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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ141位 警察署長 スチュワート・ウッズ

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     これを最初に読んだのは高校生のとき。内藤陳のブックガイドに触発され、「東西ミステリーベスト100」にも載ってるし、と、当時住んでいた水戸市立図書館に行って借りてみたら、これがまた分厚いハードカバーで、正直めげそうになった覚えがある。とかいいながらストーリーはけっこう覚えていたりもするので、印象深い作品ではあったらしい。当時を思い出しつつ、土浦市立図書館の蔵書の中から借りて再読。

     で、感想であるが、この小説、残虐かつ凄惨な犯罪事件を扱った、警察官を主人公にした小説であるが、これを「ミステリ」と呼ぶにはちょっと抵抗がある。どちらかといえば、これは「人間ドラマ」であり、アメリカ南部のひとつの町の誕生から発展、そして変遷を描いた「大河ドラマ」なのだ。気の利いた脚本家に翻案させて、日曜夜8:00からNHKの大河枠で「きずな」とかタイトルをつけて放映したら、意外と高視聴率をたたき出すのではなかろうか。いや別に最近の大河ドラマにけちをつけているわけではないので間違えないよう。わたしは見てないが。

     とにかく、平凡な田舎町の物語なのだ。町の大物である銀行家と、彼が新造の警察署の、初代署長に任命した、誠実な南部男ウィル・ヘンリー・リーの話から始まって、ドラマがのんびりと進行していく。町の人間は、それぞれに悲喜こもごもの問題をかかえており、経験のない、というかずぶの素人である新米署長は、自分の誠実さと、時に見せる断固たる処理をもって、町の人たちのトラブルを解決していく。そんな彼の毎日の前に、不意に影を落とした謎の残虐な殺人事件。未熟ながらも知恵と勇気で真相に肉薄していくウィル・ヘンリー署長であったが、彼はふとしたことから前半三分の一のところで命を落としてしまうのだった。

     当時はここでびっくりした。こんないいキャラクターを、こんな序盤で殺していいのか、と。まだ初心者だったのだなあ。とはいえ、これも作者の当初からのもくろみであることは、カバー裏のあらすじを読んでもわかることなのだ。ウィル・ヘンリーの死のあとも、事件はゆったりと続き、1920年代から始まったこの事件が解決するのは、公民権運動まっただ中の1960年代なのである。その半世紀に及ぶ歴史、作者が語りたかったのはそこにつきる。

     残虐かつ非道な殺人事件の犯人は、作者は別に隠そうとすらしていない。それどころか、作者は犯人の内面まで執拗に描く。その結果どうなったかというと、読者はこの物語を読み進むにつれて、「残忍で卑劣で醜悪きわまる大量殺人犯のサイコ野郎」ですらも、「町を構成するかけがえのない一部」であり、「古い顔なじみのご近所さん」に見えてくるのだ。気がついたときには、身も心も、このデラノという田舎町の一員と化しているという寸法である。ホームドラマというか、ホームタウンドラマというか。

     かくして、再読を終えたわたしは、すっかりデラノ町民になりきって、「そうだのう、いまのジョージア州副知事さまに納まっているあの方も、小さいころは、そりゃあやんちゃでお父上にさんざん尻をぶたれてのう……」とかいってる始末。それだけの魅力のある大河ドラマなのだ。アメリカの近現代史が好きなかたには絶対のお勧め。でも、これを1982年度の最優秀新人賞に選んだアメリカ探偵作家クラブ、英断を下しましたなあ。どちらかといえば「風とともに去りぬ」とかに連なる系列のロマンだぞ、これ。
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