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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ121位 予告殺人 アガサ・クリスティー

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     大学を中退してから茨城に帰ってきてぼんやりとしているときに図書館で借りて読んだ。初読時は、こともあろうにロンドンで、大新聞に殺人予告を堂々と出した恐れ知らずの殺人犯に名探偵ポアロが挑む! というド派手な話かな、と思ったら、舞台はイギリスの田舎の名もなき村で、名探偵はミス・マープルで、殺人予告が載る新聞も、週刊の村内新聞で、ひたすらこじんまりとした話だったので驚いたのを覚えている。それ以来の再読。

     再読しての感想だが、この小説の唯一かつ最大の弱点は、「犯人はクリスティーが読者をびっくりさせるために設定した人物その人に違いない」と思ったまさにその人だというところであろうか。だから、犯人当てよりも、容疑者が犯人であることを特定するための証拠固めをすることに重きが置かれたミステリと考えるべきかもしれない。思い込みと直観でなく推理と証拠から論理的に犯人を導き出そうとすると難しいだろう。「真実」に迫るのはさらに困難だ。クリスティーは本筋から離れた所でも、たっぷりと読者を引きずり回してくれる。

     しかしそれにしても、後味の悪い話だった。あからさまに後味の悪い「葬儀を終えて」よりもさらに後味が悪い。なんとも、犯人が「どこにでもいそうなやつ」なのである。クリスティーも、マープルの口を借りて、こういうやつがいかに身近な存在であるかを強調しているが、それが自分にも向けられたものであると気づくと、急に、この小説のすべての登場人物が哀しく思えてくるのだ。ラストシーンは無理やり明るくまとめられているが、裏読みをすれば果てしなく裏読みができる結末なのである。

     こうした、読者はおろか作者まで炎が及ぶような底意地の悪さと批判精神、イギリスの女流ミステリ作家ってみんなこんななのだろうか。クリスティーといいセイヤーズといいクリスチアナ・ブランドといい……伝統芸ですな。

     しかしこの小説の舞台がセント・メアリー・ミード村でないのが残念。設定上仕方ないとはいえ、あまりにも老嬢ミス・マープルが村を出てほいほい出歩くのは、どうかとちょっと思うんだけど。やっぱり好奇心旺盛な女性というものは、いくつになってもどこへでも気軽に出かけてしまうものなのであろうか。

     クリスティーは、自作の名探偵たちの中でもっともミス・マープルを気に入っていたそうである。だが、その登場する長編はあまり多くない。やっぱり田舎のおばあさんをひょこひょことあっちこっちへ出歩かせるのはポアロに比べて難しかったのだろうか。しかしそれにしてもトミーとタペンスものの「親指のうずき」にマープルを出したテレビ番組は妙にはまっていた。クリスティーの作品には、謎解きばかりと見えて、実は冒険小説もあればスパイ小説もあったりするのだが、意外と、クリスティ―作品における探偵役は可換可能なのかもしれない。映画でそれをやられるのは本人は非常に嫌がっていたそうだけど。

     個人的には、この老嬢探偵の、若い頃が見てみたい。たぶん、田舎で、パッとしない生活を長いことしてきたのだろうが、その裏で、市原悦子の「家政婦は見た」的なドライな瞳で、小さな村の小さな事件を、延々と見つめ続けていたのではないか。そう考えると、ジェーン・マープルの脳髄は、こっそりと、岩井志麻子的な何かを隠していてもおかしくは……。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    瀬戸内晴美が寂聴と号してああなっちゃったいま、わかりやすく「女として生きる上での性欲」というものを具現化しているのが岩井志麻子ですよね。「5時に夢中」ですっかり芸人になっちゃいましたからねえ。

    でも芸人化してなければ今ごろカルト作家ですからなあ。難しいもんです。

    Re: miss.keyさん

    それはあるでしょうね。マープルは基本的にイギリスの田舎の一見日常的な事件に絡むことが多いです。対してポアロは華やかな上流階級の事件に絡むことが多い。

    映画会社はそんなこと知ったものかと、平気でマープルの事件にポアロを出したりして、クリスティ先生は大激怒、挙句の果てには「自分の映画が叩かれている新聞記事を読んでにやにやするのが趣味」とまで言われてしまう始末。クリスティ本人が満足していた映画は、ビリー・ワイルダーが「検察側の証人」を映画化した「情婦」一本くらいだったそうです。天国のクリスティにデビッド・スーシェのポアロのドラマを見せてやりたかったです。NHKの「ポアロとマープル」は……子供向けアニメだから見逃してくれると思うけど……怖くて見せられない(笑)

    Re: 鏡はひゃくにひび割れてさん

    スパイ説、クリスティはいろいろと冒険小説も書いているから油断はできない(笑) 特に「謎のビッグ・フォア」という作品ではポアロを主人公に冒険小説書いてるからなおさら油断できない(笑)

    岩井志麻子先生の露悪趣味、ちょっと最近ついていけない(笑)

    Re: 椿さん

    話がわかっていて読んでも面白い、というのがあの人のすごいところですよね。ミステリのくせに再読がききますからねえ。

    アマチュア物書きとして爪の垢なりともいただきたいものです。

    NoTitle

    "岩井志麻子的な何か"

    なんかすごいフレーズ!
    使いたい。

    別にポアロさんでも良い気がするのは読んでないからかな

    正直マーブルさんはぜんぜん知らんのですが、ポアロではいけない理由があったんだろうか。事件の質が違うとか?

    NoTitle

    上に同じ。
    読んだんだけど、もぉ憶えてない(^^ゞ

    >この老嬢探偵の、若い頃が見てみたい
    クリスティだから、あんがい冒険心にあふれた、チャーミングな若い女性の設定だったりするんじゃない?
    もしくは、実はスパイをやってたとか(^^;

    >岩井志麻子的な何かを隠していてもおかしくは……
    てことは、やっぱり、どこの誰とも知らぬオトコが作った(そのオトコのアレが入った)チャーハンを、そうと知りながら食べちゃうってこと?(-_-;)
    いやぁ、さすがにそこまでの露出趣味はないんじゃない?(^^;
    • #20807 鏡はひゃくにひび割れて 
    • URL 
    • 2020.01/12 13:18 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    クリスティー来たー! と思いましたが、これも何度も読んでいるはずなのに最後に読んだのが昔すぎて内容が思い出せない(笑) いや、犯人とトリックは何となく覚えていますが。
    とりあえず読み直してきます(^^)/
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