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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ135位 まっしろな嘘 フレドリック・ブラウン

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     フレドリック・ブラウンはわたしにとってはどちらかといえばSF作家である。サンリオ文庫でロバート・ブロックによる選集を星新一が訳していたが、それをまたなくてもあの作家の才知のきらめきというものは、多くの読者を惹きつけ、ある種の人間を作家へと変えてしまうのだ。ブラウン以外の誰が、「闘技場」を、「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」を、「灰色の悪夢」を、そして不朽の名作「終」を書けるというのだ! 長編もいい。「火星人ゴーホーム」と「発狂した宇宙」のスラップスティックぶり、「73光年の妖怪」の生死をかけた手に汗握る頭脳ゲーム、そんなものを書きながらも「天の光はすべて星」なんていう人間ドラマも書いてるし(あの小説のクライマックスで泣かないやつは人間ではない、と思う)、まさにひとりでSF小説誌が作れてしまう偉大なSF作家であった。と同時に、ブラウンはミステリ作家でもあるのだが、最初に読んだ長編サスペンス「3、1、2とノックせよ」はわたしの好みには合わなかった。それ以来、ブラウンのミステリはずーっと食わず嫌いを続けていた。唯一の例外は、本書にも収録されている「うしろを見るな」だったが、あまりにぶっ飛んだ発想に、「これはむしろSFにするべきだったのではないか」としかわたしには思えなかった。それはフェアな反応なのか、いい機会なので本書を図書館に取り寄せてもらって初読。

     読んでみたが、なんだ、フレドリック・ブラウン、ミステリでもきちんといい仕事をしているではないか。わたし好みの皮肉なオチがついたショートショートがいくつも入っていて、バーミヤンでドリンクバーをおかわりしながらニヤニヤと読了してしまった。店の人、「またあの変な客は本を片手にニヤニヤと二時間もドリンクだけで粘りやがって……」とか思ってるんだろうなあ。そういった周囲からの痛い視線を浴びるだけの価値はある、面白い短編集である。読む前は、どうせ「うしろを見るな」のネームバリューだけで入ったんだろうな、と思っていたのだが、とんでもない。巻頭に置かれた、不可能犯罪を扱った怪奇ミステリの「笑う肉屋」はシチュエーションからしてぞくぞくさせてくれるし、タイトル作の「まっ白な嘘」なんて、人間心理を扱った、それこそアイリッシュが書きそうな、恐怖におびえる若妻を扱ったサスペンスの傑作である。「ライリーの死」のペーソスあふれる読後感も忘れがたいし、「闇の女」の最終行のひとことときたら、ブラウンの才能とともに、読者に強烈な「アハ体験」をもたらすことは必定である。それまでホラー小説のような語り口で来たのが一発でぶっ壊れる快感。職人作家ブラウンの面目躍如といえるだろう。

     そのうえでいうのだが、でもやはりこれは「うしろを見るな」のネームバリューだけで200位内に入った短編集である、という側面も強いよなあ。たしかにブラウンのこの短編集のアベレージは高いが、85年という編纂時機を考えても、ブラウン以上にアベレージの高い短編ミステリを、E・D・ホックは量産していたからである。85年版でも2012年版でもホックの短編集が一冊も入らず、ブラウンの本書も2012年版ではランク外になっているのも、「アベレージの高さでベストアンケートにランクインすること」の困難さを物語っているといえよう。もし、「うしろを見るな」という場外ホームラン級の長打がなければ、85年版でもブラウンのショートショートは、ホックのそれと同様、ランクインすることはなかったに違いない。それを考えると、阿刀田高の「ナポレオン狂」はよくぞ65位にランクインした、というところか。でもあの短編集も、作者が阿刀田高でなかったら忘れられている……ような気がしなくもない。よく考えてみたら、アベレージの高さでは神の域に達したようなショートショート作家である星新一がいないのはなぜだ。いやはや、短編の名手もつらいものである。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    いや、これは面白いです。阿刀田高とか好きなら一読の価値はありますね。思ったよりハードボイルドは少なく、本格寄りがけっこう多いのが意外でした。

    ほんとフレドリック・ブラウン、多芸です……。

    NoTitle

    これもきっかけがなく積んだまま数年。
    (古い創元で字が小さく読みにくそうというのもあります)

    そうですか。
    ドリンクバーで粘ってニヤニヤできる面白さですか!
    優先順位を上げる必要がありそうです。
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