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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ155位 太陽がいっぱい パトリシア・ハイスミス

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     「イヤミス」という言葉がある。文字通り、「読んでイヤな気分を味わうことを主眼としたミステリ」というものらしい。個人的には、ミステリをはじめ娯楽小説というものは、「読んでハラハラドキドキの末にスッキリとしたカタルシスを得るため」に読むものだと考えている。それに真っ向から挑戦するような「イヤミス」など、誰が好んで読むものか。しかも、この作者のパトリシア・ハイスミスは、そうした「イヤミス」系列の代表選手みたいなものであるらしい。さらに不安は増す。さらになおかつ悪いことには、この小説は、誰もが知っている通り、ルネ・クレマン監督の手で映画化され、若きアラン・ドロンの出世作、そして映画好きなら誰もが認める「映画史上に残る名作」となってしまったのである。そんなもの、わざわざ21世紀の現代に読むべきであろうか? だが、完走を誓ってしまったからにはしかたがない。覚悟を決めて読んでみた。

     読んだ感想であるが、パトリシア・ハイスミスのこの原作小説、驚いたことに「ブラック・コメディ」だったのである。これには意表を突かれた。主人公のトム・リプリーという男が、ひとことでいって、「図々しい奴」であり、ふたことでいうと「図々しいけど稀代の小心者」なのだ。ニューヨークでケチな詐欺を働いていた貧乏青年のリプリー、という設定からして、どうしようもない男であることは明白だが、パトリシア・ハイスミスの筆は、とうていそれではおさまらない。原作におけるリプリーの同性愛的傾向はよく指摘されるが、同性愛者、で済む人間ではないのだ。作中人物のマージが喝破する通り、このリプリーは「ホモ以下」の存在であり、「何らかの性生活ができるほどノーマルな人間ではない」のである。他者との完全なるコミュニケーションを心の奥底では頑迷なまでに拒否するほどの小心者で、それでいながら日常生活では他人にたかってなんとも思わないような図々しいやつ。そんなダメを絵に描いたようなうわべだけの男が、それまでの底辺生活で自然と身についた自分の保身術と、それにできすぎというほかないほどの僥倖により、自分の犯した弁護不能の殺人の罪から逃げおおせ、「完全犯罪」を成し遂げるまでを楽しむのがこの「太陽がいっぱい」という小説の眼目なのだ。原題は「才能あるリプリー氏」であり、それはこの皮肉な小説のストーリーをよく体現したいいタイトルだと思う。そう考えると、生命力と男の色気みなぎる若きアラン・ドロンを主役のリプリーに抜擢し、太陽がさんさんと降り注ぐ南欧での一大青春犯罪映画に脚色し直したクレマン監督、大胆だな、と思わざるを得ない。原作ではこんなダメ男なのに、よりによってアラン・ドロンが演じるのかよ。映画の脚色というのはおそろしいものであるなあ。

     リプリーと同様、他者とのコミュニケーションを拒否し、それでいながら日常生活を送って恥じない、「何らかの性生活ができるほどノーマルな人間ではない」狂人であるわたしは、このリプリーというダメ男に、途中から声援を送りつつ読んだ。じわじわと迫ってくる警察や近親者の追及をかいくぐるたびに快哉を叫んだ。そうだ、人間、「やればできる」のである。そして最後の、誰がどう考えても突破不能のデッドロックを、ほぼ「僥倖」だけでリプリーが突破したのを見て、限りない満足感を覚えてこの小説のページを閉じたのであった。たぶん、パトリシア・ハイスミスも、これを書いているとき似たようなことを考えていたんだろうなあ。「人間心理のイヤなところをえぐる」ような小説なのかもしれないが、「同病相憐れむ」からすると、きちんとハラハラドキドキして最後はスッキリとカタルシスを得てしまった。読んでみるまでわからないものである。とはいえ、シリーズ第二作の「贋作」を手に取る気にはちょっとなれない。成長して地に足の着いたリプリーなんてどうもねえ。
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    ~ Comment ~

    Re: ECMさん

    ハイスミスの原作小説のほうでは、「太陽がいっぱい」の後も、リプリーを主人公にした続編が3冊くらい出てまして、リプリーは相変わらず姑息な男らしいですね(^^;)

    「太陽がいっぱい」で疲れきっちゃったので、土浦市立図書館の蔵書にある河出版の続編を読む気にはちょっと……(^^;)

    NoTitle

     アランドロンの映画の方しか知りませんねぇ。
     最後のほうに「太陽がいっぱいだなぁ」とセリフが映画のタイトルの由来なんだなぁ。と思った映画でした。
     あれさえなければ完全犯罪だったのですけどねぇ。
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