさはないものの、いずれもミステリファンの心をくすぐるシチュエーションと真相が用意されていて、チェスタトンの才気に脱帽である。

     まあ、もっとも、「童心」と「知恵」とを読むと、チェスタトンの小説のパターンみたいなものも見えてくるのは事実。要するに、ひとつの逆説、すなわち「あべこべな発想」をもとに、それを愚直なまでに押し通すのが、基本である。まあ、ミステリというものはだいたいそうだが、チェスタトンは特にそれが顕著なのだ。

     逆説が面白い場合は、それでことは済むし、その手の面白い逆説を見つけることに関して、チェスタトンはまさに天才的であった。これは「童心」になるが、「見えない男」の基本発想は、「誰にも見えない存在」になるためには、「誰からも見える存在」でなくてはならない、という、まさに天啓ともいうべきものである。その逆説をごり押しするために、もっともらしいを通り越して「苦しい」説明をこじつけるわけだが、そのこじつけ方もまた天才のそれがあった。チェスタトンには「誰からも見える存在」について十でも二十でも例を挙げることができたに違いない。その中から、「まさにこれ」という人物を選び出し提示する。それがあまりにも「面白い存在」のため、気が付いたら読者は平伏しているのだ。この「誰にも見えない存在」になるためには、「誰からも見える存在」でなくてはならない、という逆説は、チェスタトンのミステリで何回も何回も繰り返して使われるものであり、それゆえに後期の作品では「登場人物設定を読んだだけでだいたいのことはわかる」ような話まで出てくることになるのである。

     また、「器械のあやまち」などで出てくる、チェスタトンの「テクノロジー礼賛思考」嫌いは、21世紀のいまから見ると「なにいってんだこのおっさん」的発言かもしれないが、もって傾聴すべき意見でもある。テクノロジーを使いこなせていない人間によるあやまちがどれだけ多いことかは、新聞を読めばいまだって変わらないことがわかるだろう。むろん、チェスタトン先生も「よく知らないことを書いた」せいでトンデモ作品にしてしまうこともあり、いい例が、SF小説みたいな解決をしてしまった「詩人と狂人たち」の某作品である。あれは読んでいて、目を覆ったのを思い出すなあ。さらには、「銅鑼の神」なんかに顕著だが、黒人に対する人種差別的意識もすごく、「これがカトリックに基づき、神と人間の許しを繰り返し書いた人間か」と思われるような扱いである。やっぱり時代の人であるからだろう。それでも、ミステリが好き嫌いにかかわらず、万人が読むべき作家のひとりだろうと思われる。「巨人級の天才の持ち主」という評に、嘘はない。
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    ~ Comment ~

    Re: 鏡はひゃくにひび割れてさん

    まあイラストレーターで変わってきますからな。

    わたしは神父のシルエットが描かれていたころの創元版がスタイリッシュで好きです。

    エクソシスト関連では、高橋葉介先生に「死霊教師」という短編があります。わたし好きです。「文部省の力が汝を滅ぼす!」

    NoTitle

    >善良そのもので丸っこくてチビの神父を気持ち悪いと感じる
    あくまで、本の表紙のイメージなんでー。
    なんだろ?
    服装が、オカマ(最近は差別用語なんだっけ?)っぽいように感じちゃうからかな?

    >「エクソシスト」のせいかもしれないな、とちらっと思った
    あぁー。
    もしかしたら、それはあるかも…、しれない('ω')

    >サイモン・クインの「インクィジター」シリーズ
    アマゾンで見てみました。
    確かに、ちょっと面白そう!なんて思ってしまった(^^ゞ
    ミョーに懐かしさを感じる、横にいる女の人のイラストが読む気を起こさせるんだろうなぁー。
    • #20808 鏡はひゃくにひび割れて 
    • URL 
    • 2020.01/12 13:23 
    •  ▲EntryTop 

    Re: あ・はっぴー・にゅー・ひゃく!さん

    善良そのもので丸っこくてチビの神父を気持ち悪いと感じるのは、もしかしたら映画「エクソシスト」のせいかもしれないな、とちらっと思った(笑) あの映画以来、カトリックの神父というものはなにをしでかすかわからないやつらというイメージがついてるしなあ(笑)

    ひゃくさんには「最後に地獄を見た男」から始まるサイモン・クインの「インクィジター」シリーズのほうが面白いんじゃないかな。カッコいい神父さんが大活躍だ! バチカン市国の秘密情報部員の異端審問官だぜ!(笑)

    Re: 面白半分さん

    多いといっても短編集五冊程度ですので普通にコンプリートしてもいいような(^^;A

    ハヤカワや筑摩書房も新訳を出してきているみたいですし、新しいバージョンを試してみるのも面白いかもしれませんね。

    Re: 椿さん

    ブラウン神父は、ぶっちゃけた話2冊読めば後はほとんど同じ話なのですが(そうか?)、同じ話にこそチェスタトンの天才がほの見えるのもまた事実。読み直してみると楽しいかもしれませんね。

    テキストは結構出てますが、創元推理文庫のやつでいいでしょう。「イノセンス」を「童心」と訳すところなんかまさに訳す方も天才の技であります。

    NoTitle

    ブラウン神父っていうのは、そういうのがいるらしいwってっだけで、読んだことないなー。
    表紙の、ブラウン神父の絵が苦手なんだよね。なぜかキモチワルイ(^^;
    この感覚はなんなんだろう?w

    >テクノロジーを使いこなせていない人間によるあやまちがどれだけ多いことか
    それはそうだけど、でも、現代は、例のリクナビの犯罪が典型のように、テクノロジーを使いこなしているからこその暴走の方が問題のような気がするけどなぁ~(^^ゞ

    >ひとつの逆説、すなわち「あべこべな発想」をもとに、それを愚直なまでに押し通すのが、基本
    なるほど!
    そう言われると、読んでみたくなりますね。
    ブリッツさん、相変わらずキモチをあおるのウマイ!(^^ゞ

    そんなわけで、あけましておめでとうです。
    今年もヨロシクです(^^)/
    • #20784 あ・はっぴー・にゅー・ひゃく! 
    • URL 
    • 2020.01/05 16:20 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    ブラウン神父モノはどこまで読んだかわからない状態です。
    ベスト選集みたいのがあれば助かるなあ

    「詩人と狂人たち」は積んだままでおりますのでその”SF的解決”を楽しみにとっておきます。

    NoTitle

    ブラウン神父、確か1冊目とこの本まで読んだと思うのですが、もう内容を覚えていません…… (読んだのが学生時代なので昔すぎて)
    久しぶりに読んでみたくなりました^^
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