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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)

    海外ミステリ176位 九尾の猫 エラリイ・クイーン

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     クイーンといえば、デビュー作の頃と中期以降の頃では、ほんとに同じ人間なのかと思うくらいに人物造形から解決する事件までまったく違っていることがミステリファンの間では有名であるが、その象徴とでもいえる作品。なにしろ、本作でエラリーが対決することになるのは、当たるを幸い手当たり次第とでもいうべき通り魔殺人事件であり、謎のサイコキラー、「猫」なのだ。最初に読んだときは面食らった。まさになんだよこれ、である。どう考えても名探偵が対決していい相手ではない。警察の仕事であり、地道な足の捜査と組織力がモノを言うタイプの事件である。むろん、それは作者のクイーンもわかっており、きちんとエラリーが活躍できるようにプロットをすすめ、きちんと論理的に収斂させ、最後ではひねりも見せてくれるのだが、それでもミスキャストなんじゃないのか、と思わざるを得ない。ヘンテコなミステリなのである。内容をだいぶ忘れたが、分厚いハヤカワ文庫の新訳版を、覚悟を決めてバーミヤンで紹興酒をなめなめ再読。

     で、読んでみたわけであるが、クイーンのリーダビリティの高さを思い知らされた。本書では、こともあろうに警察の指揮を取らねばならなくなったわれらがエラリーが、連続通り魔殺人鬼におびえてパニック寸前の悪夢のようなニューヨークでもって、推理以外にやらねばならんことを山ほど抱えて、もう、苦労、苦労、苦労のうえに心労までくっつくありさまである。なにしろ、ある程度範囲が絞られた、論理が通じる人間たちの中から犯人を指摘することには長けているのが名探偵というやつではあるが、今回は「手がかりがまったくない犯人」を、「ニューヨーク全市から探し出す」のだ。手も足も出ないエラリーを、周囲が生ぬるく見守るのだが、その見守り自体がエラリーにとっては針のむしろである。そんなエラリーの苦悩を、同じく苦悩しながら書いている作者のクイーンの顔が透けて見える。その苦悩ぶりが、「読んでいてたまらなく面白い」わけだ。ページをめくる手が進む進む。

     ラストのある種のどんでん返しを読み、思ったのだが、本書で、クイーンは、「探偵小説に対する警察小説の優位」を認めて、そのうえで「開き直って」しまったのではないか。「もうこんなこと考えるのやめた!」というやつ。名探偵が「責任」を背負う必要がどこにある、それも一種の傲慢ではないか、と考えた時に、やってくるのは名探偵の「警察化」なのだ。次から次へと雨後のタケノコのようにわいてくる事件を、「責任」なんぞ感じる暇もなく、犯人を挙げて書類を処理して、ベルトコンベア式にひたすら裁判所へ送り込んでいく巨大な官僚システム、「警察」。それと同様のものである、と自ら宣言することにより、名探偵は自らのリアリティの欠如という問題に突き当たる。だが、それでいい、というのがクイーンの答えだ。

     そんな答えでクイーンは納得したのかといえば、まったく納得できなかった、というのが本当のところだろう。その後もエラリーの冒険は、何人ものゴーストライターを使ってまでも執拗に書き続けられることになる。クイーンはクイーンで、自らの雑誌「EQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン)」でもって、あらゆるタイプのミステリを取り上げ、サポートし、掲載した。その中には「ハードボイルド」も「警察小説」も存在するのである。おそらく、この「EQMM」誌がクイーンの究極的な回答であろう。「自分には書けないから、ほかの人に書いてもらい、自分はそれらのサポートに徹する」というやつである。そしてその作戦は成功した、と思う。百年後、クリスティの作品は「古典」として残るだろうが、クイーンの作品は残るまい。だがエラリー・クイーンの名は永遠に残る。それでいいのだ。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    プロットを立てているのはクイーンですが、有名どころではたとえば第27作「盤面の敵」を書いたのはSF作家のシオドア・スタージョンらしいです。ほかにも複数の代作者がいるみたいですね。

    中には、執筆担当のマンフレッド・リーが衰えてきた50年代末ごろからの作品は、ダネイがプロットだけ立てて、あとは全部ゴーストだ、とかいう話もあって、なにが本当なのかもよくわからないらしいです。

    闇は深いですなあ。

    NoTitle

    ありゃ末期クイーンってゴーストライターだったんですか。
    末期まで読み込んでいないのであまり気にも留めていませんでした。
    エラリー・クイーン・プロダクションって感じですかね。

    Re: 椿さん

    たしかに日本語にするとそうなんだけど、「心地よく秘密めいた場所」って、タイトル詐欺もいいところだよなあ、と思う(笑)

    末期のころのクイーンは、誰がゴーストライターなのか、とか考えながら読まなくちゃならないからほとんど読んでませんね……。

    NoTitle

    クイーンの作品は、なぜか「心地よく秘密めいた場所」から入ったという思い出が。タイトルに引かれたのかもしれませんがスタートを間違えた感が。

    この作品も含め、一度読んでみたいなと思うものは多いので、また再挑戦してみたいものです^^
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