「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
4 天使を吊るせ(完結)
天使を吊るせ 1-4
わたしのパトロン、いや飼い主である大野龍臣という老富豪は、未だにわたしに小笠原登志子の入院先を教えてくれようとはしなかった。わたしもあえて問おうとはしなかった。聞いても無駄であることがわかりきっていたからだ。
エレベーターが停まった。わたしは降りた。降りると、すぐそこに「売店」の看板があった。
わたしは売店に入った。いつものことだった。
まっすぐ所定の場所に行き、冷蔵庫の重い扉を開いて、缶コーヒーを買った。ブラックの無糖だった。
わたしはレジに持っていくと、ズボンのポケットから財布を引っ張り出そうとした。財布はなかなかポケットから出てはくれなかった。出口のところで引っかかってしまったらしい。
ようやく、ポケットから引っ張り出すと、百二十円を取り出してテーブルに置いた。人相のあまりいいとはいえない五十がらみのおばちゃんが、化粧気のかけらもない仏頂面をしかめながら缶にバーコードリーダーを当てた。
「百二十円」
おばちゃんはそういいながら、テーブル上の硬貨を取った。
わたしはありがとうの一言もいわずに売店を出た。
病院内で缶を開けるのははばかられた。出口をくぐって外へ出、駐車場の一隅の柱にもたれかかってからようやくプルトップに手をかけて缶を開けた。
飲んだ。
苦味だけが舌を浸して食道を抜け、胃袋に達した。
さわやかでもなんでもない、純粋な苦味だった。
容量が少ないので、飲みきるまでの時間はあっという間だった。わたしは胃袋に苦味の塊を収めたままで、缶を踏み潰し、近くにあった空き缶入れに入れた。
そのまま自分の車まで歩いた。古いフォルクスワーゲン・ビートルだった。メキシコでライセンス生産されたやつだ。
わたしは運転席に座ると、キーを回した。エンジンは一発でかかった。
こいつが機嫌がいいときは、必ずといっていいほど厄介な立場に立たされる破目になることを、長い間の経験から学んでいたので、今日もよけいな期待はしなかった。
わたしはいつもの家へ帰るコースの反対側に針路を取った。
行く手になにが待つのであれ、お手柔らかにしてほしいというのが正直な胸のうちだった。
わたしが向かっていたところ。それは。
『麗澄真理心理学研究所』
バリバリの新興宗教の本部だった。
エレベーターが停まった。わたしは降りた。降りると、すぐそこに「売店」の看板があった。
わたしは売店に入った。いつものことだった。
まっすぐ所定の場所に行き、冷蔵庫の重い扉を開いて、缶コーヒーを買った。ブラックの無糖だった。
わたしはレジに持っていくと、ズボンのポケットから財布を引っ張り出そうとした。財布はなかなかポケットから出てはくれなかった。出口のところで引っかかってしまったらしい。
ようやく、ポケットから引っ張り出すと、百二十円を取り出してテーブルに置いた。人相のあまりいいとはいえない五十がらみのおばちゃんが、化粧気のかけらもない仏頂面をしかめながら缶にバーコードリーダーを当てた。
「百二十円」
おばちゃんはそういいながら、テーブル上の硬貨を取った。
わたしはありがとうの一言もいわずに売店を出た。
病院内で缶を開けるのははばかられた。出口をくぐって外へ出、駐車場の一隅の柱にもたれかかってからようやくプルトップに手をかけて缶を開けた。
飲んだ。
苦味だけが舌を浸して食道を抜け、胃袋に達した。
さわやかでもなんでもない、純粋な苦味だった。
容量が少ないので、飲みきるまでの時間はあっという間だった。わたしは胃袋に苦味の塊を収めたままで、缶を踏み潰し、近くにあった空き缶入れに入れた。
そのまま自分の車まで歩いた。古いフォルクスワーゲン・ビートルだった。メキシコでライセンス生産されたやつだ。
わたしは運転席に座ると、キーを回した。エンジンは一発でかかった。
こいつが機嫌がいいときは、必ずといっていいほど厄介な立場に立たされる破目になることを、長い間の経験から学んでいたので、今日もよけいな期待はしなかった。
わたしはいつもの家へ帰るコースの反対側に針路を取った。
行く手になにが待つのであれ、お手柔らかにしてほしいというのが正直な胸のうちだった。
わたしが向かっていたところ。それは。
『麗澄真理心理学研究所』
バリバリの新興宗教の本部だった。
- 関連記事
-
- 天使を吊るせ 2-1
- 天使を吊るせ 1-4
- 天使を吊るせ 1-3
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

~ Comment ~
お邪魔しますっ
今日はここまで拝読させていただきましたv
先生、辛いですナ…(ノω;`)
仕方のなかったこととはいえ、ご両親の怒りは収まりませんよねエ。かといって先生以外の誰かにぶつけられるわけでもないし…
しょっぱなからもんのすごく暗いですねっ
こういうはじまりも好きですけどね♪←
また読みに参りますv それでは
今日はここまで拝読させていただきましたv
先生、辛いですナ…(ノω;`)
仕方のなかったこととはいえ、ご両親の怒りは収まりませんよねエ。かといって先生以外の誰かにぶつけられるわけでもないし…
しょっぱなからもんのすごく暗いですねっ
こういうはじまりも好きですけどね♪←
また読みに参りますv それでは
>ネミエルさん
あけましておめでとうございます。
新シリーズ、無理やりはじめました。
これからどう転がっていくか、おおまかな道筋以外は作者本人にもよくわかっていません(^^;)
がんばりますねー!!
あけましておめでとうございます。
新シリーズ、無理やりはじめました。
これからどう転がっていくか、おおまかな道筋以外は作者本人にもよくわかっていません(^^;)
がんばりますねー!!
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
ちょっと暗くしすぎたかしらん(^^;)
というか先の作品で小野瀬くんをそのままほうりっぱなしにしてしまったのが気になったので(^^;)
そのうちフォローがあるはずですが(ネタバレ?)