東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ176位 スマイリーと仲間たち ジョン・ル・カレ
その晩、わたしは早く寝るつもりだった。寝る前にスマホで、キンドル版の青春柔道漫画「もういっぽん!」の最新刊に軽く目を通すつもりだった。ボタンを押し間違えて「スマイリーと仲間たち」を開いてしまった。なんとなく読み始めた。「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」「スクールボーイ閣下」の項に書いた通り、もちろん初読である。
覿面だった。わたしは徹夜でぶっ通しで本書を読み、ル・カレの魔術のようなストーリーテリングに翻弄され、英国情報部「サーカス」から追われ、不仲な妻と半分世捨て人みたいに暮らしているジョージ・スマイリーと、スマイリーの宿敵でソ連のスパイの最高責任者であるカーラとの、事実上の最終決戦を、その終結まで見届けてしまった。悔いはないけど、空が白みかけているのがなんともなあ。
というわけで、「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」「スクールボーイ閣下」と読み進めてきた、ル・カレの畢生の三部作の結末にふさわしい、強烈なまでに面白いスパイ小説の傑作である。でも、この面白さは、ある程度ル・カレをはじめとした地味なテクノクラート型のスパイ小説を読んでないとわからないかもしれない。特に、これといったアクションシーンが皆無な作りは、「007」や「ジェイソン・ボーン」が好きな人には肩透かし以前に読むのが苦痛なだけだろう。
この「スマイリーと仲間たち」という小説は、「巡礼(ピルグリム)」小説である。イギリスで殺された亡命エストニア人が伝えようとしていたメッセージを求め、もう老年の域にさしかかっているスマイリーが歩く。歩く。ひたすらに歩く。そこから、しだいにカーラという男の弱点が浮かび上がってくるのだ。
「仲間たち」という言葉もそうとうにひねくれた使い方をしている。英国情報部のプロ中のプロであるスマイリーが、気心の知れた仲間である部下を自在に動かして……という小説ではまったくないのだ。読んでいくと、「仲間たち」とは、スマイリーが足取りを追う、「何の因果かスパイ活動なんかに足を突っ込んでしまったみじめな男女たち」であり、その象徴でもあるカーラその人だということに気づかされ、イギリス人のシニシズムに慄然とする。
結末も渋い。凡百の作家であれば、「この熾烈な闘争により、英国情報部は体制を一新し、スマイリーは再び責任者として……」となるだろうが、ル・カレはそんなことはしない。カーラとの勝負に決着がついても、相変わらず情報部はガタガタで、狩りを終えたスマイリーは丁重に組織から放り出されるのだ。ぶっちゃけた話、スマイリーもカーラも、「前世の遺物」なのであり、今回の事件も、「一つの時代の終わり」を象徴する出来事にしかすぎないのである。なんという無常観。
イギリス本国のほうでは、「寒い国から帰ってきたスパイ」よりも、この「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」から始まる三部作のほうが評価が高いらしい。さもありなん、だ。「寒い国から」はエポックメイキングな作品ではあるがそれだけのものであり、ル・カレの本領はこの「スマイリーと仲間たち」で終わる三部作のほうだろう。いや堪能した。食わず嫌いしないで、もっと若いとき読んでおくべきだったな、ジョン・ル・カレ……。
覿面だった。わたしは徹夜でぶっ通しで本書を読み、ル・カレの魔術のようなストーリーテリングに翻弄され、英国情報部「サーカス」から追われ、不仲な妻と半分世捨て人みたいに暮らしているジョージ・スマイリーと、スマイリーの宿敵でソ連のスパイの最高責任者であるカーラとの、事実上の最終決戦を、その終結まで見届けてしまった。悔いはないけど、空が白みかけているのがなんともなあ。
というわけで、「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」「スクールボーイ閣下」と読み進めてきた、ル・カレの畢生の三部作の結末にふさわしい、強烈なまでに面白いスパイ小説の傑作である。でも、この面白さは、ある程度ル・カレをはじめとした地味なテクノクラート型のスパイ小説を読んでないとわからないかもしれない。特に、これといったアクションシーンが皆無な作りは、「007」や「ジェイソン・ボーン」が好きな人には肩透かし以前に読むのが苦痛なだけだろう。
この「スマイリーと仲間たち」という小説は、「巡礼(ピルグリム)」小説である。イギリスで殺された亡命エストニア人が伝えようとしていたメッセージを求め、もう老年の域にさしかかっているスマイリーが歩く。歩く。ひたすらに歩く。そこから、しだいにカーラという男の弱点が浮かび上がってくるのだ。
「仲間たち」という言葉もそうとうにひねくれた使い方をしている。英国情報部のプロ中のプロであるスマイリーが、気心の知れた仲間である部下を自在に動かして……という小説ではまったくないのだ。読んでいくと、「仲間たち」とは、スマイリーが足取りを追う、「何の因果かスパイ活動なんかに足を突っ込んでしまったみじめな男女たち」であり、その象徴でもあるカーラその人だということに気づかされ、イギリス人のシニシズムに慄然とする。
結末も渋い。凡百の作家であれば、「この熾烈な闘争により、英国情報部は体制を一新し、スマイリーは再び責任者として……」となるだろうが、ル・カレはそんなことはしない。カーラとの勝負に決着がついても、相変わらず情報部はガタガタで、狩りを終えたスマイリーは丁重に組織から放り出されるのだ。ぶっちゃけた話、スマイリーもカーラも、「前世の遺物」なのであり、今回の事件も、「一つの時代の終わり」を象徴する出来事にしかすぎないのである。なんという無常観。
イギリス本国のほうでは、「寒い国から帰ってきたスパイ」よりも、この「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」から始まる三部作のほうが評価が高いらしい。さもありなん、だ。「寒い国から」はエポックメイキングな作品ではあるがそれだけのものであり、ル・カレの本領はこの「スマイリーと仲間たち」で終わる三部作のほうだろう。いや堪能した。食わず嫌いしないで、もっと若いとき読んでおくべきだったな、ジョン・ル・カレ……。
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