東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ141位 迷宮課事件簿 ロイ・ヴィカーズ
最初にまとめて読んだのは浪人中だったと記憶している。松戸の図書館で、ハヤカワのポケミス版の「百万に一つの偶然」「老女の深情け」と迷宮課シリーズをむさぼり読んだものだ。どういうわけだか早川文庫版の「迷宮課事件簿(Ⅰ)」はなかなか手に入らず、古本屋で手にしたときは嬉しかったなあ。
というわけで再読であるが、まあ、誰がなんといおうと、このシリーズ、第一作「ゴムのラッパ」抜きでは始まらない。この場外を通り越して隣の町の球場にまで入っちゃうような超特大のホームランがなければ、このシリーズ、こんなに続いたとも思えぬのだ。少なくとも、こんな位置にランクインすることもなかったろうと思われる。「ゴムのラッパ」には、本シリーズの魅力がすべて詰まっているといっても過言ではない。1.倒叙ミステリ。2.頭のネジが、ほんのわずかだけ「イヤな方向」にズレている人間(被害者のこともあれば加害者のこともある。この「ゴムのラッパ」では加害者)。3.まったく見当違いの筋から捜査を進めて犯人に行き当たる「迷宮課」警部レイスン。倒叙ミステリというからには、最初に犯人の手を全部見せて、そこに警察が迫っていくわけだが、そこには刑事コロンボや古畑任三郎のような英雄的なカッコよさは微塵もない。読者は、どうでもいいような成り行きによりつい殺人を犯してしまってから、いつ警察がくるかとびくびくする犯人の心にぴったりと寄り添って、その不安さを思う存分楽しむことができる。まあ、要するに「イヤミス」というやつだ。
友人の某ラノベ作家は、迷宮課がつかむ手がかりの中でもある意味いちばんバカバカしい「百万に一つの偶然」を買うようだが(いっておくがこれも、手がかりのユニークさでは場外ホームラン級の傑作である)、手がかりの持つ妙な「もの悲しさ」「ペーソス」も含めれば、「ゴムのラッパ」のほうが迷宮課らしいと思う。「事件の本質とは全く何の関係もない、と作者が宣言するゴムのラッパから、どうやって警察は犯人にたどり着いたのか? また、これが犯人とどう関係するのか?」というしびれるような謎と、裏側にある哀愁を帯びた真相、そこが読みどころなわけだ。
それにしても、このロイ・ヴィカーズ先生、次から次へとよくもまあ「頭のネジがイヤな方向にちょいとズレている」人物ばっかり思いつくものだ。亭主が事故で入院した時から、「病気の亭主にかいがいしく仕える妻」を演じることの面白さに目覚めてしまい、それ以来亭主がずーっと半病人であるかのごとくふるまい続ける妻が出てくる「絹糸編みのスカーフ」、自分のミスで火事を出し、友人を醜い顔の障害者にしたのでは、という負い目を持つ男と、その友人の長期にわたる腐れ縁の話「いつも嘲笑う男の事件」(最後の一行がメチャクチャ怖いのだ)、自分が一夜の過ちを犯した女性に結婚を申し込み、申し込んだ真の理由が、「その女と起居を共にするという苦痛を味わうことで自分を罰するため」だった、という夫婦の話「髪の毛シャツ」、いやもう、人生の苦いパートばかりを集めてきたというか、黒岩重吾も三舎を避けるイヤな人間ドラマである。
読んでいるうちに、もしかしたら自分も、そういう頭のネジがズレた無神経な木偶の坊であり、いつ誰から殺されても文句が言えないし、それどころかいつ殺人犯になっても……、とまで思えてくる一種の心理小説で、読んでいるうちに胃が痛くなってくる。ここまで人生をアイロニカルに見つめる目は、やっぱりイギリスのミステリだなあ。
というわけで再読であるが、まあ、誰がなんといおうと、このシリーズ、第一作「ゴムのラッパ」抜きでは始まらない。この場外を通り越して隣の町の球場にまで入っちゃうような超特大のホームランがなければ、このシリーズ、こんなに続いたとも思えぬのだ。少なくとも、こんな位置にランクインすることもなかったろうと思われる。「ゴムのラッパ」には、本シリーズの魅力がすべて詰まっているといっても過言ではない。1.倒叙ミステリ。2.頭のネジが、ほんのわずかだけ「イヤな方向」にズレている人間(被害者のこともあれば加害者のこともある。この「ゴムのラッパ」では加害者)。3.まったく見当違いの筋から捜査を進めて犯人に行き当たる「迷宮課」警部レイスン。倒叙ミステリというからには、最初に犯人の手を全部見せて、そこに警察が迫っていくわけだが、そこには刑事コロンボや古畑任三郎のような英雄的なカッコよさは微塵もない。読者は、どうでもいいような成り行きによりつい殺人を犯してしまってから、いつ警察がくるかとびくびくする犯人の心にぴったりと寄り添って、その不安さを思う存分楽しむことができる。まあ、要するに「イヤミス」というやつだ。
