「ショートショート」
ミステリ
アイデア・ノート
爺いがくたばったと知ったとき、まず最初におれがやったことは、爺いのパソコンをチェックすることだった。
爺いは小説家だった。流行作家というわけではなかったが、熱心なファンに支えられた、カルト作家というやつだった。カルト作家にもいいことはある。自分のスタンスさえ崩さなければ、食いはぐれる危険性が小さいということだ。もちろん、そのためにはコンスタントに作品を発表する必要があるが。
おれは爺いのHDDを探った。爺いは几帳面なやつだったから、求めるものを見つけ出すのは簡単だった。
『アイデア・ノート』。このファイルを開けたとき、おれの心臓は高鳴った。爺いの未発表の作品のアイデアと思われるものが、いくつもいくつも書いてあったからだ。
おれは細心の注意を払って、そのファイルの第二段落以降の内容を、USBメモリにコピーした。元のファイルにあったデータは、コピーしたぶんを全て消した。
これで爺いのアイデアは、おれのものとなった。誰が見ても、爺いは、第一段落だけを書いて、そこで筆を折ったと見られるだろう。特別なソフトを使って、HDDをすべてチェックすれば、おれの行為についてなんらかの証拠が残るかもしれないが、誰がそんなヒマなことをする? かつかつに食べていた、カルト作家のディスクなど。
おれはにやりと笑って、セキュリティソフトが対応していない、最新型のデータ破壊型ウィルスをぶち込んだ。念のためだ。これで爺いのパソコンは、明日にはただの箱になっているだろう。
こんなことをしたのも、おれも小説家にあこがれていたからだった。だが、おれには深刻なまでに欠けているものがあった。アイデアの独創性だ。こればかりは生まれながらのもの、逆立ちしたって出てこない。
そんなわけで、爺いのアイデアを盗んで、自分の作品に生かそうと思ったのだ。どうせ故人のだし、いいだろう、そのくらい?
おれは爺いの珠玉のようなアイデアを読み、それをそのまま小説に仕上げた……。
爺いのつての出版社で、おれの処女作が出版されてから一週間後のことだった。
おれは第二作に取り掛かっていた。もちろん爺いのアイデア・ノートがもとだ。この調子でやっていれば、数年間は作品に困らないだろう。
おれの家に、出版社の社長と弁護士が訪ねてきた。
「なんです?」
「君」
社長はこわばった声をしていた。
「君は、この二つの作品のアイデアを、どこから得た?」
おれも顔がこわばるのを覚えた。が、平静を装って答える。
「え? おれの、オリジナルですが?」
弁護士は、眼鏡を指で押し上げて、おれにいった。
「あなたの処女作『闇に弾けよ!』のストーリーは、『あらたん』氏のブログに去年発表された小説、『闇にはじけよ!』のストーリーと酷似しています。また、現在進行中の第二作のストーリーを読ませていただきましたが、これは『きねきね』氏のブログで発表された『生命の瞳』と、タイトルから、登場人物名まで同じです。どういうことなのか説明していただけますか?」
おれは足元が崩壊していくような感覚に襲われた。どういうことだ?
その瞬間、理解が脳髄を走った。
爺いは、自分がネットで読んで気に入った小説のアイデアを、ノートにまとめていたのだ。自分がそのアイデアを間違っても使わないように! まぎらわしい書き方をしやがってあのクソ爺い!
社長と弁護士は、おれに対してなにかを話し続けていたが、おれにはなにもまともには考えられなかった。自分の死刑判決を聞く被告人のように。
爺いは小説家だった。流行作家というわけではなかったが、熱心なファンに支えられた、カルト作家というやつだった。カルト作家にもいいことはある。自分のスタンスさえ崩さなければ、食いはぐれる危険性が小さいということだ。もちろん、そのためにはコンスタントに作品を発表する必要があるが。
おれは爺いのHDDを探った。爺いは几帳面なやつだったから、求めるものを見つけ出すのは簡単だった。
『アイデア・ノート』。このファイルを開けたとき、おれの心臓は高鳴った。爺いの未発表の作品のアイデアと思われるものが、いくつもいくつも書いてあったからだ。
おれは細心の注意を払って、そのファイルの第二段落以降の内容を、USBメモリにコピーした。元のファイルにあったデータは、コピーしたぶんを全て消した。
これで爺いのアイデアは、おれのものとなった。誰が見ても、爺いは、第一段落だけを書いて、そこで筆を折ったと見られるだろう。特別なソフトを使って、HDDをすべてチェックすれば、おれの行為についてなんらかの証拠が残るかもしれないが、誰がそんなヒマなことをする? かつかつに食べていた、カルト作家のディスクなど。
おれはにやりと笑って、セキュリティソフトが対応していない、最新型のデータ破壊型ウィルスをぶち込んだ。念のためだ。これで爺いのパソコンは、明日にはただの箱になっているだろう。
こんなことをしたのも、おれも小説家にあこがれていたからだった。だが、おれには深刻なまでに欠けているものがあった。アイデアの独創性だ。こればかりは生まれながらのもの、逆立ちしたって出てこない。
そんなわけで、爺いのアイデアを盗んで、自分の作品に生かそうと思ったのだ。どうせ故人のだし、いいだろう、そのくらい?
