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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ151位 モンテ・クリスト伯 アレクサンドル・デュマ

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     いつだったかのコミティア帰り、矢端想さんとふたりで飲んだとき、「一番面白い岩波文庫は何か」という話になった。断固として「モンテ・クリスト伯」を推すわたしに対して、矢端想さんは「レ・ミゼラブル」を推した。それまで平和だった飲み会の席にはたちまちにして険悪な空気が流れ、一触即発の火花が散った。タイミングよくホッケの開きが運ばれてこなかったら「てめえ表に出ろ」ということになっていたかもしれない。ちなみに意趣返しというわけではないが、ホッケは矢端想さんよりも多く食ってやった。わはは。

     よくよく考えてみたら、わたしと矢端想さんとの争いと似たようなことは、百年以上前の明治時代にも、「黒岩涙香先生の最高傑作は『巌窟王』だよな!」「何をいってやがる、『噫無情』に決まってるだろボケ」「なんだと。てめえ表に出ろ」などと当時の学生がやっていたに違いないのである。それを思うと、黒岩涙香という人の小説の選球眼はたいしたものだといわざるを得ない。だから両者引き分け、というのが正しい大人の選択というものだろうが、それでもわたしがあえて頑迷なまでに「モンテ・クリスト伯」を推すのは、単に「一人の男がその全精力と半生をかけて行う凄絶きわまりない復讐譚」のほうが、「一人の男がその全精力と半生をかけて行う凄絶きわまりない罪滅ぼし」よりも面白いに決まってる、という原始的な直観によるものだ。それほどまでに「モンテ・クリスト伯」は面白い。

     というわけで、小学生の時以来何度目になるかわからんが再読である。もちろん岩波文庫の山内義雄訳バージョン。講談社からも、現代人にわかりやすい言葉で完訳が出ているが、デュマのフランス語を、流麗な日本語で、かつ原文の持つハッタリ感をも殺さずに訳した山内版にはかなわない。あの文章に慣れると、講談社版の文章は「水割り」にしか思えなくなってくるのだ。もっとも、アマゾンに寄せられたコメントを読むと、岩波文庫の訳は読みにくくていかん、わかりやすい講談社版の文章じゃなきゃダメだ、という人もいるらしいので、まあ、人によるんだろうな。この「モンテ・クリスト伯」という小説、正直なところ、主人公のエドモン・ダンテスがひたすらひどい目に遭う第一巻は、たるい。それでも読み進めていくと、脱獄したダンテスがモンテ・クリスト島の宝を手に入れたところからがぜんエンジンがかかってきて、モンテ・クリスト伯爵と名を変えてパリの社交界にデビューするころになるとスピード全開、まさにジェットコースターノベルである。伯爵の精緻を極めた復讐計画の全貌が明らかになる6巻から7巻になると、もう本を手離すこと自体が苦痛でたまらなくなる。今回の再読でも、最終章では、思わず泣いてしまった。デュマのストーリーテリングもあるが、山内義雄のいささか美文調の文章が実に美しく、ハマっていて、カッコいいのだ。最高の読後感である。

     何年か前にGONZOがテレビアニメにしていて、第一話くらい見てみるか、と録画して驚いた。テクスチャをバリバリに使った、『銀英伝』が地味に思えるくらいのド派手でゴージャスな美術。ストーリーも、原作ではただの金持ちのボンボンだったアルベールを主人公にし、彼の成長を扱うビルドゥングズ・ロマンとして再解釈していた。お見事である。

     というわけで、岩波文庫を読み終えたわけだが、今現在、わたしのスマホには、アマゾンでタダでダウンロードした岩波の昭和2年版豊島与志雄訳の「レ・ミゼラブル」全巻が入っている。読まなければ矢端想さんにフェアではなかろう。だがテキストの膨大さに、いまだにためらっている。われながらヘタレであるなあ……。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    わたしはここにも書いた通り岩波一択なんですが、講談社がいいという人もいたり、まあ、趣味は色々です。

    何度となく映画化テレビ化されてますから、映像から入るのもいいかもしれませんね。でもアニメの「巌窟王」はいじり方が半端ではないので、いったん原典か原典に忠実な作品に当たってから見るのが吉です(^^;)

    Re: miss.keyさん

    「トゥール・ダルジャン」です。ホッケの血のソースはうまいぞ。(ウソ)

    NoTitle

    私は漫画で読んだクチだな。。。
    小説は色々あって、どれ読んだら良いのだろう。
    って話なんですよね。

    一人の人間が復讐に生きるのは悪くない選択肢だと思ってます。
    結局のところ、人は自由に生きるべきなので。
    自業自得という言葉の通り。
    因果応報の言葉の通り。
    世の中の摂理はそういう風に出来ていると思います。
    ( *´艸`)

    ポールさんの付けで良いなら

     よし、ホッケの開きをお店で食おう。ときに、ポールさんの行き付けは何処ですかいのぅ。つけで食わせてもらいます。ごちそうさま

    Re: もんぺ・ブリーフと履くさん(違う)

    「レ・ミゼラブル」派のあなたにはいっておくけれど!

    ホッケの開きはプロが焼いた方がうまいからたまには店で食いなさい(え?)

    Re: 椿さん

    あくまでもわたしには、です(^^)

    なんだかんだいって一番手に入れやすい版でもありますので、ぜひご一読を。面白いですよ。

    わたしゃレ・ミゼラブル派

     もんぺクリスマス伯を押す人に、敢えて言ってしまうところがへそ曲がりのへそ曲がりたるゆえんだす(笑)。理由ですか?理由は、レ・ミゼラブルは読んだことがあるけど、もんぺさんの方は無いからだ(おい、それでいいのか)。いや、そんなもんですって。そういうわけで今夜はホッケの開きが必要ですな。帰りにカスミで買っていこう。そうしよう。

    NoTitle

    いつかちゃんと読もうと思ってまだ読んでいない作品ですね。岩波の訳が良いのですね、ありがとうございます!
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