友人の某ラノベ作家は、迷宮課がつかむ手がかりの中でもある意味いちばんバカバカしい「百万に一つの偶然」を買うようだが(いっておくがこれも、手がかりのユニークさでは場外ホームラン級の傑作である)、手がかりの持つ妙な「もの悲しさ」「ペーソス」も含めれば、「ゴムのラッパ」のほうが迷宮課らしいと思う。「事件の本質とは全く何の関係もない、と作者が宣言するゴムのラッパから、どうやって警察は犯人にたどり着いたのか? また、これが犯人とどう関係するのか?」というしびれるような謎と、裏側にある哀愁を帯びた真相、そこが読みどころなわけだ。
それにしても、このロイ・ヴィカーズ先生、次から次へとよくもまあ「頭のネジがイヤな方向にちょいとズレている」人物ばっかり思いつくものだ。亭主が事故で入院した時から、「病気の亭主にかいがいしく仕える妻」を演じることの面白さに目覚めてしまい、それ以来亭主がずーっと半病人であるかのごとくふるまい続ける妻が出てくる「絹糸編みのスカーフ」、自分のミスで火事を出し、友人を醜い顔の障害者にしたのでは、という負い目を持つ男と、その友人の長期にわたる腐れ縁の話「いつも嘲笑う男の事件」(最後の一行がメチャクチャ怖いのだ)、自分が一夜の過ちを犯した女性に結婚を申し込み、申し込んだ真の理由が、「その女と起居を共にするという苦痛を味わうことで自分を罰するため」だった、という夫婦の話「髪の毛シャツ」、いやもう、人生の苦いパートばかりを集めてきたというか、黒岩重吾も三舎を避けるイヤな人間ドラマである。
読んでいるうちに、もしかしたら自分も、そういう頭のネジがズレた無神経な木偶の坊であり、いつ誰から殺されても文句が言えないし、それどころかいつ殺人犯になっても……、とまで思えてくる一種の心理小説で、読んでいるうちに胃が痛くなってくる。ここまで人生をアイロニカルに見つめる目は、やっぱりイギリスのミステリだなあ。
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~ Comment ~
Re: LandMさん
ご無沙汰しています。たまに訪れては、件のお医者さんの恋愛小説をつまみ読みしてますが、恋愛論についてはいいたいことは理解できなくもないですが受け入れがたいですな(^^;)
新型コロナ、猛威振るってますねえ。マスクしないと白眼視、会社は自宅勤務を徹底、えらい変わりようですまったく。それでも仕事があるだけマシだと思ってます。もし仕事がなかったら、外出も禁じられて一日中ネット廃人になってますよ。
最近はミステリもろくに読んでませんなあ。自宅にいるとゲームに夢中になっちゃうし、ほんと、インターネットは怖いですね(^^;)
またいらしてください~。
新型コロナ、猛威振るってますねえ。マスクしないと白眼視、会社は自宅勤務を徹底、えらい変わりようですまったく。それでも仕事があるだけマシだと思ってます。もし仕事がなかったら、外出も禁じられて一日中ネット廃人になってますよ。
最近はミステリもろくに読んでませんなあ。自宅にいるとゲームに夢中になっちゃうし、ほんと、インターネットは怖いですね(^^;)
またいらしてください~。
お久しぶりです。
冬場はなかなか忙しくても訪問できなかったですね。
大変申し訳ございませんん。
まあ、今でも厚労省のお達しで
新型コロナの対応に追われている最中ですが。
そういえば。
最近は海外ミステリは読んでないですねえ。。。
日本の小説のミステリしか読んでないですねえ。。。
また気が向いたら、そういう小説も読んでみたいな。
(∩´∀`)∩
大変申し訳ございませんん。
まあ、今でも厚労省のお達しで
新型コロナの対応に追われている最中ですが。
そういえば。
最近は海外ミステリは読んでないですねえ。。。
日本の小説のミステリしか読んでないですねえ。。。
また気が向いたら、そういう小説も読んでみたいな。
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Re: 椿さん