東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ130位 暁の死線 ウイリアム・アイリッシュ
小学生の時に図書室のあかね書房版で読んだ。あかね書房の海外ものリライトにはまっていた当時の小学生にとって、アイリッシュのサスペンス小説がどれほど魅力的だったか、今では想像もつかないだろう。ページを開くと、いきなり悪夢のど真ん中に叩き込まれ、主人公とともに、どこをどうやったら出口へたどり着けるかすらわからない闇の中をひたすら引きずり回されるのだ。警察は頼りにならない、いや、頼りにしたら電気椅子直行という追いつめられた状況で、主人公は皆目見当のつかない犯人を捕らえるために孤軍奮闘しなくてはいけないのだ。楳図かずおの恐怖マンガと同じである。ページを繰るのが怖くて怖くて仕方ないのだが、どうしても続きが気になって読んでしまう、というあれだ。そういえば、楳図先生の傑作「おろち」にも、たしかアイリッシュのサスペンスのパクリがありましたな。
それ以来の再読。今回読むのは創元推理文庫版の完訳だから、事実上の初読だ。とはいえ、小学生のころは何度となくくり返し読んだし、三浦友和と山口百恵主演の大映の二時間ドラマも見たし、ストーリーは完全に頭に入っている。それではたして面白いかどうか。
で、読んだわけだが、アイリッシュのリーダビリティ、すごい。ニューヨークを舞台に、ふとした出来心で盗みを働いた田舎者の失業者と、ひょんなことから男にかかわった同郷の日雇いダンサーが、盗んだ金を返しに行った屋敷で何者かに殺された死体を発見。死刑をまぬかれるためには警察が動き出す夜明けまでに犯人を捕まえて、始発の長距離バスでニューヨークを脱出しなければならない、というシンプル極まりない設定の、作中時間でわずか5時間30分の物語なのに、創元推理文庫で350ページ以上もあるのだ。そして、読み始めたら、文字通り止まらないのだ。ちょこっと読むつもりが、気がついたら50ページくらい読んで、素人探偵として慣れない捜査をする二人の男女の冒険に手に汗を握っている次第。
内容は頭に入っていたはずなのに、今回、意外な発見だったのは、この小説、普通に話を進めれば、この半分くらいの枚数で済んでしまうということだった。大半が、「挿話」なのである。いわゆるランダムエンカウント。だが、その挿話のひとつひとつが、「人生」を感じさせて、「いい」のだ。それはこのニューヨークで失敗し、傷つきながらも必死で生きている人々の姿であり、それぞれに印象的なのである。
解説でも指摘されていたことであるが、この小説において、「犯人が誰か」は実はどうでもいい要素である。ここでふたりが出会う人間の誰を犯人にしても、破綻のない作品にすることが可能だからだ。現にテレビドラマでは、やたらと脚色されていた。まあドラマだからではあるが、それでも「暁の死線」だなと思えるのがすごい話である。単にアイリッシュは、主人公を追い詰めるシチュエーションが作れればそれでよかったわけであり、追い詰められた以上はこの息詰まる逃走のサスペンスを楽しめばよい。時計の針はどんどん時を刻んでいき、デッドラインである朝焼けはじりじり近づいてくる。この広いニューヨークで真犯人を捕らえることなど可能なのか、ふたりの顔に絶望の色がどんどん濃くなってくる……。たまりませんな。
サスペンス書く人間って、人間精神のどこを刺激すれば最大の不安を惹起させることができるかを知悉しきっているんだろうな。特にアイリッシュほどの人となると。終生実母と安ホテル暮らしで、最後は孤独のままに死んだそうだが、そのテクニックゆえかなあ、とふと思う。
それ以来の再読。今回読むのは創元推理文庫版の完訳だから、事実上の初読だ。とはいえ、小学生のころは何度となくくり返し読んだし、三浦友和と山口百恵主演の大映の二時間ドラマも見たし、ストーリーは完全に頭に入っている。それではたして面白いかどうか。
で、読んだわけだが、アイリッシュのリーダビリティ、すごい。ニューヨークを舞台に、ふとした出来心で盗みを働いた田舎者の失業者と、ひょんなことから男にかかわった同郷の日雇いダンサーが、盗んだ金を返しに行った屋敷で何者かに殺された死体を発見。死刑をまぬかれるためには警察が動き出す夜明けまでに犯人を捕まえて、始発の長距離バスでニューヨークを脱出しなければならない、というシンプル極まりない設定の、作中時間でわずか5時間30分の物語なのに、創元推理文庫で350ページ以上もあるのだ。そして、読み始めたら、文字通り止まらないのだ。ちょこっと読むつもりが、気がついたら50ページくらい読んで、素人探偵として慣れない捜査をする二人の男女の冒険に手に汗を握っている次第。
内容は頭に入っていたはずなのに、今回、意外な発見だったのは、この小説、普通に話を進めれば、この半分くらいの枚数で済んでしまうということだった。大半が、「挿話」なのである。いわゆるランダムエンカウント。だが、その挿話のひとつひとつが、「人生」を感じさせて、「いい」のだ。それはこのニューヨークで失敗し、傷つきながらも必死で生きている人々の姿であり、それぞれに印象的なのである。
解説でも指摘されていたことであるが、この小説において、「犯人が誰か」は実はどうでもいい要素である。ここでふたりが出会う人間の誰を犯人にしても、破綻のない作品にすることが可能だからだ。現にテレビドラマでは、やたらと脚色されていた。まあドラマだからではあるが、それでも「暁の死線」だなと思えるのがすごい話である。単にアイリッシュは、主人公を追い詰めるシチュエーションが作れればそれでよかったわけであり、追い詰められた以上はこの息詰まる逃走のサスペンスを楽しめばよい。時計の針はどんどん時を刻んでいき、デッドラインである朝焼けはじりじり近づいてくる。この広いニューヨークで真犯人を捕らえることなど可能なのか、ふたりの顔に絶望の色がどんどん濃くなってくる……。たまりませんな。
サスペンス書く人間って、人間精神のどこを刺激すれば最大の不安を惹起させることができるかを知悉しきっているんだろうな。特にアイリッシュほどの人となると。終生実母と安ホテル暮らしで、最後は孤独のままに死んだそうだが、そのテクニックゆえかなあ、とふと思う。
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