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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ154位 シャーロック・ホームズの回想 コナン・ドイル

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     いわずとしれた、ドイルの作り出した名探偵「シャーロック・ホームズ」の第二短編集である。収録作は「銀星号事件」から始まって「最後の事件」に至るまで。ドイルはホームズを「最後の事件」で殺してしまうわけだが、まあ、何度読んだか知れないし、面白いことはわかっているのだから、気楽にいこう。

     というわけで再読してみたが、うん、やっぱり面白いやホームズ。当時のミステリの水準から見ても、特に飛びぬけたことはしていないのに、それでもむちゃくちゃ面白い。会社の休み時間に読んでいたが、没頭して読みふけってしまった。

     理由だが、やっぱり、キャラクターだなあ。ホームズとワトスン。この、「なにをどうしゃべっても面白くしかならない二人組」を作った時点で、ドイルは永遠になることを宿命づけられてしまったのだ。当人にとってホームズは生活費稼ぎに過ぎず、ほんとうに書きたかったのは歴史小説とかロマンスであることを考えると皮肉な話である。だって、この二人組がしゃべると、「明日の天気予報」とか「株価予想」でさえ面白くなってしまうのだ。アマチュアではあるがひとりの実作者としてみたら、「ズルい!」としかいいようがない。

     また、今回読んで発見したことだが、ホームズとワトスンのコンビは、なによりも、「ミステリ作家養成ギプス」として最強であった。別に読者の文章力を高めるとかそういうことじゃなくて、このふたりの冒険譚を読んでいると、「おれにもこれくらいなら……」という気分になってくるのである。たぶん、マーチン・ヒューイット譚を書いたアーサー・モリスンも、隅の老人譚を書いたバロネス・オルツィも、ソーンダイク博士譚を書いたオースチン・フリーマンも、その他当時の「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」と呼ばれることになる一群の名探偵たちの冒険譚を書いた作家たちも、みんな「これがウケるんだったら自分だって」と思ったに違いないのだ。そういう意味で、まさに「隗より始めよ」を無意識なままに地で行っちゃったのがホームズ譚なのだ。

     ドイルがホームズをライヘンバッハの滝に突き落としたのが1893年。それ以来百年以上が過ぎたが、ホームズは無事生還したし、今も無数のホームズ譚が生まれている。聖地の巡礼者はあとをたたず、マニアたちは濃すぎる論考を次から次へと生み出してくる。やれワトスン博士は女だったとか、ホームズは女だったとか、ホームズはコカイン中毒をフロイト博士に治してもらったとか、ホームズとワトスンはBLの関係にあったとか、いや違う百合カップルだったとか、もう無法地帯もいいところだ。

     でも、まあ、それでよかったのではないだろうか。歴史ロマンはさておくとして、ホームズが生まれなかったらチャレンジャー教授も生まれまい。「マラコット深海」も「ロスト・ワールド」も存在しないSF界なんて、考えただけでもさびしいじゃないか。

     本人の気持ちがどうであれ、ドイルは神が恩恵を与えた存在なのだ。ミステリとSFに、永遠にその名を刻み込めと神が命じた預言者なのである。いくら辞退してみても、結局はアブラハムもモーセもイエスも天命には従わざるを得なかったのだ。ホームズもチャレンジャー教授も永遠だ。人類が生きている限り読み継がれるだろう。耐えてくれドイル。人類のために。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    「オマケ」っていわれても仕方ないよなあ、というところがドイルにはありますねえ。長編なんて、「オマケ」部分がめっちゃ長いですからなあ。そのぶんドイルがノリノリで書いていたりする証拠ではあるのですが。

    たしか原文はパブリックドメインになってますから、英文の医学書が読めるなら、ワトスン博士も医師という設定なので、すらすら読めるんではないですかね。お金もかからないですし、読んでみてもいいかもしれませんね。

    NoTitle

    シャーロックホームズも最近読んでないなあ。。。
    また、電子書籍とかで読んでみようか。。。
    二人の掛け合いが面白いですからね。
    それだけでも魅力的になってしまうんですよね。
    それ以外が、どうしてもオマケになってしまうのが、
    作者にとっては辛いところ。。。
    (>_<)

    Re: 椿さん

    このスタイルを確立したのはポオの「デュパンと私」のコンビなのに、みんな「ワトスン役」と呼んで意外ともなんとも思わないのがホームズの偉大なところ(笑)
    それにしても、ドイルの全作品の個人完訳全集出版というプロジェクトが挫折した、というのは古い話ですが残念ですね。お金がなくてあんな全集買えませんが……。

    NoTitle

    この後しばらく、みんな『ホームズとワトソン』的なコンビの名探偵ものを書きますものね(笑)
    ドイルさんは不本意だったでしょうが、ホームズは人類史に刻まれちゃったから仕方ないですね!
    どこかに埋もれている、読みかけの原語バスカヴィルを掘り出してまた読もうかなあ(^^;

    Re: miss.keyさん

    いや、「シャーロック・ホームズの冒険」が出版されたのが1892年で、最初の確認できるホームズ・パロディ小説が書かれたのも1892年やで(笑)。

    えええ

    ホームズをしてこれくらいなら書けると思える引き出しの多さがウラヤマシス
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