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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ141位 詩人と狂人たち G・K・チェスタトン

     ←ニーチェにとって科学とは何だったのかを考える →海外ミステリ141位 警察署長 スチュワート・ウッズ
     中学生の時、図書室にあったので読んだ。衝撃を受けた。ひたすらにわけがわからなかったからである。それ以来、何度か読んでは、チェスタトンの「気が狂ったような論理」に、すごいなあ、と感嘆の吐息を漏らした。ほんと、よくもまああんなロジックを考え、それにぴったりな舞台背景をへんてこりんに描くものである。

     しばらくぶりに再読。読めば面白いことはわかっているのだが、だからといっていまさらなあ、という感じがして、ちょっと手が伸びなかった。前途洋々だった中学時代の毎日から幾星霜、今やあわれ統合失調症の診断を受けて現在も通院を続けている毎日、という立派な狂人が読んで、はたしてどうか。

     で、読んだわけだが、タイトルに偽りありである。「狂人たち」というのは行き過ぎで、「奇人たち」とでもするべきではないかと思える。それほどまでに、作中の登場人物は、みんな、狂人が狂人である要素が欠落しているのだ。

     狂人が狂人であるのは、単に、狂人にとっては世界が「理解不能なものとして恐ろしく見える」からにほかならない。「恐ろしく見える」ものに対してコミュニケートをうまくとることができないから結果として狂人的なふるまいをしてしまうのだ。本書の登場人物は、その点、「完全に自足している」し、その行動にしてもあまりにも「筋が通りすぎている」。狂人が感じる恐怖には「理由というものが存在しない」ことがよくわかっていないらしいのだ。それ以外では、狂人も普通の人間であるので、「これほどまでに完全に筋が通った行動をとることなどできない」。そういう意味で、作中の探偵であるガブリエル・ゲイルが「自分には狂人の考え方がわかる」というのは、「自分には奇人の考え方がわかる」と読み替えるべきであろう。

     また、チェスタトン先生お得意の「科学批判」もしっかり行われているのだが、いまの目で見ると、チェスタトン先生の「科学」を批判するスタンスが、チェスタトンの考える「科学像」のうえに立っているので(それがまたなんとも20世紀初頭の科学像なのである)、食い足りない、というか、「そりゃ科学に対してフェアじゃないだろう」と評したくなる、半分以上いいがかりのレベルであるのがなんともはや。カトリックの信者として、「進化論」を忌み嫌うのはわかるが、現代の目で見たら「ギャグ?」としか思えないだろうなあ。進歩主義的な芸術に対する批判も、同年代のオースチン・フリーマンと同様、「ポイントを外しまくっている」としか思えない。なんせ当時の進歩主義的な芸術が、現代では、「オーソドックスな」「懐古趣味的」になっているわけだし。そういう視点から「石の指」事件を眺めると、もう、チェスタトン先生、「やらかしちゃったな」案件である。

     だが、それを差し引いても、作中の奇人たちが奇人として組み上げる論理の、なんと魅力的なことか。「ガブリエル・ゲイルの犯罪」に出て来る青年の発想の「常軌の逸し方」なんて、論理的な頭を持っている詩人でないと書けないぶっ飛んだ発想である。最終話「冒険の病院」もすごい。現代では半ば当たり前の話になっているが、当時の状況から考えるともうぶっ飛びすぎていて、思わず「そんな狂人いねえよ」とツッコんでしまいたくなるのもまあ御愛嬌というものだな。それがまた、まことに幻想的な文章でつづられるので、たまらんわけである。あたかもヒエロニムス・ボスの絵画みたいで、そういうのが好きな人は必読ですぜ。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    新訳版、文章は読みやすくなったんですけど、ちょっと「味」がうす味になったような気もしないでもない(笑)。

    1990年ころを境に、創元推理文庫は、活字の組み方からまったく変わってめちゃくちゃ読みやすくなりましたからねえ。ハヤカワのチャンドラーの清水訳と村上訳よりも違いますな。

    ついでにめちゃくちゃ割高になったとかいったりして(笑)。

    NoTitle

    図書館に国書刊行会の重厚そうな全集の一つとして入っており借りましたが挫折。(10年くらい前でしょうか)
    最近、創元推理文庫版買いましたので読みます。
    ”論理的な頭を持っている詩人でないと書けない発想”
    ワクワクします
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