「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
4 天使を吊るせ(完結)
天使を吊るせ 1-2
「もう一度いいます。なにをやっているんですか」
静かな声だった。静かではあったが、どんな無神経な人間でもたじろがせるだけの威厳が備わっていた。
わたしもたじろがざるを得なかった。
「見舞いに……」
「あなたが、どうして見舞いに来るんですか。いえ、どうして平気な顔をして来ることができるんですか」
小野瀬夫人はずいっ、と一歩踏み出して来た。
わたしはプリンを手にしたまま中腰になった。
「わたしは……」
「息子がこのようになったのは、桐野さん、あなたのせいです。あなたが、あなたさえいなければ、息子は……」
小野瀬夫人は声を詰まらせた。
わたしにはなにも答えることができなかった。石像のごとく黙して、石像のごとく打たれるがままだった。
「桐野さ……」
「敦子。そこまでにしておこう」
声が割って入った。
小野瀬孝史の父親だった。
「あなた……」
「桐野さん」
小野瀬氏はわたしに、夫人以上の静かな声でいった。
「お見舞い、ありがとうございます。あなたにここをお教えしてからというもの、毎月いらしていただいているのだそうですね」
わたしは、黙ってうなずいた。なにか発音したら、どんなものであれただの自己弁護にしかならないと思った。わたしにとっては悲しいことに、それは厳然たる事実だった。
「そのお心に感謝します。しかし……」
小野瀬氏は言葉を切った。
沈黙が病室を覆った。聞こえるものは、ただ空調の音だけだった。
「しかし、あなたがここにいることは、妻にとっては耐え難い苦痛なのです。正直なところを申せば、わたしも後悔しているのです。おわかりいただけるかと思いますが……」
言葉は選ばれていたが、その奥底にある悲痛と絶望は、わたしにもよくわかった。これでも元は精神科医だったのだ。わからなかったら、そちらのほうがおかしい。
わたしの無言を同意と取ったのか、小野瀬氏はさらに言葉を継いだ。
「お願いです。桐野さん。妻とわたしの心が落ち着くまで、しばらく、出て行っていただけませんか。しばらくでいいんです。ほんのしばらく!」
最後通牒に聞こえた。
わたしはプリンをテーブルに置くと、小野瀬氏に一礼した。部屋を出る。
いったい、ほかにどうすればよかったというのだ?
静かな声だった。静かではあったが、どんな無神経な人間でもたじろがせるだけの威厳が備わっていた。
わたしもたじろがざるを得なかった。
「見舞いに……」
「あなたが、どうして見舞いに来るんですか。いえ、どうして平気な顔をして来ることができるんですか」
小野瀬夫人はずいっ、と一歩踏み出して来た。
わたしはプリンを手にしたまま中腰になった。
「わたしは……」
「息子がこのようになったのは、桐野さん、あなたのせいです。あなたが、あなたさえいなければ、息子は……」
小野瀬夫人は声を詰まらせた。
わたしにはなにも答えることができなかった。石像のごとく黙して、石像のごとく打たれるがままだった。
「桐野さ……」
「敦子。そこまでにしておこう」
声が割って入った。
小野瀬孝史の父親だった。
「あなた……」
「桐野さん」
小野瀬氏はわたしに、夫人以上の静かな声でいった。
「お見舞い、ありがとうございます。あなたにここをお教えしてからというもの、毎月いらしていただいているのだそうですね」
わたしは、黙ってうなずいた。なにか発音したら、どんなものであれただの自己弁護にしかならないと思った。わたしにとっては悲しいことに、それは厳然たる事実だった。
「そのお心に感謝します。しかし……」
小野瀬氏は言葉を切った。
沈黙が病室を覆った。聞こえるものは、ただ空調の音だけだった。
「しかし、あなたがここにいることは、妻にとっては耐え難い苦痛なのです。正直なところを申せば、わたしも後悔しているのです。おわかりいただけるかと思いますが……」
言葉は選ばれていたが、その奥底にある悲痛と絶望は、わたしにもよくわかった。これでも元は精神科医だったのだ。わからなかったら、そちらのほうがおかしい。
わたしの無言を同意と取ったのか、小野瀬氏はさらに言葉を継いだ。
「お願いです。桐野さん。妻とわたしの心が落ち着くまで、しばらく、出て行っていただけませんか。しばらくでいいんです。ほんのしばらく!」
最後通牒に聞こえた。
わたしはプリンをテーブルに置くと、小野瀬氏に一礼した。部屋を出る。
いったい、ほかにどうすればよかったというのだ?
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