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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ141位 白昼の悪魔 アガサ・クリスティー

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     クリスティーはうまい。うますぎる。そこが好きになれずに、ずっと敬して遠ざけてきたわけだが、このベスト100を読み返す作業の中で何冊か読んでいくと、このクリスティーおばさんが、恐ろしいほどの「趣向づくりの達人」だということに気づかされる。「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」「オリエント急行の殺人」が、クリスティーの三大「ご趣向」傑作といっていいだろうが、ほかにも「ABC殺人事件」だとか「予告殺人」だとか「スリーピング・マーダー」だとか「ゼロ時間へ」だとか、まあ、天衣無縫なその発想力には敬服せざるを得ない。しかもまことに恐ろしいことに、読んでいる側はその趣向が明らかになるまで「ああ、いつものクリスティーね」と納得して、普通に読み進んでしまうことである。あの「アクロイド殺し」も、「オリエント急行」も、あれだけ大胆なことをしているのにもかかわらず、それを読者の目から完全に隠蔽してのけているのだ。恐るべしクリスティー。というわけで、本書「白昼の悪魔」も、ちょっとどきどきしながら初読。でもなんか、前にポアロのドラマで見たような気がするのだが……。

     というわけで読んでみたところ、なぜこれが141位に入ったのかがわかるような気がした。読んだ感想として、「ふつうのクリスティー」という表現以外しようのない、普通の英国ミステリだったのである。トリックもミステリでよく使われるものを変化させたものだし、犯人の設定も奇をてらったところはないし、だいいち、登場人物が全員、クリスティーの小説では顔なじみみたいな、「よくいるやつら」ではないか。これを読むと、どうしてポアロの小説がデビッド・スーシェ主演で「全作ドラマ化」などというとんでもないことができたのかがわかるような気がする。あのドラマは、ごく少数の役者でもって、彼らが互いに回ごとにまるっきり違う登場人物を演じる、というシステムで作られたものだが、クリスティーの小説というのは、畢竟、そういうものなのである。同じような顔ぶれの登場人物の順列組み換えで成立している小説なのだ。クリスティーは、悪魔的なテクニックで、順列を自由自在に操って、アクロバティックな真相を作り出してみせる。いやはや。で、そうしたテクニックの悪魔的な部分を抑えて、ごく普通の操作で勝負したのが、この「白昼の悪魔」なのである。

     そう捉えた上で、この小説を読んでみると、いや、クリスティー、うまい。意味ありげな伏線の、あれにもこれにもこんな真の意味が隠されていたのか、とうなずくだけにとどまらず、リゾート地で時ならぬ殺人事件に直面しあわてふためく人間たちのファルス、として読んでみても、クリスティーの皮肉な人間観察の目が描き出した、この小説の舞台となっているリゾート地で展開されるストーリーが、これまたよくできている。ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」などと比べると一目瞭然であるが、ペダントリーも疑心暗鬼もなく、ごく普通の男女がごく普通にうろたえているだけなのに、読んでいて飽きてくることはないし、それどころかかえって非常に楽しいのだ。

     たぶん、わたしは、クリスティーのそういうところが「気に食わない」んだろうなあ。なんというか、内田康夫的な、「どうせ収束することがわかっているストーリー」という側面が嫌いなんだろう。クリスティーが内田康夫と違うのは、クリスティーはひっくり返っても「プロットで犯人を追う」ような小説を書く人ではない、ということだ。細かいセリフのひとことにまで気を配って偽の手がかりをばらまき、深読みした読者が右往左往するのを見て微笑する、クリスティーはやっぱり魔女だ。そのうちFGOにも出るんじゃないのか。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    しかしこういう集まり自体が過去のものとなった現在、クリスティみたいな話を書こうとしても書けないでしょうな。P・D・ジェイムズみたいになっちゃう。

    いやジェイムズ女史を非難しているのではないのですが(^^;)

    NoTitle

    これ、好きなやつです(笑)
    確かに典型的というか、クリスティの王道という感じですね。
    私は宿泊客たちの会話を読んでいるだけで楽しいです^^
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