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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ162位 ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ ジョン・ル・カレ

     ←けもフレで怒り心頭に発せられてもなあと思いつつ詠める三句 →海外ミステリ162位 高く危険な道 ジョン・クリアリー
     中学生の時、早川書房のハードカバー版を、「海外SFノヴェルズ」と見間違えて読んだ。カバーを剥ぐと、濃紺の表紙にグレーの文字で、慣れていないと見分けがつかないのである。で、そのときの感想だが、「何が起きているのかさっぱりわけが分からず、ひたすら退屈で、活字を追うだけのマラソンをしている」ような感じだった。わたしがル・カレ嫌いになることを決定づけた小説といっていい。そのときのトラウマをひきずったまま再読。しかも読んだのは現行の改訳版で、その翻訳はネットのレビューでたたかれまくっているときている。正直、これを読まなくてはならん、というのは憂鬱だった。だがこれは、「スクールボーイ閣下」「スマイリーと仲間たち」と続く三部作の第一巻で、後者二冊もベスト200位内に入っているのである。完走を誓ったからには根性を入れて読むしかあるまい。

     で、読んでみたわけだが。

     序盤こそスローモーであるが、事態が動き出すと、読む手を止めるのがもったいなく思えるくらいの、実にスリリングなスパイ小説の傑作である。出勤時にバスの中で読み始めたのだが、会社の休み時間を全部潰し、帰りがけにファミリーレストランでウーロンハイを一杯やりながら、読んで読んで読みまくり、一日で完読してしまった。あんな分厚い本をである。ジョン・ル・カレの文章は、他の作品を読んだときにも思ったが、とにかくスローで重厚で「もっさり」した感覚でありながら、気がつくと流れに飲み込まれており、時速五キロで走るロードローラーが、障害物をことごとく粉砕していくような独特な読み応えがあるのだ。

     本書「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」も、くたびれた老スパイであるジョージ・スマイリーの敗戦処理日記か、英国情報部、ひどいことになっているなあ、と読んでいたら、はっと気づくと熾烈な国際スパイ戦の中で、情報部の中核に潜むソ連の二重スパイを突き止めるため、情報部本体すらも敵に回して、誰にも理解されない闘いをスマイリーといっしょに続けている始末。それも、007映画のようにカッコよくアクションに次ぐアクションで戦うのではなく、ひたすら、記録ファイルで文書をあさり、関係者に話を聞きまくるという「地味」な手段でコツコツと真相に肉薄していくのがたまらない。

     敵役もまたカッコいい。英国情報部をガタガタにするこの陰謀を企んだのは、暗号名「カーラ」としてしか知られていないソ連の大物スパイなのだが、こいつがまた、スマイリーの回想シーンにしか登場してこないのだ。そのくせ、異様なほどの存在感。スパイ小説の悪役はたくさん読んだが、その中でもとびきりの「こいつはいったい何を考えているんだろう」と思わせる不気味なやつなのである。「寒い国から帰ってきたスパイ」で、英国情報部の作戦担当者としてあんな極悪非道な作戦を立案したプロ中のプロであるスマイリーを、敵地で逮捕されて下部組織が壊滅させられた状態でありながら、軽々と手玉に取るようなすごい男。

     もうたまらんね。第一部に当たる本書では、スマイリーと、カーラの支配下にある二重スパイとの熾烈な闘争だけで終わってしまうのだが、この英ソの二大知能の再びの激突を期待してしまうではないか。というわけで、読後すぐにわたしはアマゾンで「スクールボーイ閣下」と「スマイリーと仲間たち」もポチってしまったのであった。早川文庫、電子書籍とはいえけっこうお高かった。反省している。
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    ~ Comment ~

    Re: 宵乃さん

    宿敵との決着がつくわけですから、「スマイリーと仲間たち」の映画化もがんばってほしいところなんですがねえ。

    このコロナ禍がきたら無理かもしれませんなあ……。

    高校生の時はめちゃくちゃ読んでましたが、たぶん高校生の時にル・カレのこれ読んでも面白くなかったと思う(笑)

    三部作でしたか

    それじゃあ映画も…と思って調べたけど、続編企画進行中みたいな記事で一番新しいのが2017年でした。企画倒れかな?

    >時速五キロで走るロードローラーが、障害物をことごとく粉砕していくような独特な読み応え

    あはは、よくわからないけどすごい作品なんですね。小説は最近はさっぱり読んでませんが(なろう系を一作品ちまちま読んでるくらいで)、高校生の頃に読書に没頭している時の感覚を思い出しました。
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