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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ155位 紅はこべ バロネス・オルツィ

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     最初に手に触れたのは小学生のとき。いわずと知れた、押入れから引っ張り出した父の蔵書である。「世界大ロマン」とかいうことで、どきどきしながら読んで、第一章でめげた。小学生にはよくわからなかったというか、当時のちょっと頭の働く小学生にとって、フランス革命は「絶対的正義」であった。であるからして、殺されて当然であるフランス貴族を、ギロチンから救い出してイギリスに亡命させる「紅はこべ」とその一党が、「悪人」に見えてしまったのである。これではロマンもなにもあったものではない。なんというか、啓蒙主義思想に染まり切ったガキであった。これを知ったら女男爵オルツィ先生も嘆くだろうなあ。

     二回目に読んだのは高校生のころである。そのころには、まあいくらか歴史の二面性というのもわかってきて、スポーツマン的義侠の徒である「紅はこべ」と、翻弄される貴族夫人マーガレット・ブレイクニー、暗躍するフランス全権大使ショーヴランとの三つ巴の追跡劇を夢中になって楽しんだ。作者であるバロネス・オルツィはどちらかといえば「隅の老人」の作者という感じが強かったが、エンターテインメント史的にはこちらの「紅はこべ」のほうが重要な作家、というのもよくわかるような気がしたものだ。さて、三回目の再読である。今の目からして、面白いか否か。

     なんて、答えはもう出ているわけで、今回も、バーミヤンで紹興酒をちびちびやりながら、創元推理文庫を一気読みしてしまった。強烈に面白い冒険小説で、ちょっと置き換えたら21世紀の現代でも、「ライトノベル新刊」として通用しそうなほどの痛快で読みやすい小説である。フランス革命時のヨーロッパを舞台に、いや、オルツィ女男爵先生、サービス精神のカタマリと化してノリノリで話を進めていく。「内容がない」とか「史実にものっとっていない」とか、昔から批評家たちにはさんざんないわれようだが、そんな批評家たちだって、この小説が「無性に面白い」ことはほぼ例外なく認めているのである。そしてエンターテインメントに必要な条件はまず第一に「面白い」ことであり、第二以下の条件は存在しない以上、この小説が155位に入っても何の問題もないのだ。本作を読む際に必要なのはまず無用なこだわりを捨てて頭を空っぽにすることであり、いくらフランスびいきだろうと、「革命万歳! 貴族のやからどもにギロチンの死を!」などと考えてはいけないのはもちろんである。革命政府は悪魔の手先であり、ヨーロッパを混乱に導く陰謀を企む忌まわしき存在なのだ。いやはや、フランスもえらいいわれようであるが、20世紀には「ロシア革命」というもっと大きな革命があり、現代人はいまだにそれを処理しきれていないから、生まれも育ちも真の貴族作家のひとりであるオルツィ女男爵がフランス革命を処理しきれないのも無理はあるまい。

     後代に与えた影響では、乱暴な話だが、「怪傑ゾロ」も「スーパーマン」も、この作品が存在しなければあそこまで親しまれたか疑わしいものである。そう考えると、日本のヒーローものの成立にも多大な影響を及ぼしているのではあるまいか、っていいすぎだなこれは。

     それにしても、本書におけるマーガレット・ブレイクニー従男爵夫人の扱いはあんまりである。本作のメインヒロインにして、「パリでも一番の才媛」にして「社交界の花形」という設定でありながら、彼女が何かすると必ずといっていいほど事態が悪化するのだ。こういうところ、作者が女性だからだろうか、それとも貴族だからだろうか? そこらへんに、イギリス女流作家の抱いている妙な鬱屈とかコンプレックスとかを感じるのだが気のせいだろうか……。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    古典っていうのは面白いから古典というんだ、ってことがよくわかる冒険小説でした。

    フランス革命時代とかベルばらとかが好きな人は絶対ハマるでしょう。そういえば、宝塚歌劇にもなってましたな。

    河出と創元の文庫版が入手しやすいですが、翻訳の読みやすさは河出のほうがこなれた文章らしいですね。赤毛のアンの村岡花子先生が訳されてるみたいですので。

    「隅の老人」を押さえてミステリベスト入りした作品なだけはあります。

    NoTitle

    ぐっ……。ポールさんの紹介はどの本も面白そうで、あれにもこれにも手を出したくなってしまって困ります。世の中には面白い本が多すぎる……!
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