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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ168位 思考機械の事件簿 ジャック・フットレル

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     もしかしたらミステリ初体験はこの「思考機械」の児童向けリライトだったかもしれない。それほどまでに、この名探偵ヴァン・デューセン教授のデビュー作「十三号独房の問題」は名作だ。「まったくの徒手空拳状態で死刑囚独房からいかにして脱出するか」という謎の困難さ、常に読者の想像の上を行く展開、名探偵のカッコよさ、後味のよい解決、あの毒舌家のハーラン・エリスンが「もっとも好きな短編」に選んだのもうなずける。ちなみにエリスンによればこの短編とどちらを選ぶかで最後まで悩んだのが乱歩の「人間椅子」だったそうな。

     とはいえ、「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」という位置づけから、日本では東京創元社の三冊の短編集くらいしか、まとまってまともに読める本がなかった。しかも、この短編集には、「十三号独房の問題」が収録されていなかったのだ。「世界推理短編傑作集1」に収録されているから、それを買ってくれ、ということだったらしい。鬼か、東京創元社! それに、その三冊の短編集がカバーしているのは、全作品のうちの半分程度だったのである。まあ、しかたないから、それを相互貸借で取り寄せてもらって、読めない分は妄想するか……と思っていたら、2019年になって、作品社よりとんでもない本が発売された。「思考機械 完全版」全二巻である。作者であるジャック・フットレルとともに、沈没したタイタニック号の中で眠っている未発表作品を除く、現段階で地上にあるすべての「思考機械」、名探偵オーガスタス・S・F・X・ヴァン・デューセン教授の冒険譚を集め、編集し、個人完訳した恐るべき労作である。訳者は、リンクさせていただいている、平山雄一先生。これぞ、真のマニアの仕事である。真の「偉業」である。このピラミッドに刻まれるほどの努力と功績に比べれば、たかだか300冊の日本語のミステリを読むことに足かけ5年かけて終わらない、というわたしのこの挑戦など、「半可通」の徒が行った「児戯」に類するものであることはいうまでもなかろう。土浦市立図書館の蔵書にたまたまあったので、喜び勇んで借りてきて、重ねると正月のおせちの重箱二段重ねくらいのボリュームになる本を、押し頂くようにして激読!

     で、読んでみたが、いや、実に面白かった。ヴァン・デューセン教授、まことに愛嬌のあるいいキャラクターなのだ。学問のこと以外関心がないような面をしながら、難事件が起こるとひょいひょい相談に乗るし、与えられたデータから演繹的に推理するスタイルが、しょっちゅう、「データにない事実」や、ワトスン役を務めるハッチンソン・ハッチ記者が「伝え忘れていたこと」などで頓挫しては「こんなはずがない」とかいってみたり、常に論理先行で、その論理に従って事態を解釈するので、それが企まずして「仮説のクラッシュアンドビルド」になっていたりして、読んでいてまったく退屈しなかった。それを、常に苦虫を嚙み潰したような不機嫌そうな面で、頭脳に比してあまりにも虚弱な肉体でやるわけだから、想像するだけでも楽しい。また、教授はその貧弱な肉体でもって、たった一人で冒険をしたりもするのであなどれない。「空き家の謎」なんて、そんな虚弱な教授が本気でアクションをする異色譚で、これが読めただけでも「思考機械 完全版」の意義は大きい。

     個人的なベストとなると、月並みではあるが、やはり「十三号独房の問題」と「命にかかわる暗号」、それに「銀の箱」になるかな。フットレル先生、趣味かどうかは知らないが、「悪女の犯人」が大好きらしい。しおらしい顔をして、控えめな物腰の美人が、とんでもなく大胆な犯行をしたりするから、「ギャップ萌え」の人にはたまらないんじゃないかな、とか考えるくらい。いやはや、時代は移っても、人間の本性はかわらないものでありますのう。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    アイデアといいスケールといい、当時の「ホームズのライヴァルたち」の中でも場外ホームランですよね「十三号独房」。

    それだけでもすごいのに、もっとすごいことには、当時はこれが新聞連載の「トリック当て」小説で、「靴を磨いておいてくれ」のひとことから、教授の脱出トリックのすべてを見抜いて賞金をゲットした強者が存在する、と「思考機械」完全版には書いてありました。いやはや、平山先生、その賞金入手者の投稿ハガキまで訳すとは、まさにマニアの鑑ですなあ……。

    NoTitle

    だいぶ昔ですがポールさんにこの「十三号独房の問題」を薦めていただきました。
    面白かったなあ。
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