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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ159位 ゼロ時間へ アガサ・クリスティー

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     SFとハードボイルドと冒険小説に浸っていた中学生時代、学校の図書室で、唯一読んだクリスティー作品である。なぜこの作品を選んだかだが、本書にはエルキュール・ポアロもミス・マープルも登場しないからだ。本書で名探偵の役を務めるのはいかにも鈍重そうな「ワトスン役によくいるタイプの警察官」であるバトル警視であり、何となくクリスティーではレア度が高いような気がしたのである。まあひねくれたガキではある。そのときは「なんだこんなもんか」な読後感だったような気がする。ピンと来なかったのだろう。あれから30年。読後感はどう変わっただろうか。覚えているのは犯人の名前だけで、ストーリーとかはすべて忘却の彼方である。ちょっとわくわくしながら再読。

     ということで読んだわけだが、クリスティーのテクニックと「新趣向」が冴え渡ったサスペンスフルな傑作だった。とにかくこの小説のポイントは、「ゼロ時間」という概念を編み出したクリスティーの非凡なる着想に尽きる。これを思いついた時点でクリスティーの勝ちだ。殺人計画が実行される瞬間を「ゼロ時間」とし、そこに至るまでに読者は、犯人探しのほかに、「被害者探し」と、クリスティーが冒頭で宣言している「重要な時点で重要な場所にいる運命を与えられたこの人物」は、いったいなにをするのか、という「重要モブ探し」という三つの興味に引きずられ、読むのをやめられなくなってしまうわけだ。特に「重要モブ探し」というアイデアは秀逸で、これがために、殺人が起き、犯人が絞られてきても、まだ強烈なサスペンスが持続するという超絶技巧。なにせ探偵役は神のごときエルキュール・ポアロでも、地獄耳のミス・マープルでもない、通常ならばワトスン役を務めるであろう凡人探偵バトル警視なのである。もしかして犯人が完全犯罪を成功させてしまうのでは……と別な意味でドキドキしてしまう趣向。この魔女のような作者はどこまでも計算ずくで書いているのだ。くそう、クリスティーはうますぎて嫌いだ。

     また、いつもながら、豪奢な屋敷の中で、うさんくさい登場人物たちを右往左往させて読者を楽しませる、クリスティーの話づくりのうまさも見事。本書には特にそれが顕著で、先にも挙げた「ゼロ時間」という要素が効果を発揮し、もう「誰が誰を殺してもおかしくない」状況を作ってサスペンスを盛り上げていく。普通、こうなったら、誰か滞在を切り上げて帰るだろう! といいたくなるが、「病床の鬼婆めいた老婦人」を出すことによって、その可能性を断ち切ってしまうところもまた見事。そしてやってくるゼロ時間。これにしびれなかったらミステリなんて読まないほうがいいのではないかと思えてくる。

     というわけで、クリスティーが嫌いな人にもぜひ読んでもらいたい、読み始めたらページをめくる手が止まらなくなることうけあいな大傑作ではあるのだが、この位置に来ているというのは、やはり「バトル警視」じゃ人気が出なかったんだろうなあ。内容的には、100位内にランクインしてもおかしくない傑作なのでは、と思えてならないのだが。もしこの事件をポアロが、と考えると、やっぱり、ミステリにキャラクターって大事だよね、と思わされる一作であった。もし島田荘司の「北の夕鶴2/3の殺人」を吉敷刑事ではなく御手洗潔が解決していたら、ランクは……って、まあこれは「言わない約束」というやつか。中には誰とはいわないが、シリーズ探偵が事件を解決する作品になると面白さが半減する作家なんてのもいるからなあ。いや、誰とはいわないけど。「○○○」先生だなんて、口が裂けてもそんな失礼なこといわないけど……。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    小説は読むとしんどいなら、「戯曲」を読んではいかがでしょうか?

    「ねずみとり」なんて薄くてしかも面白いですよ。早川文庫から本が出てます。

    NoTitle

    アガサクリスティーか。。。
    そういえば、小学生・中学生の頃に図書館で読んだっきりで
    まったく読んでいないな。
    確かに、今読んだら、絶対に感想が違うだろうな。
    また読んでみよう!!
    (∩´∀`)∩
    ・・・時間があったら。。。
    それが一番の問題だ。

    Re: 椿さん

    ノンシリーズと、探偵がメジャーではない作品はやはりコアなファンしか読まないでしょう。たとえば水島真司先生のマンガでいえば、「ドカベン」を読むのが普通で、名作でも「銭っ子」なんか誰が読むのだろう、というわけで(たとえが変かなあ(笑))

    そんな中でも読者開拓のために、小学生向けリライトシリーズの中に、ポアロにまじってトミーとタペンスの「秘密機関」を入れたあかね書房のマニア養成ギプスぶりをわたしは高く評価します(笑)。

    NoTitle

    これも面白いですよね! 久しぶりに読みたくなりました。
    重要モブさんがいつ出てくるのかでかなりドキドキさせられた記憶があります。
    やっぱり入門の時は有名なシリーズ物から読んでしまいますね。そう思うとノンシリーズは不遇になってしまうのかなあ。
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