東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
海外ミステリ179位 呪われた町 スティーヴン・キング
いわずと知れたスティーヴン・キングによる「吸血鬼もの」の決定版であり、読み手からの評価も高い、モダンホラーの傑作中の傑作であるそうな。「そうな」と書いたのは、本を買ったのはかなり前だが、どうも手に取る気がしなくて積読のままだったからだ。「ファイアスターター」の項でも書いたが、わたしは別にスティーヴン・キングは嫌いではない。「ファイアスターター」のほかにも「IT」とか「ニードフル・シングズ」とか「トミーノッカーズ」とかいろいろ読んだし、世評はそれほど高くないが「ダーク・ハーフ」なんて大好きである。それでも、この「呪われた町」と「ミザリー」だけはどうしても読む気がしなかった。自分でもなぜだかよくわからん。「吸血鬼を吊るせ」なんて小説書いたくせに、この作品を読まなかったというのは、どう考えてもダメだろう。この企画をきっかけに、思い切って挑戦。
読んでみたわけだが、うん、プロローグから、どこを切ってもスティーヴン・キングだ。何気ない描写をちらっと読んだだけでキングが書いたものだと一発でわかる。内容も、ものすごく正統派の吸血鬼もの……ということになっているが、キングがやりたかったのはむしろ、「宇宙からの侵略者が町を制圧」というタイプの、B級SFモンスター映画だろう。それを「吸血鬼」に戻し、アメリカの田舎町の荒廃ぶりとリンクさせ、過剰なまでのエピソードを添えて美しく読みやすい文体で語ったところに、キングの成功の秘訣がある。吸血鬼に杭を打ち込むシーンなんかもうグロくてねちっこいにもほどがあるシーンなのだが、そこを一幅の絵画のように読ませてしまう、もうこれは「天才」の技としか思えない。吸血鬼ものでは「奴らは渇いている」のマキャモンもがんばってはいるが、マキャモンはがんばりすぎたのだろう。それにしても「奴らは渇いている」絶版で入手困難なのか。早川か新潮あたり、拾わないかなあ。ロサンゼルスが丸ごと吸血鬼に乗っ取られる、やたらと派手で面白い傑作なんだが……。
話を戻すと、この小説におけるキングのやり方は、出る犠牲者出る犠牲者、ことごとくが「欠損家庭」になるように選んでいるところが実にあざとい。作中で重要な役割を果たす、マーク・ペトリー少年や、ベン・ミアーズといった主要登場人物の処理などを見ているとよくわかる。キングにとって、現代アメリカの抱える問題のもっとも明らかなあらわれは、「欠損家庭」であった。どの作品においても、執拗なまでに欠損家庭が描かれ、それが物語のキーになっている。キングの小説に普遍性があるとしたら、それがゆえであろう。アメリカの問題を飛び越えて、「欠損した家庭における弱者に対する暴力」が恐怖を生み、そして恐怖はじわじわと拡散し浸透していき、ついには共同体の崩壊をもたらす。本書における「主人公」であるアメリカの田舎町、セイラムズ・ロット自体が、ひとつの「欠損家庭」としてキングの目には映っているのかもしれない。町の「父性」を象徴しているはずの保安官、パーキンズ・ギレスピーの、本書の結末近くでの選択と決断は、「欠損家庭」としてのセイラムズ・ロットのありようを示している。
まあもっとも、読者としてはそんなことを考えずに、この「セイラムズ・ロット」とぃう町が、マーステン館にひそむ「悪」の前に、じわじわと敗れていって崩壊を迎えるさまをぞくぞくしながら楽しめばいいのであって、それがエンターテインメントとしてのホラーというものであろう。キングの紡ぎ出す恐るべき「ある種のユートピア」は眩暈を感じるものであるし、その後のホラー小説やホラー映画を考えると、すでに「古典」の域に達しているといえる。誰かジョナサン・ジョースターを呼んで来い!
読んでみたわけだが、うん、プロローグから、どこを切ってもスティーヴン・キングだ。何気ない描写をちらっと読んだだけでキングが書いたものだと一発でわかる。内容も、ものすごく正統派の吸血鬼もの……ということになっているが、キングがやりたかったのはむしろ、「宇宙からの侵略者が町を制圧」というタイプの、B級SFモンスター映画だろう。それを「吸血鬼」に戻し、アメリカの田舎町の荒廃ぶりとリンクさせ、過剰なまでのエピソードを添えて美しく読みやすい文体で語ったところに、キングの成功の秘訣がある。吸血鬼に杭を打ち込むシーンなんかもうグロくてねちっこいにもほどがあるシーンなのだが、そこを一幅の絵画のように読ませてしまう、もうこれは「天才」の技としか思えない。吸血鬼ものでは「奴らは渇いている」のマキャモンもがんばってはいるが、マキャモンはがんばりすぎたのだろう。それにしても「奴らは渇いている」絶版で入手困難なのか。早川か新潮あたり、拾わないかなあ。ロサンゼルスが丸ごと吸血鬼に乗っ取られる、やたらと派手で面白い傑作なんだが……。
話を戻すと、この小説におけるキングのやり方は、出る犠牲者出る犠牲者、ことごとくが「欠損家庭」になるように選んでいるところが実にあざとい。作中で重要な役割を果たす、マーク・ペトリー少年や、ベン・ミアーズといった主要登場人物の処理などを見ているとよくわかる。キングにとって、現代アメリカの抱える問題のもっとも明らかなあらわれは、「欠損家庭」であった。どの作品においても、執拗なまでに欠損家庭が描かれ、それが物語のキーになっている。キングの小説に普遍性があるとしたら、それがゆえであろう。アメリカの問題を飛び越えて、「欠損した家庭における弱者に対する暴力」が恐怖を生み、そして恐怖はじわじわと拡散し浸透していき、ついには共同体の崩壊をもたらす。本書における「主人公」であるアメリカの田舎町、セイラムズ・ロット自体が、ひとつの「欠損家庭」としてキングの目には映っているのかもしれない。町の「父性」を象徴しているはずの保安官、パーキンズ・ギレスピーの、本書の結末近くでの選択と決断は、「欠損家庭」としてのセイラムズ・ロットのありようを示している。
まあもっとも、読者としてはそんなことを考えずに、この「セイラムズ・ロット」とぃう町が、マーステン館にひそむ「悪」の前に、じわじわと敗れていって崩壊を迎えるさまをぞくぞくしながら楽しめばいいのであって、それがエンターテインメントとしてのホラーというものであろう。キングの紡ぎ出す恐るべき「ある種のユートピア」は眩暈を感じるものであるし、その後のホラー小説やホラー映画を考えると、すでに「古典」の域に達しているといえる。誰かジョナサン・ジョースターを呼んで来い!
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