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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ141位 ロウフィールド館の惨劇 ルース・レンデル

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     大学に入って、新しい人間関係に戸惑っているときに図書館で借りて読んだ。はてしなく救いのないストーリーに抑鬱的な気分になった。これだけでもルース・レンデルという小説家を避けるには十分だった。以降、ウェクスフォード警部シリーズですら読んでいない。あのあまりの暗さゆえ、本書を読むのはだいぶ度胸が必要だった。でも図書館に相互貸借を頼んでしまったからには仕方ない、覚悟を決めて、バーミヤンでドリンクバーを飲みながら再読。はたしてどうなるか。

     結論。ルース・レンデルという作家、ひどい。魔女だ。それも白魔女ではなく、人の不幸をけけけけとか笑いながら見ているモノホンの黒魔女である。ほんと、性根がねじくれている女だなあ。この小説、読み返してみたら「ブラック・ユーモア小説」としかいいようがない。「笑ゥせえるすまん」みたいな作品というべきか。陰々滅々たる文章に惑わされてはいけない。ストーリーは、文盲の女中であるユーニス・パーチマンが、いかなる理由で雇い主であるアッパーミドルのカヴァディル家一家四人を惨殺するに至ったか、といういたってシンプルなものである。もしかしたらルース・レンデル、クリスティの「ゼロ時間へ」を意識していたのかな。だが、読んでいる感じは全然違う。「恐ろしいまでに実際的な正気を持ち合わせていた」醜い召使であるユーニス・パーチマンの内面を、殺されるカヴァディル家の面々や、ユーニスを取り巻く人々と同様、レンデルは解剖学的な筆致で淡々と記録していく。その記録たるやすさまじく、読んでいるうちに、読者はこれがまるで現実の事件を題材にしたドキュメンタリーのような感覚を抱いてくるのだ。気がついたときには、事件の真ん中で動きが取れなくなっているという寸法。そこに、未来からすべてを見通したレンデルが、短いが、寸鉄人を刺すがごときコメントを、的確に入れてくるのである。このコメントもまたすさまじい。「どうしてこんな事件が起きたのか」と嘆くふりをしながらも、その実は読者に「避けられるかも、と思うでしょ? でもやっぱり起きちゃうんですよ」と意地悪く笑いながら告げているのだ。

     そもそも、レンデルの立場自体が、フェアではない。この小説では、作者のレンデルは、圧倒的に、殺人者のユーニス・パーチマンの立場に立って物事を書き記している。殺されるカヴァディル家の連中は、知識と教養と、いくらかの財産を鼻にかけたどうしようもない俗物だ。ユーニスもユーニスで、文盲で、教養のかけらも人間性すらもないことを、文盲者ならではのツボをおさえた演技で隠しているわけであるが、読んでいくと、しだいに、そんなユーニスの努力が愛おしく思えてきて、つい応援している自分に気がつくはずだ。この小説、犯罪心理小説に偽装した、「大衆のクソ野郎」を弾劾する書物なのである。ユーニスの文盲と、それに対するカヴァディル家の無神経ぶりは、そのまま、作者レンデルの中に存在するある種の感性の欠落と、それに対する世間一般というものの無神経ぶりとパラレルなのだ。いいじゃないか、自分は誰にも迷惑かけないで、隠れた趣味を楽しんでいるのに、それがどうして嫌な思いをしてまでも、世間一般の常識というものに合わせないといかんのか。ルース・レンデル、女流作家などを志したからには、自分の趣味や職業に対して、さんざん周囲からそういった有形無形の圧力を受けてきたに違いないのだ。そんな趣味を理解しないようなクソ野郎どもを、ショットガンでもってバンバン撃ち殺す快感。本書のクライマックスにはそうした背徳的な快楽がある。たしかに、ユーニスがカヴァディル一家を惨殺したのは、まさしく「彼女が文字を読むことができなかったから」である。では、われわれはそれに対して完全に無縁なのか? 本書はそれを問うている。作者のレンデルは、にやにや笑いながらそれを問うているのだ。
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