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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ124位 奇巌城 モーリス・ルブラン

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     小学生の時にあかね書房の児童向けリライトが図書室にあったのを覚えている。だが、読む機会がないまま過ごしてしまった。なんでも、少年向けということで、かなりすごいリライトがされているそうなのだが。そのかわりといってはなんだが、父の押入れから創元推理文庫版の「奇巌城」を引っ張り出し、そっちは夢中になって読んだ。後半の、「奇巌城」というタイトルの意味が明らかになってからの冒険小説ぶりはもう最高である。訳文は硬かったが、それが意外と大時代性にマッチしたのか、小学生にも面白かった。まったく、「刺青殺人事件」といい、変な本ばかり読む小学生もいたものである。

     そんなことを思い出しながら再読。偕成社版の完訳「奇岩城」版を図書館から借りてきた。少年向けとはいえあなどれない叢書である。一時期はこれが「決定版」とまでいわれたくらいに校訂がしっかりしているのだ。

     で、感想だが、面白い。「813」とは比べ物にならん。実質的な主人公である、高校三年生の少年探偵イジドール・ボートルレと、丁々発止の争いをする悪党ながらも偉大な男、怪盗紳士アルセーヌ・ルパンの対比が見事で、一気読みしてしまった。

     偕成社版の「奇岩城」には、ご丁寧なことに、怪盗の秘密基地「エギュイーユ・クルーズ」の完全な断面図が載っており、読んでいて非常にうれしい。常識的に考えれば、こんな、警官隊によってあっという間に包囲されてしまう基地など、難攻不落どころか、基地としても軍事拠点としても役に立つわけがないのだが、そこはルブランのハッタリを素直に楽しもう。各時代のフランス北西部の支配者の名前を次から次へと出しながら、最後に「アルセーヌ・ルパン」とくっつける堂々としたこのハッタリ感は、読んでいると実に気分が向上してくるのだ。また、脇を盛り上げるガニマール警部のハッタリも最高である。「イジドールくん、わたしは大統領閣下から直接に命令を受けてきたのだ」なんて、よくやるよほんと。ルパンもルパンで、乗り込んできたイジドール・ボートルレのために、豪華な食事と、「イジドール・ボートルレ」と書かれたカードの置かれた指定席でもって歓待するのだから、そのカッコよさたるや、冷酷な野心家でしかない「813」の比ではないのである。

     少年探偵ものとしても、ピカレスクロマンとしても、冒険小説としても、どこを切っても面白いこの「奇巌城」であるが、ひとつだけ、どうしても許せない箇所がある。読んだ人は誰でも納得すると思うが、「シャーロック・ホームズ」の存在、あれだけがどう考えても「汚点」としか思えないのだ。ルブランの描くホームズは、ホームズにまったく似ていないことはルパンの読者なら誰でも知っている。あれだけ特徴のあるホームズの癖も風貌もまったく反映されておらず、ただ単に傲慢で、不遜で、しかもルパンに知力で及ばない、という扱いなのだ。そのうえに、本作ではとことんまで「イヤな奴」として描かれ、ラストシーンでは、「それだけはやっちゃあかんやろ」ということまでしでかしてしまうのである。こんなことをホームズにさせるな! である。おそらく、ホームズを出せばそれだけでウケる時代だったんだろうが、もうちょっと配慮というものをだな、と思えてならない。ドイルと出版社が激怒するのも当然だろう。きっとこれは、モリアーティーの組織の残党が、ホームズの評判を貶めるため、ホームズに化けてフランスに上陸していたんだ、と考えてもまだ腹の虫がおさまらん。ミステリファンというのはめんどくさいものであるほんと。
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    ~ Comment ~

    Re: 矢端想さん

    うちの小学校の図書館では、ルブランの「ルパン対ホームズ」の児童書が、一冊で二度おいしい、と思われたのか大人気でしたなあ。

    で、自分も期待して読んで、つまらなさに愕然としたであります(笑)

    ドイルから抗議が来るのも当然です。エルロック・ショルメスと思ったほうがいいですね(笑)

    その伝で行けば乱歩のは「ラルセーヌ・ウパン」かな(笑)

    西村京太郎は「名探偵シリーズ」で、明智に復讐に来たルパンを出してます。日本の作品ではあれが最高のパロディでしょうね。

    NoTitle

    小5ぐらいの頃、僕の誕生日会にクラスのボスみたいな奴がくれたプレゼントが児童書版「奇岩城」でした。エギュイユ・クルーズという名とホームズが出てきたこと以外はあんまり覚えてません。ルパンの作者がホームズと夢の共演をさせたことに驚きましたが、でもなんか違和感がありました。記事を読ませていただくに、ルブランのドイルへのリスペクト…とは少々違うようですねw
    そういえば乱歩には明智がルパンと対決する「黄金仮面」てのもあったなあ。こういうとこに出てくると天下のアルセーヌも小者感が…。

    Re: 椿さん

    どう考えても別人ですよね。(笑)

    それでも原典に忠実に「ホームズ」と訳す我国の翻訳者たちの律義さがつらい。(笑)

    ルパンの不幸なところは、最後に至るまで「ブラウン神父」とめぐりあうことができなかったところですな。(笑) もし出会っていたら、フランボウ同様、スペインの片田舎に城を買って悠々自適の隠棲生活を楽しんでたでしょうに。(笑) というか、延々続くルパンのシリーズ自体が、「飛ぶ星」事件でフランボウにブラウン神父が語った言葉の正しさを、逆説的に証明しているとしか思えない。(笑)

    NoTitle

    おはようございます。

    あれはエルロック・ショルメとかいうエセ探偵として記憶の彼方に葬りました。なんなら、出ていたことも忘れていました。少年探偵との対決だけに記憶が改ざんされていた……(笑)

    ルパンはここまでが一番面白かったですね。いや、八点鐘も三十棺桶島も好きなんですけど、あの2作は正直ルパンじゃなくてもいいやつですし。
    ルパンの名前を使った方が売れたのだろうということは想像がつきますが、無理にシリーズを引っ張らなくても良かった気がしますねえ(^^;
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