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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ122位 木曜の男 G・K・チェスタトン

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     高校のころに同好会の部室で創元版を見つけて読んだ。強烈な刺激を受けたのを覚えている。ミステリというかSFというかファンタジーというか思想小説というか、全編にわたってチェスタトン先生のイマジネーションが爆発する、あるSFガイドブックでは「哲学冒険小説」といわれていた、まあ得体のしれない小説である。今回の再読では、光文社の南條竹則による新訳版を読んでみた。理由は簡単で、土浦市立図書館にはこの版しか置いていなかったからである。

     で、今回も読んでみたわけだが、なぜ日本人がキリスト教というものを受け入れられないのかがわかるような気がした。教育を受けた日本人であるわたしにとっては、作中の無政府主義者であるグレゴリーのほうが、「まともなことをいっている」ように見えるのである。少なくとも、本書で描かれたような形で「神」が存在するのだとしたら、それに全ての生命を使ってでも反抗するのが人間の使命であるように思える。文化とか教育がどうかというよりも、体に刻み込まれた「神」とか「超越者」に対する基礎的な理解がまったく違うのだろう。「人格神」としての超越者と、「天」でしかない超越者の違い、とでもいったらいいだろうか。知性ある人間の考える「汎神論」的な思考は、最終的に唯物主義と科学と無政府主義に行ってしまうし、それは万物の死という結末しか迎えないのだぞ、と、本書でチェスタトンは伝えたいようなのだが、実際に汎神論的な価値観にズブズブと浸かっているこの日本で生活していると、「それで何の不都合があるのか」と考えてしまうだろう。

     だからといって、それにより、20世紀初頭を生きた英国人としてのチェスタトンの価値観や、チェスタトンの問題提起を、日本人が「超克」しているわけではまったくないことは日本人として理解しておかねばならない。ある人間が、ある問題に対して「無関心」であったり「価値を認めない」「どうでもいい」というスタンスを取ったとしても、その問題が消滅するわけではないからだ。たぶん、チェスタトンには、過去から現代にわたって日本人が考えてきた問題と問題意識を、「理解」することはできないだろう。それどころか「大いに笑って笑い飛ばす」かもしれない。それでも日本人にとってのリアルな問題は日本人にとってリアルな問題でありつづけるのと同じである。

     そういう意味で、本書は「無政府主義者」としての立場からも読まれなければなるまい。真剣な無政府主義者のグレゴリー、論破されるための役どころしか与えられていない悲惨なグレゴリー、登場の時から裏切られている哀れなグレゴリー。チェスタトンは糾弾される対象として彼を描くが、それでも、グレゴリーの言葉にはひとつの「真実」がある。神と天使は楽しんでいる。いくら、神と天使が自らの苦悩と不幸を語ろうとも、その苦悩と不幸の中で神と天使は楽しみを覚え幸福なのだ。それは、この「木曜の男」という小説を読む行為自体が、「楽しく」「幸福」であること、作中の悪夢めいたグロテスクさに肝を冷やしながらも、「面白い」体験そのものであること、そこに如実に表れている。

     本書はもっと読まれるべきだろう。そして、読むことによって何かを考えなければならない。本書のあのエピローグを、ハッピーエンドだと考えるか、そこにディストピアをも許容する恐ろしい精神的荒廃を見るかは、人によっては違うだろうが、それでも読まないことには何を語ることもできないのだ。哲学科くずれはそう考える次第である。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    日本人にはそうとしか取れませんよねえ。

    それでも、20世紀初頭の英国人がぶつかった問題を超克したわけじゃまったくないのがつらいところ……。

    NoTitle

    "ディストピアをも許容する恐ろしい精神的荒廃"
    の方です。

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