東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ124位 パンドラ抹殺文書 マイケル・バー・ゾウハー
マイケル・バー=ゾウハーには高校生の時にハマりにハマった。早川文庫NVの長編は片っ端から読んだ。なぜか? 理由は簡単である。「安かった」のだ。行きつけの古本屋で、あからさまにワンランク下の値段がついていた。売れなかったんだろうなあ。
バー=ゾウハーの、初期のスパイスリラーをひとことで評すると、「名人芸の背負い投げ」とでもいうべきだろう。スパイスリラーは、「寒い国から帰ってきたスパイ」を例に出すまでもなく、国家のたくらんだ陰険で根性悪な作戦を、使命を実行する下級スパイの立場から描くものだが、マイケル・バー=ゾウハーの作品では、その陰険で根性悪な作戦が「いくところまでいって」しまい、まるで謎解きミステリを読んでいるかのようなとんでもないトリックが用意されているのである。面白く読んだ後で、なんでこんな人がスパイスリラーなんか書いてるんだろう、時代的に謎解きミステリは無理でも、このトリックの才能があれば、サスペンス小説がいくらでも書けるんじゃないかな、と首をかしげてしまう、そんな読後感がある。
まあ、そういう人なので、この作家の作品を読むときには「今度はどんな背負い投げが来るのか」を楽しみにする、というのが正しい読み方なのだが、問題点があって、この作家の背負い投げに対する愛着はよくわかるのだが、それだけに「食らい慣れ」すると、相手の攻撃がある程度わかってしまうのだ。呼吸だけでわかってしまう。「二度死んだ男」「過去からの狙撃者」「エニグマ奇襲指令」「パンドラ抹殺文書」「ファントム謀略ルート」と読んでいくと、そのトリックの根本的発想というのが「どれも同じ」なのだ。
だからといって悪いことはない。スペイン継承戦争で活躍したイギリスの将軍、マールバラ公ジョン・チャーチルは、小部隊同士の小競り合いから、数万の大軍がぶつかり合う大会戦まで、一貫して「まったく同じ作戦」で戦った人であるが、それでも連戦連勝してイギリスを勝利に導き、歴史的にも「軍事的天才」であり「名将」だと評価されている。それと同様、同じ発想で何冊も小説を書いても、面白ければそれでいいのだ。
バー=ゾウハーの小説は、どれも面白い。名職人のいぶし銀の技、とでもいうべきうまさがある。そこに、狡猾なトリックによる背負い投げがあざやかに決まると、中毒患者おひとりできあがり、というわけだ。作品はいくつもあるが、その中でもっともあざやかな背負い投げを決めたのは、本書「パンドラ抹殺文書」だろう。作中の伏線をすべて使い切りながら、読者に発想の転換を強いる、論理のダイナミックさは一読の価値がある。
今回も、図書館に相互貸借で取り寄せてもらって再読した。やっぱり高校生の時と同様、強烈に面白かった。読み直して、この人の発想、わたしも国家間謀略やそれに類する陰謀を書くときにパクリみたいに応用してるんだなあ、と気づかされて赤面である。それほどまでにこのトリックと逆転劇は、物語を作る人間にとっては魅惑的なものなのだ。
ただし、読むぶんなら別にいいけれど、この人の発想を使ってTRPGのシナリオを作ってはダメである。あるとき、それをやってしまって、プレイヤーを愕然とさせてしまい、大事な友人を何人かなくしてしまった。同じことをやられたらわたしも相手を恨むだろうし、まあ、背負い投げと裏切りは使用上の注意を守ってほどほどに……。
バー=ゾウハーの、初期のスパイスリラーをひとことで評すると、「名人芸の背負い投げ」とでもいうべきだろう。スパイスリラーは、「寒い国から帰ってきたスパイ」を例に出すまでもなく、国家のたくらんだ陰険で根性悪な作戦を、使命を実行する下級スパイの立場から描くものだが、マイケル・バー=ゾウハーの作品では、その陰険で根性悪な作戦が「いくところまでいって」しまい、まるで謎解きミステリを読んでいるかのようなとんでもないトリックが用意されているのである。面白く読んだ後で、なんでこんな人がスパイスリラーなんか書いてるんだろう、時代的に謎解きミステリは無理でも、このトリックの才能があれば、サスペンス小説がいくらでも書けるんじゃないかな、と首をかしげてしまう、そんな読後感がある。
まあ、そういう人なので、この作家の作品を読むときには「今度はどんな背負い投げが来るのか」を楽しみにする、というのが正しい読み方なのだが、問題点があって、この作家の背負い投げに対する愛着はよくわかるのだが、それだけに「食らい慣れ」すると、相手の攻撃がある程度わかってしまうのだ。呼吸だけでわかってしまう。「二度死んだ男」「過去からの狙撃者」「エニグマ奇襲指令」「パンドラ抹殺文書」「ファントム謀略ルート」と読んでいくと、そのトリックの根本的発想というのが「どれも同じ」なのだ。
だからといって悪いことはない。スペイン継承戦争で活躍したイギリスの将軍、マールバラ公ジョン・チャーチルは、小部隊同士の小競り合いから、数万の大軍がぶつかり合う大会戦まで、一貫して「まったく同じ作戦」で戦った人であるが、それでも連戦連勝してイギリスを勝利に導き、歴史的にも「軍事的天才」であり「名将」だと評価されている。それと同様、同じ発想で何冊も小説を書いても、面白ければそれでいいのだ。
バー=ゾウハーの小説は、どれも面白い。名職人のいぶし銀の技、とでもいうべきうまさがある。そこに、狡猾なトリックによる背負い投げがあざやかに決まると、中毒患者おひとりできあがり、というわけだ。作品はいくつもあるが、その中でもっともあざやかな背負い投げを決めたのは、本書「パンドラ抹殺文書」だろう。作中の伏線をすべて使い切りながら、読者に発想の転換を強いる、論理のダイナミックさは一読の価値がある。
今回も、図書館に相互貸借で取り寄せてもらって再読した。やっぱり高校生の時と同様、強烈に面白かった。読み直して、この人の発想、わたしも国家間謀略やそれに類する陰謀を書くときにパクリみたいに応用してるんだなあ、と気づかされて赤面である。それほどまでにこのトリックと逆転劇は、物語を作る人間にとっては魅惑的なものなのだ。
ただし、読むぶんなら別にいいけれど、この人の発想を使ってTRPGのシナリオを作ってはダメである。あるとき、それをやってしまって、プレイヤーを愕然とさせてしまい、大事な友人を何人かなくしてしまった。同じことをやられたらわたしも相手を恨むだろうし、まあ、背負い投げと裏切りは使用上の注意を守ってほどほどに……。
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