「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
4 天使を吊るせ(完結)
天使を吊るせ 3-1
3
わたしは「麗澄真理心理学研究所」の建物に付属している駐車場に車を停めた。だだっ広い駐車場に、わたしのビートル以外にも六分の入りで車が停められていた。
初めて来るところだが、場所はすぐにわかった。こんな奥多摩のはずれにこんなばかでかい建物があったら、どんな頭の悪い人間だってすぐにわかる。
車を降りて、とっくりと建物を見た。
意外と、建物の感じ自体は悪くなかった。新興宗教と聞いて、もっと悪趣味なものを想像していたのだが、それは裏切られたといってよかった。
森林を切り開いた平地に、ガラスとコンクリートを微妙な配置で按配した、現代的で芸術的な建物が、周囲の風景との調和を保ったまま鎮座している。高さは、十階建てのビルというところだろうか。慎ましやかに、かつ記憶に残る大きさを具体化したらこうなるだろう。鉛色の空の下にモノトーンの建物を置いていながら、なおもそれは理性と常識を守る城壁でもあるかのごとき錯覚を見るものに起こさせる。
『桐野さんには、この団体がどんな思想を持っているかまではあまり詳しく教えないほうがいいでしょう』
あの日、サイゼリヤで北村はそういっていた。
『潜入調査というからには、実際に中に入って教育を受けるということをやってもらわないといけないからです』
中に入る。要するに入信するということだ。北村は、意味にこだわって『入会』という言葉を使っていたが。
こんなばかでかい建物を建てられる団体に入って、目的を隠してうまくやっていけるものだろうか。灰色の空のもと、わたしは不安を隠せなかった。
わたしはのろのろと建物に向かって歩いていった。
よけいな知識は持たなくていい、と北村はいっていたが、なにも知らないで虎穴に入っていくのはただのバカだろう。虎子を得る前に親虎に食い殺されてしまう。
というわけで、わたしはインターネットでこの心理学研究所とやらについて調べてみた。最近のネットの情報集積度といったらすごいものがあるが、探してみても通信教育の広告文に載っているような表面的なことくらいしかわからなかった。なぜ森村探偵事務所はわたしに白羽の矢を立てたのだろう?
透明な自動ドア越しに内部の様子をうかがうと、清潔そうなロビーで、何人かの老若男女が忙しげに動き回っていた。
わたしは自動ドアを開けて中に入った。
人々がいっせいにこちらを見、わたしはどぎまぎしてしまった。
受付の若い女性が、にこりと微笑んだ。
わたしは「麗澄真理心理学研究所」の建物に付属している駐車場に車を停めた。だだっ広い駐車場に、わたしのビートル以外にも六分の入りで車が停められていた。
初めて来るところだが、場所はすぐにわかった。こんな奥多摩のはずれにこんなばかでかい建物があったら、どんな頭の悪い人間だってすぐにわかる。
車を降りて、とっくりと建物を見た。
意外と、建物の感じ自体は悪くなかった。新興宗教と聞いて、もっと悪趣味なものを想像していたのだが、それは裏切られたといってよかった。
森林を切り開いた平地に、ガラスとコンクリートを微妙な配置で按配した、現代的で芸術的な建物が、周囲の風景との調和を保ったまま鎮座している。高さは、十階建てのビルというところだろうか。慎ましやかに、かつ記憶に残る大きさを具体化したらこうなるだろう。鉛色の空の下にモノトーンの建物を置いていながら、なおもそれは理性と常識を守る城壁でもあるかのごとき錯覚を見るものに起こさせる。
『桐野さんには、この団体がどんな思想を持っているかまではあまり詳しく教えないほうがいいでしょう』
あの日、サイゼリヤで北村はそういっていた。
『潜入調査というからには、実際に中に入って教育を受けるということをやってもらわないといけないからです』
中に入る。要するに入信するということだ。北村は、意味にこだわって『入会』という言葉を使っていたが。
こんなばかでかい建物を建てられる団体に入って、目的を隠してうまくやっていけるものだろうか。灰色の空のもと、わたしは不安を隠せなかった。
わたしはのろのろと建物に向かって歩いていった。
よけいな知識は持たなくていい、と北村はいっていたが、なにも知らないで虎穴に入っていくのはただのバカだろう。虎子を得る前に親虎に食い殺されてしまう。
というわけで、わたしはインターネットでこの心理学研究所とやらについて調べてみた。最近のネットの情報集積度といったらすごいものがあるが、探してみても通信教育の広告文に載っているような表面的なことくらいしかわからなかった。なぜ森村探偵事務所はわたしに白羽の矢を立てたのだろう?
透明な自動ドア越しに内部の様子をうかがうと、清潔そうなロビーで、何人かの老若男女が忙しげに動き回っていた。
わたしは自動ドアを開けて中に入った。
人々がいっせいにこちらを見、わたしはどぎまぎしてしまった。
受付の若い女性が、にこりと微笑んだ。
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~ Comment ~
いい雰囲気な場所だと思うんですが・・・
受付さんもやさしそうだし。
でも、実際は怖いところなんでしょうか。
麻薬取引所などの類でしょうか。
ふむ・・・
きになります。
受付さんもやさしそうだし。
でも、実際は怖いところなんでしょうか。
麻薬取引所などの類でしょうか。
ふむ・・・
きになります。
- #699 ネミエル
- URL
- 2010.01/10 00:11
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ネタバレになりますが、わたしはこの小説で、そうした宗教組織の二面性を書くつもりでいます。
開放的な面と排他的な面と。もしくは、光の面と闇の面と。
その相克の中で桐野くんがヒロインとドラマを演ずる予定なのですが……自分で手に負える以上のことに手を出してしまったかな、という不安が日に日に大きくなりつつあり(^^;)