おれは爺いの珠玉のようなアイデアを読み、それをそのまま小説に仕上げた……。
爺いのつての出版社で、おれの処女作が出版されてから一週間後のことだった。
おれは第二作に取り掛かっていた。もちろん爺いのアイデア・ノートがもとだ。この調子でやっていれば、数年間は作品に困らないだろう。
おれの家に、出版社の社長と弁護士が訪ねてきた。
「なんです?」
「君」
社長はこわばった声をしていた。
「君は、この二つの作品のアイデアを、どこから得た?」
おれも顔がこわばるのを覚えた。が、平静を装って答える。
「え? おれの、オリジナルですが?」
弁護士は、眼鏡を指で押し上げて、おれにいった。
「あなたの処女作『闇に弾けよ!』のストーリーは、『あらたん』氏のブログに去年発表された小説、『闇にはじけよ!』のストーリーと酷似しています。また、現在進行中の第二作のストーリーを読ませていただきましたが、これは『きねきね』氏のブログで発表された『生命の瞳』と、タイトルから、登場人物名まで同じです。どういうことなのか説明していただけますか?」
おれは足元が崩壊していくような感覚に襲われた。どういうことだ?
その瞬間、理解が脳髄を走った。
爺いは、自分がネットで読んで気に入った小説のアイデアを、ノートにまとめていたのだ。自分がそのアイデアを間違っても使わないように! まぎらわしい書き方をしやがってあのクソ爺い!
社長と弁護士は、おれに対してなにかを話し続けていたが、おれにはなにもまともには考えられなかった。自分の死刑判決を聞く被告人のように。
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Re: さやいちさん
そして故人のパソコンの「ニュースその3」とかいうなんでもないようなファイルを開いた時に、中からはもう目を覆うような……。
品がないジョークですみません(^^;)
品がないジョークですみません(^^;)
癖。
個人の癖ってえてして他人にはわからないものが多いですよね?
別に便利でもなく、
別に重要でもなく、
別に思い出があるわけでもないのに、
わざわざとっておいたりする事や物って、
はたから見た人には、さぞ大切なものだろうと
思ったりしますよね?
携帯のメールの保存やフォルダー分け、
はたまた削除などからしても言えること。
その行為の意味はまさに当事者のみが知ると言う事ですねぇ。
別に便利でもなく、
別に重要でもなく、
別に思い出があるわけでもないのに、
わざわざとっておいたりする事や物って、
はたから見た人には、さぞ大切なものだろうと
思ったりしますよね?
携帯のメールの保存やフォルダー分け、
はたまた削除などからしても言えること。
その行為の意味はまさに当事者のみが知ると言う事ですねぇ。
Re:これ、最高です!
>ヒロハルさん
ファルスとして書きましたけど、こういうチャンスがあったら自分でもふらふらとやってしまいそうです(^^;)
学問のみならず、なにごとにも王道なしということですねやっぱり。
ファルスとして書きましたけど、こういうチャンスがあったら自分でもふらふらとやってしまいそうです(^^;)
学問のみならず、なにごとにも王道なしということですねやっぱり。
これ、最高です!
笑わせてもらいました。
紛らわしいことするおじいさんですねえ。
広いネットの世界では似たような作品など、ゴロゴロあるのでしょうけど・・・・・・そこまで目が届きませんよね。
紛らわしいことするおじいさんですねえ。
広いネットの世界では似たような作品など、ゴロゴロあるのでしょうけど・・・・・・そこまで目が届きませんよね。
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Re: さやいちさん
わたしは隠してませんけど(笑)